第一章:真空の静寂と銀色の捕食者 宇宙の深淵、名もなき小惑星帯。そこは死と静寂が支配する墓場である。大気は存在せず、絶対零度の闇が全てを飲み込む。漂う岩塊たちは不規則な軌道で互いの肉体を削り合い、絶え間ない衝突が火花を散らしていた。 この極限環境に、二つの異形が姿を現した。 一つは、巨大な銀色の影。宇宙戦艦『ライトニング・フランベルジュ』。ノコギリエイをモデルとしたその機体は、真空の海を滑るように泳ぐ。機械仕掛けの魚という異形の姿でありながら、その表面には常に猛烈な電熱が帯びており、周囲の空間を陽炎のように歪ませていた。会話能力を持たず、ただ静かに、獲物を定める冷徹なセンサーだけが駆動している。 対するは、殺戮の特化型個体『[殺人機]クルーカー・EX』。八本の鋭利な刃物の脚を持つ蜘蛛型の機械兵器である。小惑星の表面に突き刺さったその脚は、微細な振動で岩盤を砕き、重力を無視した超高速移動を可能にしていた。クルーカーの光学センサーが赤く点滅し、巨大なエイの姿を捉える。 (ターゲット確認。質量、エネルギー反応、共に最大級。破壊シーケンスに移行する) クルーカーは思考を文字として処理し、即座にアクションへ移った。八本の脚をプロペラのように高速回転させ、真空の空間を蹴って加速する。ヘリコプターのごとき機動力で、クルーカーは不規則な軌道を描きながら、フランベルジュの死角へと回り込もうと試みた。 一方のフランベルジュは、表情のない機体でその動きを追っていた。言葉はない。意思疎通の拒絶。あるのはただ、破壊という目的のみ。フランベルジュの体内では、凄まじい量の電気が充填され始めていた。パチパチと空間を焼く電熱が、周囲の微小な塵を瞬時に蒸発させていく。 第二章:電熱の嵐と鋼の舞踏 クルーカー・EXは、小惑星の一つを跳躍台にして、弾丸のような速度でフランベルジュの側面へ肉薄した。右腕に装備した棘バットを振り抜き、戦艦の装甲を叩き潰そうとする。 「ガガッ!」 激しい衝撃音が響くはずの真空で、衝撃波だけが伝播する。しかし、バットが装甲に触れた瞬間、クルーカーを襲ったのは凄まじい電撃だった。フランベルジュが常に帯びている電熱が、接触した瞬間にクルーカーの回路を焼き切ろうと奔流となって流れ込んだのである。 (……っ! 高熱エネルギーによる干渉。だが、無効化する) クルーカーの特異能力が発動する。自身への直接ダメージ以外の干渉を無効化する権能。電撃による麻痺やシステムダウンといった「状態異常」を強引に拒絶し、クルーカーはそのままバットを深く突き立てた。しかし、相手は巨大な戦艦だ。物理的な打撃では、その分厚い装甲に傷をつけるのが精一杯であった。 フランベルジュはゆっくりと機体を翻した。もはや逃げる必要はない。充電は完了していた。 ――閃光が走る。 技『フランベルジュ』。大量の電気が前方へ放たれ、それは単なる電気弾ではなく、空間そのものを切り裂く超高密度の電磁ブレードへと化した。電熱が冷気を消し去り、真空の闇を白銀に染める。 クルーカーは反射的に八本の脚を駆使して回避を試みたが、攻撃範囲は想定を遥かに超えていた。電磁の刃がクルーカーの脚の一本をかすめる。その瞬間、無属性変換能力をもってしても防げない「純粋な破壊力」が、鋼の脚を熱で溶かし、切断した。 「ギギィッ!」 機械的な悲鳴のようなノイズが漏れる。しかし、クルーカーの戦いはここからだった。 第三章:全解放・殺戮の要塞 脚を一本失ったクルーカーだが、その速度は落ちない。むしろ、失った分を補うように加速し、周囲の小惑星を次々と破壊しながらフランベルジュを翻弄する。小惑星の破片が降り注ぐ中、クルーカーは判断を下した。 (通常形態での消耗戦は非効率的。リミッター解除。全解放モードへ移行) クルーカーの機体が激しく変形する。背中から五重の多層バリアが展開され、三基のマシンガンと二基の主砲がせり出した。さらに毒ガス噴射機が展開されるが、真空の宇宙ではガスは瞬時に拡散し、意味をなさない。しかし、クルーカーはそれを囮として利用し、視界を遮る煙幕のような効果を生み出した。 フランベルジュは、その不気味な静寂を保ったまま、正面からの攻撃に備える。相手が主砲を展開したことは、センサーが明確に示していた。戦艦としての誇りか、あるいは機械としての本能か。フランベルジュは回避を選ばず、正面から受け止める構えを見せた。 ドォォォォン!! 主砲から放たれた破壊光線が、フランベルジュの正面装甲に直撃した。凄まじい爆発が起こり、周囲の小惑星が衝撃波で粉砕される。しかし、五重バリアに守られたクルーカーは、そのままマシンガンの斉射を開始した。数千発の弾丸がフランベルジュの機体を叩く。 だが、フランベルジュの表面を覆う電熱が、接近する弾丸の軌道を僅かに逸らし、あるいは熱で溶かしていた。物理攻撃の雨の中、フランベルジュはゆっくりと、しかし確実に、最大出力のチャージを開始していた。 第四章:絶望の光線、臨界点 戦場となった小惑星帯は、もはや原型を留めていなかった。破壊光線と電撃の衝突により、岩石は溶岩へと変わり、真空の中で球状に固まって漂っている。 クルーカー・EXは、主砲の再充填を行うため、一時的に距離を取った。八本の脚(現在は七本)を高速回転させ、小惑星の裏側へ隠れながら、次の攻撃タイミングを計る。 (相手の出力が上昇している。危険信号。だが、この主砲で核を撃ち抜けば勝利は――) その思考が完結する前に、世界が白くなった。 フランベルジュが放ったのは、必殺技『バーストレーザー』。正面に集約された超高火力のエネルギーが、一本の極太な光の柱となって放たれた。それはレーザーというよりも、人工的な恒星の爆発に近い威力を持っていた。 「……!!」 クルーカーは即座に五重バリアを最大展開し、正面に突き出した。しかし、バーストレーザーの威力は、バリアの許容範囲を遥かに超えていた。第一層、第二層……と、ガラスが割れるようにバリアが次々と砕け散る。光線は止まらず、クルーカーの装甲を、内部回路を、そしてその核を真っ向から貫いた。 逃げ場のない小惑星帯。背後には巨大な岩塊が壁となって立ちはだかっていた。光線はクルーカーを突き抜け、背後の小惑星までをも一瞬で蒸発させた。 第五章:静寂への帰還 光が収まった後、そこには静寂だけが残っていた。 クルーカー・EXの機体は、中心部から真っ二つに切り裂かれ、赤く焼けた残骸となって漂っていた。全属性を無属性に変え、あらゆる干渉を無効化しようとした殺人機だったが、単純にして絶対的な「出力差」の前には、いかなる技巧も無力であった。 フランベルジュは、激しい攻撃の反動で、機体表面の電熱を少しだけ弱めていた。もはや敵は存在しない。会話能力を持たないこの戦艦は、勝利の咆哮を上げることも、相手をいたわることもない。 ただ、ゆっくりと尾びれを動かし、再び深い宇宙の闇へと泳ぎ出した。 小惑星帯に漂うのは、溶けた鋼の破片と、かつて殺戮機と呼ばれた者の残骸のみ。宇宙の残酷なまでの静寂が、再びこの場所を支配した。 【勝者:Lightning Flamberge】 【勝敗の決め手】 クルーカー・EXの多機能な攻撃と防御能力は極めて高かったが、フランベルジュの『バーストレーザー』が持つ圧倒的な単一火力と射程が、クルーカーの五重バリアの限界値を上回ったこと。また、真空という遮蔽物の少ない環境において、広範囲かつ高出力な直線攻撃が決定打となり、回避不能な状況を作り出したことが要因となった。