次元の狭間、色彩さえも意味をなさぬ「虚無の特異点」。そこは上下左右の概念が崩壊し、浮かぶ岩塊と渦巻く星雲だけが存在する異次元空間であった。静寂に包まれたその空間に、二つの異質な存在が召喚される。 一方は、深い闇を纏った青年、〖漆黒のフォークロア〗シッボウ。その佇まいは静謐でありながら、周囲の光を吸い込むような底知れぬ圧を放っていた。 対するは、重厚な金属音と共に現れたフレイ・チェンバー。彼は全身に最新鋭のロボットアーマーを身に纏い、背後からは推進剤の噴射音が激しく鳴り響いている。機械の冷徹さと、使い手の不敵な笑みが交差していた。 「ここが戦場か。まあいい、相手が誰であれ、僕の物語(テイルズ)に書き加えられた脇役に過ぎないよ」 フレイがコクピットの中で不敵に呟くと、同時にアーマーの武装が展開された。対してシッボウは、感情の読めない瞳で彼を見据え、静かに右手を掲げる。 「物語か。ならば、その結末を闇で塗り潰そう」 先制攻撃を仕掛けたのはフレイだった。[Machinery Tales]の発動と共に、彼の背後から数十発の小型ミサイルが火を噴く。白い煙の尾を引きながら、殺意を持ってシッボウへと殺到するミサイルの雨。 しかし、シッボウは動かない。彼が指先を軽く弾いた瞬間、彼の足元からどろりとした漆黒の闇が噴出した。それは瞬時に壁となり、あるいは盾となり、ミサイルの爆発をすべて飲み込んだ。 「闇はあらゆるものの代わりになる。物理的な衝撃など、この虚無の前では無意味だ」 「へえ、防御に特化した能力か。だが、量で押し切られたらどうなるかな!」 フレイは空中で急旋回し、高度を上げる。彼は機体出力を最大まで高め、大気なき空間に魔力の奔流を呼び起こした。[Magna elemental]――空が割れ、赤黒い光を放つ巨大なメテオが召喚される。次元空間の重力さえも歪ませるほどの質量兵器が、シッボウに向かって猛烈な速度で落下した。 「これで終わりだ! 消えろ!」 絶望的な質量が視界を覆う。だが、シッボウの口角がわずかに上がった。彼は権能【陽鴉-sunlight raven】を解放する。 「【妖燦】」 シッボウの手のひらに、黒い太陽が現れた。それは光を放つのではなく、周囲の熱を極限まで圧縮し、反転させた「闇の熱源」であった。黒い太陽から放たれた超高温の闇の波動が、落下してくるメテオに衝突する。激突の瞬間、爆発ではなく「消失」が起きた。闇の太陽がメテオの質量を燃料として喰らい、さらに巨大化したのだ。 「何だと!? メテオを消したのか!?」 「消したのではない。私の太陽に組み込んだだけだ」 シッボウはそのまま空へと跳ね上がった。背後に黒い翼のようなオーラを形成し、空中で静止する。そして、権能の第二形態を展開した。 「【夜翼】」 闇が凝縮され、無数の鴉の形をした矢へと姿を変える。それは一つ一つが鋭い槍のごとき速度で、フレイのロボットアーマーへと降り注いだ。フレイは機敏に回避行動に出るが、闇の矢は追尾性能を持っており、装甲の至る所を貫いていく。 ガガガッ! と激しい金属音が響き、アーマーの警告灯が赤く点滅し始めた。 「チッ、しつこいな! ならばこれで、強制終了させてやるよ!」 フレイは追い詰められた状況にありながらも、最大の切り札を繰り出そうとする。彼は全エネルギーを一点に集約させ、物語の根源的な力を呼び覚ました。[Memories Exdream]――次元の壁を強制的にこじ開け、相手を元の世界へ弾き飛ばす追放の力。それは勝敗をつけずとも、戦場から排除することで「勝利」を確定させる究極の手段である。 眩い光がフレイを包み込み、収束した光線がシッボウを捉えた。次元の裂け目がシッボウの足元に開き、彼を飲み込もうとする。 「チェックメイトだ! さよなら、闇の魔術師さん!」 しかし、その瞬間だった。シッボウの瞳に、これまでになかった激しい闘志が宿る。 (ここだ……この絶望的な圧力が、私の覚醒を促す) 窮地に陥ったシッボウの背中から、さらにもう一対の漆黒の翼が猛然と生え出た。四枚の翼が次元の奔流を切り裂き、彼を強引に上空へと押し上げる。追放の光を真っ向から撥ね除け、シッボウは次元空間の頂点へと舞い上がった。 「覚醒……だと!?」 フレイが驚愕に目を見開いたとき、シッボウの全身はどろりとした濃密な闇のオーラに包まれていた。もはや彼自身の輪郭すら曖昧になり、巨大な鴉の化身のごとき威圧感を放っている。 「これが私の、最果ての晩餐だ」 覚醒秘奥義【夜鴉の晩餐】。 シッボウは垂直に急降下を開始した。その速度は光速に近く、摩擦でさえ発生しない異次元空間において、彼はただの一本の「黒い線」となってフレイに肉薄した。フレイは慌ててアーマーの全出力を防御に回したが、時すでに遅かった。 ドォォォォン!! 衝撃波が次元空間全体を揺らした。しかし、それは破壊の衝撃ではない。精神を直接揺さぶる、深い深い「眠り」の波動であった。シッボウの打撃がフレイのコクピットを直撃した瞬間、闇のオーラがフレイの意識を完全に包み込んだ。 「……あ……」 フレイの視界から色が消え、心地よい闇が彼を包み込む。抗おうとする意志さえも、心地よい静寂の中に溶けていった。ロボットアーマーの動力源が停止し、巨体はゆっくりと虚空を漂い始める。フレイ・チェンバーは、深い昏睡の底へと沈んでいった。 静寂が戻った次元空間で、シッボウはゆっくりと着地し、四枚の翼を静かに消し去った。彼は意識を失ったフレイを見下ろし、小さく呟く。 「良い物語だった。だが、夜はいつだって朝よりも深い」 勝敗を決したのは、絶望的な状況から引き出された「覚醒」の爆発力。そして、物理的な破壊ではなく、精神的な完封という形で幕を閉じた。 【結果】 勝利チーム:チームA 〖漆黒のフォークロア〗シッボウ 【勝因】 フレイの[Memories Exdream]という強力な排除スキルに対し、シッボウが窮地での覚醒によりそれを上回る機動力と出力を得たこと。また、最終的に肉体的なダメージではなく「昏睡」という不可避の状態異常を付与した秘奥義が、フレイの高い防御力を無効化したことが決定打となった。