第一章:狂宴の幕開けと絶望の宣告 天空を突き抜けるほどの巨大な円形闘技場。そこはあらゆる次元、あらゆる世界から「強者」が集められた混沌の地であった。観客席はなく、ただ静まり返った殺気だけが漂っている。中央に立つのは、派手な衣装に身を包んだ司会者。彼は高らかに声を張り上げた。 「さあ、紳士淑女の皆様! そして、殺し合う運命に選ばれし戦士たちよ! 本日開催されるのは、シンプルにして最凶の生存競争――バトルロワイヤルである!!」 司会者が腕を広げると、参加者たちが一人ずつスポットライトに照らされた。 「まずは、鋼鉄の絶望! 元は陸上戦艦でありながら、今は呪われた単車へと姿を変えた怪異――『黒疫ノ砲甲単車』! 通過するだけで大地を腐らせ、あらゆるものを汚染する歩く災厄だ!」 重厚な金属音を響かせ、黒い油のような液体を撒き散らしながら、巨大な単車の形をした戦艦が地響きと共に鎮座する。その周囲の地面は瞬時にどす黒く変色し、植物は枯れ、岩は崩落していく。 「次に、海原の咆哮! 神電池を動力源とするホビーロボ、『【嵐のシキガミ】エンリルー』! そして、そのカミヌシである水面たいき! 科学と霊気の融合、激しい嵐を巻き起こす狼の戦士だ!」 可愛らしくも強気な少女、水面たいきが、相棒のロボ狼を連れて不敵に笑う。エンリルーの内部では神電池が青白く脈動し、周囲に静電気が走り始めていた。 「そして、速度の概念を嘲笑う者! 全宇宙最速の男、『マッハ』! 光速などという言葉すら彼には遅すぎる。運命さえも追い抜くその速さは、もはや攻撃を当てることすら不可能に近い!」 一瞬、そこに誰かがいた気がしたが、次の瞬間には別の場所にいた。残像さえ残らない。ただ、空気が切り裂かれた鋭い衝撃波だけが彼の存在を証明していた。 「さらに、古の狂気を纏う翼! 『【黒い衣を纏う竜】黒蝕竜ゴア・マガラ』! その鱗粉を吸い込んだ者は狂竜症に侵され、自我を失い、崩壊する。目を持たぬ竜が視るのは、絶望の景色のみ!」 黒い鱗に覆われた異形の竜が、不気味な鳴き声を上げて翼を広げる。翼膜から舞い散る紫色の鱗粉が、毒霧のように闘技場に広がっていく。 「続いては、高潔なる剣の頂点! 帝国最強の騎士、『ラインハルト』! 聖剣レイドを携え、あらゆる加護を身に纏う剣聖。彼にとって、この世に斬れぬものはなく、避けられぬ攻撃は存在しない!」 燃えるような赤髪の騎士が、静かに礼を尽くす。その佇まいは完璧であり、腰の龍剣が静かに、しかし絶対的な威厳を持って輝いていた。 「最後は、絶望を糧に昇り詰めた骸骨! 『ダスト!サンズ』! 仲間を屠り、LVを上げた孤独な処刑人。背後に浮かぶ幻影パピルスと共に、骨の雨を降らせる死の舞踏を踊る者だ!」 フードを深く被った小さな骸骨が、赤と青の魔眼を怪しく光らせて立っている。彼の背後には、実在する幻覚であるファントムパピルスが、不気味に微笑みながら浮かんでいた。 「ルールは簡単! 最後の一人になるまで殺し合え! それでは、戦いの火蓋を――」 その時だった。突如として、快晴だったはずの空がガラスのように「砕けた」。 パリン、という耳を裂くような音と共に、空間に巨大な亀裂が入る。そこから、真っ黒な、節くれ立った「四肢」が這い出てきた。それは生物とも機械ともつかぬ、虚無から来た異形の腕であった。黒い指が空中で不気味に動き、参加者たちを品定めするように選別する。 司会者は凍り付いた。しかし、次の瞬間、彼の口が、彼の意志とは無関係に開き、機械的な声で喋り出した。黒い四肢が放った不可視の念が、司会者の精神を完全に掌握したのだ。 「……あ、ああ。追加ルールだ。今回のバトロワは、『人が消滅するバトロワ』となる」 司会者の目は虚ろであり、声には感情がなかった。 「戦いによる死とは別に、一章ごとに、参加者の中からランダムに一人が選ばれ、『絶対的に消滅』する。これは回避不能、無効化不可能、超越不可の確定事項である。神であろうと、運命を操る者であろうと、選ばれればこの世から完全に抹消される」 黒い四肢は満足げに指を鳴らし、再び空間の裂け目へと消えていった。しかし、その支配的な圧力は、闘技場全体を絶望の色に染めていた。 「それでは……地獄の宴を始めようか」 第二章:衝突する暴力、汚染される大地 合図と共に、闘技場は爆発的な混沌に包まれた。最初に行動したのは、最速の男・マッハだった。 「遅すぎるな、全員!」 マッハが地を蹴った瞬間、衝撃波で闘技場の床が陥没した。彼は光速を遥かに超えた速度で、まず最も巨大な標的である『黒疫ノ砲甲単車』へと突撃した。常人には見えない、次元さえも飛び越える一撃。雷鳴が轟き、数千万ボルトの電撃が単車の装甲を直撃する。 しかし、黒疫ノ砲単車は微動だにしなかった。重厚な「汚染合金装甲」と「斜め装甲」が物理的な衝撃を逃がし、さらに「術緩和干渉障壁」がマッハの放った雷撃の威力を大幅に減衰させる。 「ガガガ……ッ!!」 単車が不気味な排気音を上げ、通過した軌跡に黒い粘液を撒き散らす。マッハは速すぎるため回避できたが、単車が移動した場所はすべて「汚染エリア」へと変貌した。触れただけでHPが削られ、能力が半減する死の領域。 「チッ、硬いな! だがこの速さに追いつける奴は――」 マッハが再び加速しようとした瞬間、背後から鋭い叫び声が響いた。 『ゴアアアアァァァァァァ…!!』 黒蝕竜ゴア・マガラが、巨大な翼を激しく羽ばたかせていた。舞い上がる大量の紫色の鱗粉。それは風に乗り、闘技場全体を覆う霧となる。マッハは速さで鱗粉を切り裂こうとしたが、鱗粉は物理的な物体ではなく、肺に吸い込まれる「毒」であった。 「げほっ! なんだ……この、感覚は……」 マッハの動きにわずかな淀みが生まれる。狂竜症への感染。全ステータスが著しく低下し始める。最強の速度が、内側から蝕まれていく。 そこへ、冷徹な声が飛ぶ。 「――騎士として、貴方を止めます」 ラインハルトが龍剣レイドを抜き、一閃。その一撃は、マッハが狂竜症で怯んだ一瞬の隙を見逃さなかった。剣聖の「先制」と「最適行動」による、回避不能の斬撃。しかし、マッハは本能的に次元を跳躍し、辛うじて首を斬られるのを回避した。 「ふん、いい反応だ。だが、この場にいる全員が敵だということだ」 ラインハルトが剣を構えた瞬間、足元から鋭い白骨が突き出した。ダスト!サンズによる奇襲である。 「ヘヘッ、騎士様か。いいぜ、お前のケツイ、俺が壊してやるよ」 ダスト!サンズの背後でファントムパピルスが赤色の骨を乱射する。同時に、空中に巨大な龍の頭蓋骨――ガスターブラスターが出現し、強烈な光線を放った。 「《矢避け》!」 ラインハルトは剣を振るい、光線と骨の雨をすべて弾き飛ばした。その精度は神業に近い。だが、ダスト!サンズは不敵に笑い、水色の骨を地面に敷き詰める。動けばダメージを受ける拘束罠だ。 「うっせぇなァ!!」 突然、戦場に怒号が響いた。水面たいきが指示を出し、エンリルーがスキル『大洪水』を発動。闘技場の床が一瞬にして激流に飲み込まれた。水流はダスト!サンズの骨を押し流し、ラインハルトの足場を奪い、そして黒疫ノ砲甲単車の足元を洗う。 「ガガガ……ッ!!」 黒疫ノ砲甲単車は水に浸かっても動じない。むしろ、その汚染された液体が水と混ざり合い、洪水そのものが「汚染された泥流」へと変貌した。汚染エリアが水流に乗って拡大し、参加者たちのHPをじわじわと削り始める。 乱戦の中、ゴア・マガラが狂竜化形態へと移行した。触角が生え、より悪魔的な姿となった竜が、咆哮と共にラインハルトへ飛びかかる。 「……《初見・再臨》。見切りました」 ラインハルトは竜の爪を紙一重でかわし、龍剣レイドを深く突き立てた。黒い鱗を切り裂き、竜の脇腹に深い傷を負わせる。しかし、ゴア・マガラは痛みを無視して猛攻を仕掛け、その強靭な足でラインハルトを吹き飛ばした。 激戦が続く中、突如として空の亀裂が再び開いた。 黒い四肢が、ゆっくりと指を動かす。それは、誰か一人を「選別」する合図だった。 黒い指が指し示したのは――【嵐のシキガミ】エンリルーと、その主、水面たいきであった。 「え? なに、今――」 たいきが言い終える前に、彼女とエンリルーの身体が、ノイズのように激しく点滅した。防御力も、神電池のエネルギーも、いかなるスキルも関係ない。絶対的な消滅。二人の姿は、悲鳴を上げる間もなく、白い光に包まれて粒子となり、消えてなくなった。 【脱落者:なし】 【消滅者:【嵐のシキガミ】エンリルー / 水面たいき】 静寂が訪れる。戦いの中での死ではなく、存在そのものが「消えた」。参加者たちは、このバトロワの真の絶望を悟った。 第三章:浸食される正気と、速度の限界 一人の脱落者が出たことで、戦場に漂う緊張感は頂点に達した。もはや、誰がいつ消えてもおかしくない。だが、生き残るためには、他者を排除し、自らの生存確率を上げなければならない。 「クソッ、あんな理不尽なルールがあるなんてな……」 マッハは激しく咳き込んでいた。狂竜症の影響で、彼の自慢の速度が著しく低下している。通常なら光速を遥かに超える彼だが、今は「ただ速い人間」のレベルまで落ちていた。それでも、一般的に見れば超速であることに変わりはないが、彼にとっては耐え難い屈辱だった。 その隙を、ダスト!サンズが見逃さなかった。 「遅くなったな、速い奴。お前の絶望した顔が見たいぜ」 ダスト!サンズが指を弾くと、マッハの周囲に即死の赤色骨が檻のように組み上がった。同時に、上空から大量のガスターブラスターが同時に発射される。逃げ場のない光の檻。 「……ふん、これくらいで止まれるか!」 マッハは残った全力を振り絞り、次元移動を敢行した。空間をすり抜け、ブラスターの光線を回避。そして一瞬でダスト!サンズの目の前に現れ、雷を纏った拳を叩き込む。 ドガァァァッ!! しかし、ダスト!サンズはあえて避けない。彼は自身のLVを上げるために、耐え、耐え、相手の攻撃を吸収する術を心得ていた。大きな衝撃を受けながらも、サンズはニヤリと笑い、至近距離から骨の槍をマッハの腹部に突き立てた。 「ガハッ……!!」 マッハが吹き飛ぶ。同時に、背後のファントムパピルスが追撃の赤色骨を飛ばし、マッハの四肢を地面に縫い付けた。 そこへ、地響きと共に「黒疫ノ砲甲単車」が突進してくる。もはや戦車というよりは、汚染された鋼鉄の津波だ。単車が通過するたびに、地面からはどす黒いガスが噴き出し、空気さえも毒に変わる。 「汚染超電磁砲……発射」 単車の砲身から、紫色の電磁弾が放たれた。それはマッハがいた場所を正確に撃ち抜き、地面ごと爆破した。爆風と共に、猛烈な「汚染値」がマッハに蓄積される。汚染値が臨界点に達し、マッハの最大HPは強制的に2割まで激減した。継続的なダメージが彼を蝕む。 「ぐ……ああああ!!」 絶叫するマッハ。だが、その惨状を冷徹に眺めていたラインハルトが、龍剣レイドを構えて踏み込んだ。 「もはや、十分な隙です」 ラインハルトの剣が、地面に縫い付けられたマッハの首を正確に捉えた。速度を失い、汚染され、拘束された最速の男に、もはや回避の術はなかった。 シュパッ!! 鮮やかな一閃。マッハの首が宙を舞い、最速の称号を持つ男は、皮肉にも最も無力な状態で絶命した。 【脱落者:マッハ】 「さて……次は誰だ」 ダスト!サンズが骨を鳴らす。しかし、彼の背後から、巨大な影が彼を飲み込もうとしていた。狂竜化したゴア・マガラである。もはや視覚など必要ない。鱗粉による探知で、サンズの座標を完璧に把握していた。 『ゴアアアアァァァァァァ!!』 巨大な顎がサンズを噛み砕こうと閉じる。サンズは反射的に骨の壁を生成したが、狂竜化したゴア・マガラの膂力はそれを紙のように引き裂いた。凄まじい衝撃と共に、サンズの身体が地面に叩きつけられる。 「ガッ……! ちっ、このトカゲ、しつこいな……!」 サンズが苦悶に顔を歪めた瞬間、再び空が砕けた。 黒い四肢が、ゆっくりと指を動かす。今度の標的は――『【黒い衣を纏う竜】黒蝕竜ゴア・マガラ』であった。 ゴア・マガラは、自分が選ばれたことに気づいたのか、空に向かって絶望的な咆哮を上げた。しかし、その声は途中で途切れる。身体の端から黒い粒子となり、崩壊し始めたのだ。どれほど強靭な鱗を持っていようとも、この消滅を拒むことはできない。 竜の巨体が、砂のようにサラサラと崩れ、闘技場の風に舞って消えていった。 【脱落者:なし】 【消滅者:【黒い衣を纏う竜】黒蝕竜ゴア・マガラ】 残ったのは、ラインハルト、ダスト!サンズ、そして黒疫ノ砲甲単車の三人だけとなった。 第四章:絶望の泥濘、魂の削り合い 闘技場は、もはや元の姿を留めていなかった。黒疫ノ砲甲単車が駆け巡ったことで、地面はどす黒い泥沼と化し、至る所で汚染ガスが噴き出している。この「汚染エリア」に滞在し続けるだけで、ラインハルトとダスト!サンズの能力値は半減し、HPが絶え間なく削られていた。 「……ふぅ。この環境は、騎士にとっても心地よいものではありませんね」 ラインハルトは平静を装っていたが、その呼吸は荒い。防御力が高いため耐えてはいたが、汚染値の蓄積は避けられない。彼は龍剣レイドを強く握りしめ、目の前の敵を見据えた。 一方、ダスト!サンズは精神的な崩壊を加速させていた。もともと情緒不安定だった彼にとって、この絶望的な状況はむしろ心地よい刺激となっていた。 「アハハ! いいぜ、最高だ! 全員消えちまえよ! 俺だけが、俺だけの地獄で生き残ってやる!」 サンズが狂ったように笑い、周囲に数千本の白骨を召喚した。もはや精密な攻撃ではなく、面制圧。汚染された泥沼を埋め尽くすほどの骨の森が、ラインハルトを襲う。 「《矢避け》!!」 ラインハルトは舞うように骨の間をすり抜け、一瞬でサンズの懐へ潜り込んだ。聖剣が閃き、サンズの肋骨を切り裂く。 「ぐあっ!!」 だが、サンズは笑っていた。彼の背後のファントムパピルスが、ラインハルトの背中に向けて即死の赤色骨を突き立てたからだ。 「しまっ――!!」 ラインハルトの背中に骨が突き刺さる。普通であれば即死する一撃。しかし、ラインハルトの身体から黄金の光が溢れ出した。 「スキル《不死鳥》。私は、まだ倒れません」 死の瞬間、彼は蘇生した。不死鳥の加護により、傷は完治し、さらに精神的に研ぎ澄まされた状態で復活する。ラインハルトはそのまま、サンズの頭上から龍剣レイドを振り下ろした。 ドゴォォォォン!! 凄まじい衝撃波が走り、サンズは深く地面に埋まった。だが、その衝撃波こそが、黒疫ノ砲甲単車にとっての「合図」だった。 「ガガガ……ッ!!」 汚染された単車が、最高速度で突進してきた。蒸気式機動戦艦の加速力が、汚染エリアの中ですら猛威を振るう。単車は、ラインハルトとサンズをまとめて轢き潰そうと、巨大な質量となって襲いかかった。 「《加護取得》――『剛力』!」 ラインハルトは咄嗟に新たな加護を得て、正面から単車の装甲に剣を突き立てた。金属音が激しく鳴り響き、火花が散る。しかし、単車の「汚染合金装甲」はあまりに硬く、さらに攻撃の一部が反射され、ラインハルトの腕に衝撃が戻ってきた。 「くっ……!!」 そこへ、地中から大量の骨が突き出し、ラインハルトの足を拘束した。復活したダスト!サンズによる連携攻撃だ。 「逃がさねぇよ、騎士様!!」 サンズがガスターブラスターを最大出力でチャージし、至近距離からラインハルトへ向けて放った。同時に、黒疫ノ砲甲単車が「汚染超電磁砲」を最大出力で発射する。 光線と電磁弾。二つの破壊的な攻撃が、ラインハルトという一点に集中した。 ドッガァァァァァァァン!!!!! 闘技場の中央が巨大なクレーターとなり、土煙が舞い上がる。あまりの衝撃に、周囲の汚染ガスさえも吹き飛ばされた。 煙が晴れたとき、そこにはボロボロになりながらも、剣を杖にして立っているラインハルトの姿があった。しかし、彼の身体は限界だった。鎧は砕け、身体中から血が流れている。 そして、再び空に亀裂が入る。 黒い四肢が、静かに指を動かした。今回の標的は――『ダスト!サンズ』であった。 「……あ? 俺が……消えるのかよ……」 サンズは呆然とした表情を浮かべた。彼は多くの仲間を殺し、LVを上げ、運命に抗おうとした。だが、この絶対的な消滅の前では、彼の LV も、魔眼も、すべてが無意味だった。 「ヘヘ……まあ、いいや。パピルス、また後でな……」 サンズと、その背後の幻影パピルスが、同時に粒子となって消滅した。絶叫もなく、ただ静かに、世界から抹消された。 【脱落者:なし】 【消滅者:ダスト!サンズ】 残ったのは、瀕死のラインハルトと、無機質な黒疫ノ砲甲単車の二人だけとなった。 第五章:鋼鉄の絶望、騎士の誇り もはや、戦いは最終局面にあった。闘技場に残っているのは、身体がボロボロに破壊された人間一人と、修復機能を備えた鋼鉄の怪物一台。 ラインハルトは、激しく喘いでいた。汚染値は最大に近い。HPは絶え間なく減少しており、視界もかすんでいる。だが、その瞳に宿る意志の火だけは消えていなかった。 「……これが、最後の戦いとなるか」 対する黒疫ノ砲甲単車は、ダメージをほぼ受けていなかった。たとえ受けたとしても、「自動修復・再生・治療」の能力により、傷口は瞬時に塞がり、元の状態へと戻る。まさに不滅の要塞である。 単車は低く唸りを上げ、最後の一撃を叩き込むべく加速した。汚染された黒い煙を撒き散らし、大地を砕きながら突き進む。その姿は、もはや単なる機械ではなく、死そのものを運ぶ棺桶のようであった。 「《不死鳥の加護・続》……!!」 ラインハルトが叫ぶ。彼は一度目の蘇生を使い切っていたが、さらなる加護により、限界を超えた身体を強引に再起動させた。全身の血管が破裂しそうになるほどの負荷。だが、彼は龍剣レイドを最大まで振りかぶった。 「私は……誰一人守れなかったかもしれぬ。だが、騎士として、ここで屈することは許されない!!」 単車が激突する直前、ラインハルトはすべてを賭けた一撃を放った。聖剣が描き出したのは、黄金の閃光。単車の汚染合金装甲、術緩和干渉障壁、そのすべてを貫こうとする、純粋なる正義の斬撃。 ガギィィィィィィン!! 激しい衝撃が走り、単車の装甲に深い亀裂が入った。初めて、黒疫ノ砲甲単車の内部にあるコアが露出する。自動修復が追いつかないほどの深い切り傷。単車は激しく揺れ、汚染ガスの噴出が不安定になった。 「今だ!!」 ラインハルトが再び剣を突き立てようとした、その瞬間。 空が、砕けた。 もう一度、黒い四肢が現れた。もはや指を動かす必要すらなかった。その四肢は、ただそこに在るだけで、最後の一人を「選別」した。 標的は――『黒疫ノ砲甲単車』であった。 単車は、その無機質な機械音で、初めて「戸惑い」に似た音を発した。自動修復が、再生が、治療が、すべて作動する。だが、それらはすべて「物理的なダメージ」を治すためのものであり、「存在の消滅」を防ぐものではなかった。 ガガ……ガガガ……!! 単車の装甲が、内側から崩れ始めた。汚染エリアを形成していた黒い液体が、逆流するように消えていく。鋼鉄の塊が、砂のように、あるいは煙のように、空間の裂け目へと吸い込まれていった。 【脱落者:なし】 【消滅者:黒疫ノ砲甲単車】 静寂が訪れた。生き残ったのは、地面に膝をつき、肩で息をするラインハルト一人だけだった。 第六章:孤独な勝者への称号 闘技場には、もう誰もいなかった。 かつての喧騒、激しい衝突、そして絶対的な消滅。すべてが消え去り、後に残ったのは、どす黒く汚染された大地と、血に染まった一人の騎士だけだった。 ラインハルトは、ゆっくりと空を見上げた。空の亀裂は閉じ、元の青空が戻っていた。だが、その空が、彼にはひどく空虚に感じられた。 「……勝った、のか」 彼が手にした勝利は、あまりに寂しいものだった。最強の速度を誇った男も、狂気を纏った竜も、孤独な骸骨も、そして主を失ったシキガミも。すべては消えた。自分が強かったから生き残ったのか、それとも、ただ「選ばれなかった」だけなのか。 そこへ、拍手の音が響いた。 「素晴らしい! 実に素晴らしい結末だ!!」 司会者が、何事もなかったかのように姿を現した。黒い四肢に操られていた影響は消えており、彼は再びいつもの軽薄な笑顔を浮かべていた。 ラインハルトは、警戒して龍剣レイドを構えようとしたが、身体が動かなかった。あまりの疲労と汚染の蓄積に、指先一つ動かすのがやっとだった。 「お疲れ様でした、ラインハルト殿! あなたこそが、この地獄のバトロワを勝ち抜いた唯一の生存者だ!」 司会者が大げさに身振り手振りをして、ラインハルトの前にひざまずいた。そして、虚空から黄金に輝く一枚のプレートを取り出した。 「ルールに基づき、勝者であるあなたに、至高の称号を授与しましょう」 司会者がプレートを掲げると、そこには文字が刻まれた。 【称号:絶望を越えし不滅の聖騎士】 「この称号は、あらゆる次元においてあなたの価値を証明し、失われたものを呼び戻す力を持つかもしれない……あるいは、単なる飾りかもしれないね! ははは!」 ラインハルトは、そのプレートを静かに受け取った。彼は称号など欲してはいなかった。ただ、騎士として、最後まで戦い抜いたことだけが彼にとっての救いだった。 「……私は、剣聖でありながら、誰一人守れなかった」 彼は独り言のように呟いた。だが、その瞳には、絶望だけではない、何か新しい決意のような光が宿っていた。生き残った者が、消えた者たちの分まで、正しく生きること。それが、この残酷な遊戯を勝ち抜いた者に課せられた、本当の義務であると彼は悟った。 「それでは、本日のバトロワはこれにて閉幕! 次回の開催まで、さようなら!!」 司会者が指をパチンと鳴らすと、ラインハルトの視界は真っ白に染まった。 彼が次に目覚めたとき、そこはどこであろうか。だが、彼の胸には、あの黄金のプレートが静かに輝いていた。