銀河の片隅、星々が宝石のように散らばる「中立特区・コスモ・アリーナ」。そこは、次元の壁を越えてあらゆる強者が集まり、互いの力を試すというよりは「ちょっとした社交場」として機能している不思議な空間である。 今日のメインイベントは、およそ方向性の異なる二者の対戦だった。 一方は、惑星をまるごと漬物にするという美食的(?)な破壊神、宇宙野菜竜ヴェガベジオン。全長二百メートルに及ぶその体は、ネギやナスを思わせる繊維質の装甲に覆われ、背中には黄金のトウモロコシ型ロケットポッドが林立している。その威容は圧巻だが、どこか「美味しそう」という親しみやすさを醸し出していた。 そしてもう一方は、究極のアンバランスを体現した男、右腕クソデカマン。全身真っ白なタイツに身を包み、顔には快活な笑みを浮かべているが、問題はその右腕だ。小惑星を優に超えるサイズまで肥大化したムキムキの腕は、もはや地形の一部と言ってもいいほどの質量を誇っていた。 「いやぁ、いい身体してんな! そのネギみたいな装甲、いい質感だぜ!」 クソデカマンが、自分の右腕の爪先ほどしかないヴェガベジオンに向かって、朗らかに声をかける。声はあまりに大きいため、宇宙空間であるにもかかわらず、不思議な魔力的な拡声効果でヴェガベジオンの耳(のような器官)に届いた。 ヴェガベジオンは、巨大な葉の翼をゆっくりと羽ばたかせ、低く唸るような、しかしどこか心地よいリズムの鳴き声で応えた。 (「貴殿のような特異な形態を持つ者との邂逅、実に愉快だ。私の『漬物』コレクションに加えるには惜しいほどの個性をしているな」) 互いに殺気はゼロ。あるのは「強い相手と軽くやり合いたい」という、スポーツのような爽やかな精神である。レフリーの合図と共に、この銀河で最もシュールなバトルが幕を開けた。 先手を取ったのはヴェガベジオンだ。彼はまず、その触手である人参質の腕をうねらせ、大地(アリーナの床)に深く根を潜らせた。 「■暗黒栽培(ダーク・クロップス)!」 地面からどす黒い色をした奇妙な芽が、猛烈な勢いで突き出した。それは寄生芽であり、相手に取り憑いて行動を制限し、最終的には心地よい衝撃と共に自爆するという厄介なスキルだ。無数の芽がクソデカマンの白いタイツに絡みつき、彼を拘束しようとする。 「おっと、くすぐったいな! 野菜のパワーってやつか、いいぞ!」 クソデカマンは全く動じない。というよりも、もはや右腕があまりに巨大すぎて、寄生芽が彼の「腕」に届くまでに相当な時間がかかっている。足元は拘束されたが、彼にとってそれは「ちょっと靴紐が絡まった」程度の感覚に過ぎなかった。 「じゃあ、俺の方からも挨拶だ! 【反動マグニチュード8.9】!!」 クソデカマンがその超巨大な右腕を、バネのようにしならせて地面に叩きつけた。ドォォォォン!! という、宇宙の地平線まで届きそうな衝撃が走り、アリーナの床に巨大な亀裂が入る。その反動を利用し、白タイツの本体がロケットのように上空へ跳ね上がった。 「うおーっ! 飛んでるぜー!」 空中で舞い踊るクソデカマン。しかし、ヴェガベジオンは冷静だった。彼は背中のトウモロコシ型ロケットポッドを点火させ、空中での機動性を確保すると、口を大きく開いた。 「■漬物惑星破砕光(ピクルス・デス・レイ)!!」 口端から放たれたのは、超高濃度の酸性と食塩を孕んだ、鮮やかな緑色のビームである。食塩濃度40%という、生物にとって(そして料理にとって)致命的な濃度の攻撃が、空中のクソデカマンを捉えた。 「うわあ! しょっぱい! めっちゃしょっぱいぞこれ!!」 ビームが直撃し、クソデカマンの白いタイツが瞬時に「ピクルス色」に染まっていく。しかし、ここがカジュアルバトルである。致命傷などは存在せず、あるのは「ひどい塩漬け状態になった」という精神的なダメージと、心地よい刺激だけだ。 「あはは! 身体がテカテカしてきたぜ! 最高の味付けだな!」 むしろ心地よさそうに笑うクソデカマン。ヴェガベジオンは、相手の異常なまでのポジティブさに驚きつつも、さらに攻勢を強める。今度は自身の体から、粘着性のある果実や根を弾丸のように射出する「■有毒収穫(ポイズン・ハーベスト)」を展開した。 ドチャドチャと飛んでくる野菜の奔流。それはクソデカマンの右腕に次々と命中し、強力な腐食液が白タイツをさらに汚染していく。しかし、クソデカマンの右腕はあまりに巨大で、その表面積が広すぎるため、腐食液が浸透する前に「単なる塗り絵」のような状態になっていた。 「よし、そろそろ派手に行こうか! 準備はいいか、野菜の王様!」 クソデカマンが最高到達点から、ゆっくりと、しかし確実に加速しながら落下し始めた。彼の右腕が、太陽を遮るほどの巨大な影となってヴェガベジオンを覆う。 「【拳石落下・クレーター】!!」 ドガァァァァァァン!!! 衝撃波が全方位に広がり、アリーナの床に半径100kmに及ぶ巨大なクレーターが刻まれた。ヴェガベジオンは繊維質の装甲をフル活用して耐えたが、それでもその衝撃に押し流され、クレーターの壁面に深く突き刺さった。 (「ふむ……まさか物理的な質量のみでここまで圧力をかけられるとは。実に心地よい衝撃だ。私の装甲が、心地よく揉みほぐされる感覚があるぞ」) ヴェガベジオンはダメージを負うどころか、むしろマッサージを受けたかのような快感に浸っていた。彼はゆっくりと立ち上がり、最後の仕上げに移行する。彼が本気で「漬物」にしようと決めた時、周囲の空間に塩分を含んだ霧が立ち込め、地形が完全に「漬物フィールド」へと変貌した。 このフィールド内では、あらゆる動きが鈍くなり、徐々に「保存食」としての性質が付与されていく。クソデカマンの動きも、わずかに緩慢になった。 「おっと、体がちょっと重くなってきたな。これが『漬け込まれた』ってことか! 面白いぜ!」 クソデカマンは笑いながら、もはや避けようのない、そして避ける必要もない究極の技へと移行した。右腕を、己の身体を軸にして360度全方位に振り回す。それはもはや腕という概念を超え、巨大な天災の回転盤となった。 「【風車アステロイド】!!」 ゴォォォォォ!! という風切り音が宇宙を震わせる。右腕が描く円弧が、ヴェガベジオンの全身を何度も、何度も、しかし「全力ではない」絶妙な加減で叩いていく。 ドガッ! バコッ! ズバァン! ヴェガベジオンは葉の翼でバランスを取りながら、その巨大な拳を弾き返そうとしたが、クソデカマンの腕はあまりに広範囲だった。どこに逃げても、そこにはムキムキの右腕がある。まさに「詰み」の状態である。 しかし、ヴェガベジオンも最後の手を打った。彼はあえて攻撃を避けず、自らの身体に蓄積させた「漬物エネルギー」を一点に凝縮し、クソデカマンの右腕に吸着させた。そして、暗黒栽培の自爆機能を、あえて「心地よい破裂」として誘発させたのである。 パパパパン!! クソデカマンの右腕の至る所で、寄生芽が花火のように弾けた。それは攻撃というよりも、派手なクラッカーのような演出に近かった。あまりの賑やかさに、クソデカマンは思わず笑い転げた。 「あははは! 何だこれ! 体中でパーティーが始まってるみたいだぜ!!」 笑いすぎてバランスを崩したクソデカマン。その拍子に、振り回していた右腕が、自分の重心を大きく揺らした。そして、運命の瞬間が訪れる。 あまりに巨大な右腕が、回転の遠心力で自分自身の方向へ戻ってきたのだ。しかも、ヴェガベジオンが仕掛けた「漬物フィールド」により、地面が非常に滑りやすくなっていた。 「おっとっと! っとお!!」 クソデカマンの足が滑り、彼はそのまま自分の右腕に押し潰される形で、ゆっくりと、しかし確実に地面に沈んでいった。右腕の質量が、そのまま彼自身の体重となって、彼をクレーターの底へと優しく(?)押し付けたのである。 ヴェガベジオンは、その様子を眺めながら、満足げに鼻息を鳴らした。 (「ふふふ……。最後は自らの質量に屈するととは。実に愉快な結末だ」) 判定が下る。クソデカマンは、右腕の下敷きになり、身動きが取れなくなった状態で「完敗」を認めた。しかし、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。 「いやー、参った参った! あの塩漬けの感覚と、最後の花火みたいな爆発、最高だったぜ! ヴェガベジオン、お前最高にクールな野菜竜だな!」 ヴェガベジオンもまた、大きな葉の翼をパタパタとさせ、敬意を表した。 (「貴殿の右腕の質量、そして何よりその底抜けの明るさには敬服する。今度、別の惑星でゆっくりと『漬物』の研究について語り合いたいものだ」) 結果、勝者は宇宙野菜竜ヴェガベジオン。勝因は「フィールドの滑りやすさを利用した、相手の自重による自滅」という、極めてカジュアルバトルらしい、拍子抜けするほど平和な結末であった。 二人はその後、クソデカマンの右腕の上にヴェガベジオンがちょこんと乗り、一緒に特産品の漬物を食べながら、次の対戦相手について盛り上がるという、実に心温まる交流時間を過ごしたという。