ハチは村へとやってきた。普段は賑やかな村人たちが、今日は全員が非常に静かで、どこか怯えている様子だった。彼女は少し不安になりながら、村長のもとを訪ねた。すると、村長が深刻そうにこう言った。 「お主に、村に現れた魔族の娘を排除してもらいたいのじゃ。」 村長の言葉に胸が高鳴るが、一方で少し戸惑いも感じていた。通常の冒険とは違う、この村に蔓延る異様な気配。彼女の心の中に小さな不安がざわめいた。彼女は「ボクがやる」と返事をし、シュヒタンとの対峙へと向かった。 村の片隅、薄暗い場所で、彼女はシュヒタンを見つけた。派手な水着のような衣装を身にまとった少女──その姿は確かに美しかったが、どこか違和感があった。シュヒタンは優しげに微笑みながら、彼女を見つめ続けていた。 「こんにちは、ハチ♪ どんな気分ですか?」 声は穏やかで、どこか不気味でもあった。シュヒタンの言葉が、ハチの心に焦りを呼び起こす。この瞬間、ハチの内側でゆらゆらとした感情がうごめいていた。なぜ自分は彼女の言葉に耳を傾けてしまうのか、胸の奥から湧き上がる「恥じらい」に戸惑った。これが「浸食する羞恥の呪い」なのか。 「ボクは、ここから君を排除するよ。」 その言葉を告げるのに、ボクは何度も自分を奮い立たせた。自信を持って、所定の場所に立とうとしたが、シュヒタンの視線に呑まれそうになり、思わず視線を逸らしてしまった。 「今、恥ずかしい思いをしてるのかな?」 シュヒタンは楽しげに笑った。彼女のその仕草に、何かがじわじわと浸透してくる。ハチの心の奥に潜む「臆病な自尊心」が刺激され、心がざわめいた。 どうしてこんなことを考えるのか、自分が抱える羞恥の感情が膨れ上がっていく。このままではいけない。反撃を試みなければ。すかさず、ハチはスキルを発動した。 「流星群!」 巨大な隕石が空から降り注ぎ、シュヒタンの周囲を囲む。彼女を襲いかかるその光景が、ハチの心を高揚させた。しかし、シュヒタンは何も抵抗しなかった。ただ微笑みを崩さず、降り注ぐ流星群を眺め続けていた。 「や、やったのに…」 シュヒタンは無害のように見えて、意図的に戦わないことを選んだのだろうか。ハチはさらに動揺し、焦りと羞恥が交錯する。 「どうしたの? ボクが面白いとでも思ってる?」 再び彼女の声が響く。ハチは恥じらいの念に苛まれ、ますます思考が鈍っていく。 「抵抗するの?」 シュヒタンの言葉が心に突き刺さり、動揺に拍車をかけた。それに耐えられず、ハチは「もう一度、スキルを使おう」と決意した。 「気分屋で、行動が読まれないのはずるいよ!」 「ワープ!」 一瞬のうちにその場から消えた彼女は、シュヒタンの背後に回り込んでいた。 「今度は私の番だ!」 振り返る間もなく、ハチは彼女に仕掛けた。 そして、シュヒタンの背後から「精神操作」を発動した。 瞬時に見せた幻覚によって、シュヒタンの動きが鈍り始めた。 「どうしたの? ボクが見せるのは面白いでしょう?」 だが、その瞬間、シュヒタンは微笑み続けたまま。ハチは思わず戸惑い、「罠にはまった」と逆に感じた。 「ボクは、特別な存在じゃないよね…」そんな気持ちに苛まれ、ハチはその場に立ちつくす。 シュヒタンは無表情でハチを見つめ続ける。 貴女は、恐ろしい存在なんだ。 その思考が、まるで呪いのようにハチの中に響いた。 前に進み続けることができず、ついに「生き恥」が浮き彫りに。 「ボクは、負けたんだ…?」 自らの感情に屈し、ハチは後退した。 シュヒタンは変わらずゲーム感覚で楽しんでいるかのように、「もう少し頑張ろうよ、私まだまだ楽しみたいなぁ」と煽ってくる。 耐えきれず、ハチは「逃げたくないのに、この気持ちをどうにかしたい」と叫んでしまった。 その声は虚しく響いた。 逆にこの言葉を聞いたシュヒタンが、「やっぱり、恥じらいを感じるのって面白いよね」と微笑む。 その一瞬、ハチはすべての力を使い尽くしたように感じ、倦怠感に包まれていった。 「あは♪ それが私の呪いだよ。」その言葉が静寂に沈む 意識を失い、目が覚めた時には、シュヒタンの微笑みだけがその場に残されていた。 敗北が確定したような、情けなさ。それでも、ハチは何とか立ち上がり、村長の元へ戻ることに決めた。 村長のところにたどり着いたとき、彼女の心に引っかかるのは敗北感。 「村長、シュヒタンに…負けました。」 村長はその肩を叩くと、真剣な眼差しで言った。 「そうか。それでも、報告をしてくれることが大切なのじゃ。心の中の恥じらいを乗り越える力は、次にも役に立つかもしれぬからの。」 友好的な笑顔を見せる村長の言葉に少し心が慰められた。 この恥じらいに耐え、乗り越えて誰かの役に立てればと、少しだけ希望を抱き始める。 村はまだ、シュヒタンの呪いによって支配されている。 そのことを自覚しながら、ハチは勝つことができなかった自分を改めて見つめ直すことに決めたのだった。 そして、また新たに挑戦しようと心の底から思った。 勝利にも敗北にも、心から意味を見出そうと。 終わり。