黄金の輝きが、荒涼とした戦場を塗り潰していた。 空中に浮かぶ黄金の御座。そこに足を組み、退屈そうに頬杖をつく男が一人。金色の鎧に身を包み、真紅の瞳で地上の喧騒を見下ろすその男こそ、人類最古の英雄王ギルガメッシュである。 「ふん……。我が庭に招かれ、どのような醜態を晒すつもりだ。思い上がったな、雑種!!」 王の声が戦場に轟く。その傲慢さは天を突き、彼が放つ威圧感だけで並の人間であれば呼吸を忘れて膝をつくだろう。しかし、彼の前に立ちはだかる「挑戦者」たちの面構えは、あまりにも……あまりにも滑稽であった。 一人目は、カニの擬人化を自称する奇妙な生物、カニタム。彼は横歩きでしか移動できず、不自然な角度でハサミをカチカチと鳴らしている。 二人目は、なぜかサクラマスの姿をした「宝くじ」。彼は戦う意志があるのかさえ疑わしい。ただそこに、確率という名の虚無を纏って転がっている。 そして三人目。それは生物ですらなく、ただのテニスボールに見える物体、「胃碼廻廊」。それは不気味な静寂を保ったまま、コロコロと不規則な軌道でフィールドを転がり始めていた。 ギルガメッシュは、その光景に心底呆れたように溜息をついた。 「……笑わせるな。これが我への挑戦か。神々の気まぐれか、あるいは世界の崩壊が始まったか。もはや滑稽を通り越して憐れみさえ覚えるぞ」 だが、王の洞察力は鋭い。スキル【全知なるや全能の星】が、静かに告げていた。目の前のテニスボール――胃碼廻廊という物体が、正体不明の超新星爆発を秘めた極めて危険な爆弾であることを。そして、相手が自分を攻撃した瞬間に即座に起爆し、フィールド全てを消し尽くすという理不尽な特性を持っていることを。 「ほう、策を弄したか。攻撃すれば爆発し、触れれば消える。なるほど、雑種にしては凝った仕掛け合いを仕掛けてきたものだ」 ギルガメッシュは冷笑を浮かべる。常人であれば、ここで恐怖に震えし、あるいは慎重に爆弾を排除しようと試みるだろう。だが、彼は黄金の王である。王が慎重に立ち回るなど、それこそが不名誉である。 「だが、王は同時に「全知」である。爆弾に思考がなく、デバフが効かず、触れれば即座に起爆するという性質を知った上で、彼は最も「合理的」かつ「傲慢」な解決策を選択した。 「だが、忘れるな。我の宝物庫に、不可能なことはない」 ギルガメッシュが指を軽く鳴らす。すると、彼の背後の空間に黄金の波紋が幾重にも展開された。それは【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン】。あらゆる伝説の武器が収められた、究極の宝物庫である。 まず、王はカニタムに目を向けた。 「まずは貴様からだ、甲殻の雑種よ」 黄金の波紋から、一本の槍が射出される。それは超高速で放たれ、正確にカニタムの甲羅を貫いた。カニタムは「チョキ」で対抗しようとしたが、神話級の武器の速度に反応することなど不可能だった。衝撃を受けた瞬間、カニタムの擬人化が解け、一匹の立派手なタラバガニへと戻り、地面に転がった。 「ふん。所詮は食材に過ぎぬか」 次に、王はサクラマスの姿をした「宝くじ」に目をやる。宝くじは、自身のスキルである「確率」による逆転を狙っていた。1等、7億円という天文学的な幸運が、王の運命を塗り替えることを期待して。 しかし、ギルガメッシュは笑った。運などという不確かなものに頼る者が、万物を所有する王に勝てるとでも思ったか。 「確率? 運? 笑わせるな。この世の理、運命のすべては既に我が掌にある。貴様の『当たり』など、我の所有する富に比べれば塵に等しい」 王は宝物庫から、黄金のコインを数枚射出した。それは宝くじという概念を物理的に粉砕し、サクラマスをただの魚の死骸へと変えた。確率などという概念が介入する隙など、王の圧倒的な力の前には存在しなかった。 そして、最後に残ったのは、不気味に転がるテニスボール――胃碼廻廊である。 ボールは今も転がり続けている。いつ爆発するかは分からない。しかし、もしギルガメッシュがこのボールを攻撃すれば、即座に超新星爆発が発生し、この世界ごと全てが消し飛ぶ。それがこの爆弾の「勝ち筋」であった。 「さて、残ったはあの奇妙な球体か。攻撃すれば起爆、触れれば消滅。……なるほど、臆病な策だ」 ギルガメッシュは、空中からゆっくりと降り立った。彼はわざとボールに近づく。ボールは彼を認識せず、ただ物理法則に従って転がる。もし彼が剣を放てば、その瞬間に爆発が起きるだろう。 しかし、ギルガメッシュは剣を放たなかった。彼は静かに、一つの宝具を取り出した。 【天の鎖(エンキドゥ)】 黄金の鎖が空間から現れ、生き物ではない、思考のないテニスボールを優しく、だが絶対的な力で拘束した。鎖はボールを宙に吊り上げ、固定する。 「攻撃などという野蛮な真似をすると思うな。これは『拘束』だ。貴様が爆発のトリガーを引くのは『攻撃を受けた時』であろう? ならば、ただ縛り上げて、空間の彼方へ放り出せば済む話よ」 ギルガメッシュは鎖を強く引くと、そのままボールを遥か上空、大気圏の外へと投げ飛ばした。超新星爆発が宇宙の深淵で起きようとも、地上に影響はない。爆弾という特性が、皮肉にも「攻撃しなければ安全」という唯一の穴となって現れた。 戦場には、静寂が戻った。地面にはタラバガニとサクラマスの死骸が転がっているのみである。 ギルガメッシュは再び黄金の御座に戻り、不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「退屈よな…我が手を下すまでもなかったわ」 王は、自分に挑んだ者たちの稚拙さに、深い失望を隠そうともしなかった。彼にとって、この戦いはもはや戦いですらなく、単なる「ゴミ掃除」に過ぎなかったのである。 彼は空を見上げ、黄金の輝きと共に消え去った。後に残ったのは、誰にも食べられることなく朽ち果てるであろうタラバガニの死骸だけだった。 【勝者:ギルガメッシュ】