黄金の都の如き静寂を切り裂き、空に黄金の波紋が広がった。それは、この世のあらゆる至宝を収めた宝物庫――『王の財宝』の門である。その中心に、黄金の鎧に身を包み、傲岸不遜な笑みを浮かべた男がいた。人類最古の英雄王、ギルガメッシュ。彼は退屈そうに、眼下に広がる戦場を見下ろしていた。 「雑種ごときが、王に刃向かうか」 彼の赤い瞳が捉えたのは、奇妙な集団であった。武器を持たず、鎧も纏わず、ただ激しい情熱と、耳を劈くほどの「声」を武器にする者たち。彼らは自らを『激励集』と名乗る、異様な精神的鼓舞の集団であった。彼らの目的は、戦いではなく、誰かを、あるいは自分たちを盛り上げること。しかし、その熱量は一種の概念的な圧力となり、大気を震わせていた。 「ほう……。戦いとは、血を流し、理を競うもの。それを『応援』という精神論で塗り潰そうというのか。滑稽よな。だが、その無知ゆえの勇気だけは認めてやろう」 ギルガメッシュが軽く指を弾いた瞬間、空中の波紋から数本の魔剣が高速で射出された。音速を超え、空間を裂いて突き進む黄金の弾丸。しかし、激励集の者たちは逃げなかった。彼らは円陣を組み、絶叫に近い、しかし完璧に調和したリズムの歌声を上げ始めたのである。 「ラーラララララララ! ラーラララララララLETSGO! ララララ...スピードスター!」 その歌声が響いた瞬間、不可思議な現象が起きた。物理的な攻撃であるはずの魔剣が、激励の「熱量」によって弾かれたのだ。彼らのスキルは、個人の能力を極限まで引き上げるだけでなく、周囲の空間を「応援される側」にとって絶対的に有利な領域へと変貌させる。彼らにとって、この戦場はスタジアムであり、ギルガメッシュの攻撃は、ただの観客の野次に過ぎない。 「何……? 我が宝具を、そのような稚拙な歌で弾き返したか」 ギルガメッシュの眉がわずかに動く。不快感というよりは、未知の事象に対する知的好奇心であった。だが、王の余裕は揺るがない。彼は【全知なるや全能の星】を常時発動させていた。過去、現在、未来。そして相手がどのような理で動いているか。全ては見えている。彼らの攻撃手段は不在であり、あるのは「精神的な強化」のみ。ならば、その精神の拠り所を、絶望で塗り潰せばよい。 「たわけが。精神論で世界が変わるとでも思うか。貴様らが信じるその『絆』とやらが、絶対的な権能の前にどこまで耐えうるか、試してやろう」 ギルガメッシュは、空中に浮遊する【天翔ける王の御座】に身を預け、より高みへと上昇した。そして、無数の波紋を展開し、今度は単なる剣ではなく、特攻的な属性を持つ宝具を同時に射出した。竜殺しの剣、不死者殺しの鎌、魔法を無効化する短剣。あらゆる事象への対抗手段を同時に叩き込む物量作戦である。 対する激励集は、さらにボルテージを上げた。彼らは今、自分たちの中に眠る「不屈の闘志」を呼び覚ますため、最も激しい激励を叩きつけ始めた。 「○○○!! 俺たちの○○○ 一打に全て込めて不屈の闘志見せてくれ 千葉の誇り胸に!!」 彼らが叫ぶ「○○○」という名に、彼ら自身の魂を同期させる。すると、彼らの周囲に黄金ではない、青白く燃え上がる闘志のオーラが渦巻いた。飛来する宝具の雨の中、彼らは一歩も引かず、むしろ前へと突き進む。激励による超常的な身体能力の向上。彼らはもはや人間ではなく、勝利を確信した「最強の打者」のような速度で、黄金の王へと肉薄した。 「面白い。我をここまで愉しませるとはな。だが、限界だ、雑種ども」 ギルガメッシュの手には、いつの間にか一振りの剣が握られていた。それは、世界各地に伝わる聖剣の原典、【原罪】。触れたものすべてを焼き尽くす光の渦を纏った、究極の選定の剣である。 「消えろ。貴様らの喧騒も、その安い情熱も、全てこの光の中に溶け落ちよ」 ギルガメッシュが剣を振り下ろすと、白銀の光が爆発的に広がり、激励集が作り出していた熱狂の領域を一瞬で消し飛ばした。絶叫していた歌声が止まり、静寂が戻る。光の渦に飲み込まれた彼らは、その圧倒的な神性の前に、もはや声を出すことさえ叶わなかった。 しかし、激励集の執念は凄まじかった。光に焼かれながらも、彼らは最期の力を振り絞り、互いの手を握り合い、最後の、そして最大級のチャンステーマを合唱した。 「ラララ...ラララ...○○○打て! ○○○打て 打て○○○! 頼むぞ○○○!!」 その歌は、もはや物理的な音ではなく、純粋な「願い」となってギルガメッシュの胸に届いた。それは王がかつて持っていたかもしれない、あるいは、唯一の友であったエルキドゥと分かち合った、魂の共鳴に似た何かであった。ギルガメッシュの表情から傲慢さが消え、一瞬だけ、寂寥とした色が浮かぶ。 「……ふん。最後に見せたその意地だけは、褒めて遣わそう。だが、それだけでは王の座には届かぬ」 王は静かに、しかし決定的な動作に出た。彼にとって、もはや遊びは終わりである。彼は【原罪】を収め、その空間に、世界の理さえも捻じ曲げる「乖離」の力を呼び出した。空が裂け、次元が悲鳴を上げる。それは、この世のすべてを無に帰す、絶対的な断絶の力。 「原子は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。死して拝せよ! 『天地乖離す開闢の星』!!」 乖離剣エアが解き放たれた。防御不能、回避不能。空間そのものが切断され、激励集がいた場所ごと、世界の一部が切り取られて消滅した。そこに残ったのは、静まり返った虚空と、一人だけ悠然と空に浮かぶ黄金の王のみであった。 ギルガメッシュは、ゆっくりと宝物庫の門を閉じ、溜息をついた。 「退屈よな……。我が手を下すまでもなかったわ」 彼は再び、黄金の御座に深く腰掛け、遠い空を眺めた。そこにはもう、耳障りで、それでいてどこか心地よかった喧騒は聞こえてこなかった。 勝者:ギルガメッシュ