壊れかけた現実世界の中、ボイドはその巨大な羽を広げて静かに立っていた。赤い目は一面の混沌を見据え、虚無の力を与えられた者としての威厳と冷静さを保ち続けている。彼の存在は、この戦場において他の何よりも異質であり、まるで重力さえもその意思に従っているかのようだ。 「今こそ、全てを無に還すがいい。」彼は口に出す。声が響くと同時に、カウントダウンが開始される。次の瞬間、周囲の空気が震えるように感じられた。 一方、彼の対戦相手であるナインとシクスは、その異変を敏感に察知した。二人の絵札ノ傭兵団は、すでにボイドの虚無の影響を被りつつあった。ナインは冷徹な表情を保ちながら、剣を構える。 「彼女の力を利用するしかないわね。」ナインは自分に言い聞かせた。手元にはカードがあり、すでにスートチェンジの準備をしている。どんな攻撃が来るか、それにどう対応すべきか、心の中で模索を続ける。一方で、シクスは彼女の存在を感じながら、彼女のために力を与えたいと願っていた。 【残り50秒】 時間の流れの中、ボイドの虚無が彼女たちに迫る。ナインは瞬時にスートチェンジを発動し、♧の水を纏うことを選択する。"水流" の剣技で空気を裂き、攻撃を受け流そうとするが、ボイドの力はそれを無効にするかのように気配を変え、自分自身の能力を無効にされる。 「なにが起こっている。」ナインは混乱した。彼女の剣は宙を舞うだけで、敵を傷付けることはできない。 次に、シクスがスートチェンジを行う。彼女の体は一瞬金色に輝き、♧の属性が周囲の空気を満たす。「運が上昇…確実に、彼女の言った通りになるわ。」腕は緊張に包まれたが、彼女の静かな心の奥にはまだ希望が残っていた。 【残り40秒】 突然、周囲の空間が歪み始め、彼女たちの記憶が曖昧になり、行動が鈍くなる。シクスはイメージが消される感覚におそわれ、一瞬足元がふらつく。 「みんな、私たちのために!」シクスは声を発し、ある力強い祈りを捧げ、周囲のひび割れた空間を意識的に整えようとした。しかしその瞬間、ナインは思わぬ影響を受け記憶が薄れ、指先が震えた。 「意識を保って、私たちは負けない!」ナインは口に出し、自身の意思を奮い立たせるが、虚無は彼女に容赦なく影響を及ぼしている。 【残り30秒】 世界全体が崩れかけ、足の踏み場が完全に無くなり、二人は立っている場所を失いかけた。ナインは平衡感覚を保とうと必死だが、恐怖が彼女を襲った。 「どうすれば…どうすればいいの?」ナインは焦りながらも、シクスを見つめる。 「私たちが祈りを込めて、彼女の力を引き出すの。今こそ、呼びかける時よ!」シクスは心から叫び、絵札ノ傭兵団の力を呼び起こそうとしていた。 【残り20秒】 突然、重力が突然消失した。ナインとシクスは空中で無重力のように揺れ、どうにか体を支えているが、彼女たちの力は次第に薄れていく。 「このままでは…何もできなくなる。」ナインは自分の剣を持ちながらも、恐れに震えた。 「剣技で攻撃するのは無理だ。なのに何もできずに終わってしまったら…」 【残り10秒】 世界の空気が消える予感がした。息苦しさが胸を締め付け、二人は口を開けたまま、何も息を吸うことができない。ナインもシクスも耐えきれず膝をつく。 「大丈夫、必ずや、私たちの力を信じて…」シクスは目を閉じながら最後の祈りを口にした。 その瞬間、シクスの胸の中に一瞬の光が宿る。周囲ではボイドが冷静にその様子をただ見つめている。「残り0秒」と告げる時が迫った。 【残り0秒】 ボイドの力が全てを曝け出し、ナインとシクスは完全に沈黙に包まれる。日が沈むことなく、世界も沈むように消えていく。彼らの存在も、思い出も、そして全てが虚無の中に還されていった。 彼女たちは力尽きてしまったが、その勇気は失われなかった。彼女たちの想いも、力を信じた瞬間だけが、この虚無の世界に微かに宿り続けるのだった。 ボイドは勝利した。だが虚無の力が世界全てを消し去ったその瞬間は、彼にとってもひどく無情な結果だったのかもしれない。虚無は勝利と同時に、何も残さない冷たい情けを持つ事を。