空を突き刺すほどの巨大な円形闘技場。そこは今、星々を跨いできた強者たちが集い、唯一つの王座を賭けて激突する狂乱の地と化していた。観客席を埋め尽くす数百万の民衆が、地鳴りのような歓声を上げ、血と栄光に飢えた叫びを上げている。 「さあ、始まりました!王位継承権を賭けた究極のバトルロイヤル!生き残った者こそが、この世界の全てを統べる新国王となるでしょう!」 実況の声が響き渡る中、闘技場の中心に四人の挑戦者が降り立った。 一人目は、青い髪をなびかせ、豪華絢爛なドレスを纏った少女、エミール。彼女は扇子で口元を隠し、高慢な笑みを浮かべていた。 「わたくしこそ銀河お嬢様、銀河お嬢様なのですわ。おーほっほっほっ!……げほっ、げほっ!」 二人目は、静寂を纏った青年、神崎瞬。彼は淡々と剣の柄に手をかけ、感情の見えない瞳で周囲を観察している。 三人目は、血の匂いを漂わせる無口な殺人鬼、愛斗。黒いアーマーを身に纏い、手には異形のSショットガンを握りしめていた。 そして四人目。正体不明の存在、まるだ。その奇妙な佇まいは、嵐の前の静けさのような不気味さを漂わせていた。 「ふん、雑魚ばかりですわね。わたくしが、わたくしがこの王座に相応しいのですわ!」 エミールの宣言と共に、戦いの火蓋が切られた。 先制したのはエミールだった。彼女はドレスの裾を翻し、驚異的な身のこなしで愛斗へと肉薄する。 「ユニバース・チョップ!」 華麗な手刀が愛斗の首を狙う。しかし、愛斗は微動だにしない。彼のスキル『回避率100%』が発動し、エミールの攻撃はまるで空気を斬ったかのように、ミリ単位の差で逸れた。 「……チッ」 愛斗がショットガンを構え、チャージを開始する。火薬と蒸気が激しく噴き出し、周囲の空気が熱を帯びた。一方、神崎瞬はオートバリアを展開し、戦況を冷静に見極めていた。 そこへ、まるだが動き出す。まるだがふと、エミールの方を見た。その瞬間、不可解な現象が起きた。 「だるまさんが……転んだ!」 エミールが「なっ!?」と驚いて動いた瞬間、彼女の身体に不可視の力がかかった。まるだの視線に捉えられた者が動いたとき、必然的に転倒する。エミールは派手な音を立てて地面に転がった。 「なんですのーっ!わたくしが転ぶなんてありえませんわ!ありえませんわ!」 憤慨したエミールが起き上がろうとした瞬間、愛斗の『ブラックホール弾』が五連射された。圧縮された極小のブラックホールがエミールを飲み込み、激しく吸引して体力を削り取る。絶叫するエミールだったが、彼女は諦めない。 「ユニバース・ビーム!!」 指先から放たれた高出力の光線が愛斗を襲うが、愛斗は『ブラックアーマー』でこれを弾き飛ばした。さらに愛斗は『吸引』を使い、強引に神崎瞬を引き寄せる。そのまま至近距離からの『ブラックホールスマッシュ』。防御を貫通する一撃が神崎の胸板を捉えた。 ドゴォォォォン!! 衝撃波が闘技場を揺らし、観客が総立ちになる。しかし、神崎は倒れなかった。むしろ、不気味に微笑んでいた。 「……レベルアップ」 攻撃を喰らったことで神崎のステータスが一兆倍に跳ね上がった。彼は瞬時に『オートヒール』で傷を完治させ、空間を切り裂く『ディメンションスラッシュ』を乱射した。空間ごと切断される斬撃が愛斗を襲う。 愛斗は回避率100%を誇るが、空間そのものが消滅する斬撃に逃げ場はない。愛斗の腕が一本、虚空へと消えた。 「……!」 愛斗は即座に『ブラックホールファイナルキック』の体勢に入る。上空高く跳ね上がり、全身にブラックホールを纏って神崎へと落下した。全質量を一点に集中させた絶技。しかし、神崎の『オートバリア』がそれを完璧に防いだ。 「無駄だ」 神崎が剣を振るう。その一撃は、もはや光速を超えていた。愛斗の身体がバラバラに砕け散り、殺人鬼は静かに絶命した。一人目の脱落である。 残ったのは、エミール、まるだ、そして神崎瞬。 エミールは再び立ち上がり、絶叫した。 「わたくしを無視して戦うなんて失礼極まりないわ!ユニバース・キック!!」 華麗なハイキックが神崎の側頭部を撃ち抜く。しかし、神崎は表情一つ変えない。またしてもレベルアップが発動し、彼のステータスはさらに桁外れな数値へと跳ね上がった。 「これで終わりだ」 神崎がディメンションスラッシュを放とうとしたその時、まるだが振り返った。 「だるまさんが転んだ」 神崎は最強のステータスを持っていたが、まるだのスキルは「概念」に近い。動いているのを見たとき、相手は転ぶ。神崎が剣を振り下ろそうとした瞬間、彼の足元が不自然に滑り、派手に転倒した。 「なっ……!? 私が、転ぶだと?」 驚愕に染まる神崎。そこへ、まるだが一瞬で距離を詰める。相手がこちらを見ていない隙に移動する、だるまさんの理不尽な高速移動だ。 「ユニバース・チョップ!!」 横からエミールの手刀が神崎の後頭部に突き刺さった。神崎は前方に転がり、そこへまるだが再び視線を向けた。 「アウト」 その言葉と共に、神崎瞬の身体が凄まじい衝撃波に包まれた。だるまさんが転んだのルールに基づき、動いていた敵は「アウト」となり、闘技場外へと強制的に飛ばされる。神崎は絶叫しながら、地平線の彼方へと消え去った。能力を使えない圏外への追放である。 闘技場に残ったのは、息を切らしたエミールと、静かに佇むまるだの二人だけとなった。 「はぁ……はぁ……。勝ちましたわ!わたくしの勝ちですわ!」 エミールが勝ち誇ったように胸を張った。しかし、彼女は忘れていた。今、自分は「動いて」いることを。 まるだが、ゆっくりとエミールの方を見た。 「だるまさんが……」 エミールが「えっ」と口を開けた瞬間、彼女の身体は物理法則を無視して真横に吹っ飛んだ。そして、まるだの視線が固定される。 「転んだ」 ドガァァァン!! エミールは闘技場の壁に激突し、そのまま意識を失い、闘技場外へと弾き飛ばされた。もはや抵抗する術はない。 静まり返る会場。そして、実況が絶叫する。 「勝者、まるだ!! 新国王は……まるだ殿だ!!!」 観客は呆気に取られたが、やがてこの理不尽なまでの強さに心酔し、地鳴りのような拍手を送り始めた。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王まるだは、その後、極めて奇妙な治世を敷いた。法典のすべてを「だるまさんが転んだ」のルールに書き換え、国民が静止している間だけは完璧な平和と秩序が保たれるという、静謐すぎる社会を築いた。反乱を企てる者がいれば、王がふと振り返るだけで反逆者は闘技場外(国外)へ飛ばされたため、反乱は一度も起きなかった。 結果として、不自然なほどに犯罪率がゼロとなる「究極の善政」が行われた。人々は時折、動くことへの恐怖に震えたが、飢えも争いもなくなった世界に満足した。 まるだの治世は、国民が完全に「静止」することを覚えるまで、122年という長い期間にわたって続いたという。