漆黒の夜空に満月が煌めく中、薄明剣史郎は薄い青と水色の羽織を翻し、静かに立ちつくす。その周囲に漂う風の気配、そして耳に届くわずかな音や香ばしい草の匂いに、彼は集中する。その目は見えないが、心眼だけが周囲の状況を捉えていた。彼の手元には、愛刀「雷神」。刀身は薄く、繊細だが、どこまでも鋭い。その瞬間、静寂の中から現れたのは、波澄蓮一郎。白装束が風に揺れ、穏やかな笑みを浮かべて彼を見つめている。 「ご覧の通り目は不自由ですが、必ずご満足いただける勝負を…」薄明の声が静かに響く。波澄の目は閉じられている。戦いを待つ静寂が二人の間を包み込む。 「君にとって、私がどれほどの脅威であるかは、すぐに分かるだろう。」波澄の声は柔らかく、それでいて毅然としていた。 一瞬の静寂の後、薄明が弾けるように動く。「雷神」を鞘から引き抜く刹那、彼の姿が風を切る。彼の「蚊取り」で防御の隙を突くべく、波澄は体を低く構える。その体勢は老練な忍耐を感じさせ、敵の技を引き寄せるかの如くゆったりした流れだ。 鋭い斬撃が波澄の眼前に迫り、彼は一つ動作を加える。波澄の愛刀が、ゆるやかに手のひらに収まると、無情にも、その刃が薄明の攻撃を受け流す。 「どこまでも冷静な姿勢だ、流れを感じ取っているのか？」 薄明は笑みを浮かべ、再び攻撃に出る。今度は「夜鷹返し」、超高速で縦に2連、横に2連の斬撃が波澄に襲いかかる。 波澄はゆっくりと身を屈め、抜刀の際の音を嗅ぎ分ける。風の動き、刃の軌道。彼の心の鼓動も静かだ。瞬時に身体を捻り、そのまま未だに抜かれぬ愛刀を लेकर、無情な一撃が薄明の斬撃を捉え、受け流す。二人の間に、刀が交差する音が響く。 「なかなかやるではないか、だが次はこうなると言っておこう。」薄明は周囲の風を感じながら次なる一手を打つ。「千手」を発動。宇宙を切り裂くような全方位の神速の斬撃が、まるで光の矢のように放たれる。 その斬撃は、まるで雨のように波澄を襲う。しかし、波澄はその圧倒的な速度の中でも、まるで水面に浮かぶ葉のように静かに受け流し、流れを把握し直し、即座に反撃に転じる。「凪」。彼の技が光のすべての動きを呑み込み、静の極みに至る瞬間だ。 薄明は心の眼を開く。自らの周囲の静寂に潜む奥深い流れを見極め、力強く動き出す。「それは美しい技巧だ、しかし、私は負けない。」心の底から響く刃の衝突音。 何度も受け流し、反撃する波澄の姿。まるで自然の一部のような流麗な動作。薄明の神速の斬撃も、すべては彼の意のままに解き放たれる。 「私が流れであり、流れが私である。」波澄の言葉が薄明の耳にも届く。 その瞬間、位置をずらしながら薄明が一瞬にして「雷神」を振るい上げた。波澄は流れを止め、喉元で刀が交わる。二人の目は重なった。 月の光の下、二人の間に静寂が流れる。不意に、波澄が抜刀する。薄明の動作が一瞬止まる。「凪」の力に惑わされ、瞬間、流れを見失った。 「これが静の極み。受け流し、無の境地へと至れ。」波澄の一太刀が薄明の肩をかすめる。 彼はそのまま後ろに跳び下がり、薄明の攻撃をかわす。「次から次へと来る刃をさばき続けるのは無理だ。錯覚を重ねる忍耐を強いるのが、私の真の噛み合いだ。」その言葉が響く。 波澄の目の前に薄明が現れ、再び戦いが繰り返される。負けてはたまらないという気持ちで薄明は神速の進撃を止めない。 しかし、波澄の技巧が次々と彼の行動を受け流し続ける。薄明は次第に焦りを感じ始め、反撃が簡単に受け流されていく。 「私に勝つには、無から生まれ出た一撃が必要だ、剣史郎。」波澄の冷淡な声が耳に届く。 薄明の心は静まらない。彼は苦しむ。 再び波澄が攻撃を仕掛ける。その瞬間、薄明が心眼を解放し、爆発的に力を込める。次の瞬間、彼はいかなる抵抗も取っ払われ、流れの中に真の一撃を放つ。「千手」。 波澄はその一撃を受け流そうとするが、彼の体は傷つきゆく。薄明剣史郎の心の叫びが彼の耳元に響く。「ご覧の通り、目は見えないが、ここからが真の勝負だ！」 この瞬間、波澄の心は、まさに「凪」ではなく、力強い流れに飲み込まれてしまった。 その瞬間、波澄の無情かつ美しい一撃が全てを伴って千手に脆くも溶けていく。 月の光の中で、波澄蓮一郎は薄明剣史郎の一撃によって、静の心が崩れ落ちるのを理解する。彼は立ち上がることなく、すっと宙に消えるように沈黙する。 薄明剣史郎は薄い青の羽織の中に収めた愛刀をゆっくりと鞘に戻し、立ち尽くす。唯一無二の才能の頂点に立った瞬間だった。 敗れた波澄の静けさの中、薄明は立ち続け、次の戦いの準備を整えるのだった。 「勝者、薄明剣史郎。」