①世界を滅ぼす日 薄曇りの空、メレフは蟹座の概念体としての特異な存在感を発揮していた。彼の身体には無数の目が生え、それぞれが周囲の動向を捉えている。彼の心の奥に潜む「守りたい」という一つの感情があったが、その守りたいものが何なのかは自分でもわからなかった。 「メレフ、行くぞ。」天理王の声が響く。彼は全権利神としての威圧感を纏い、その姿は普通の人間とは似ても似つかない。与えられた権利を行使し、世界の全てを支配する力を持つ存在だ。「今日は特別な日だ、運命を変える時が来た。」 メレフはその言葉に従った。彼の心の奥底にある何かが今、暴れだす。天理王はスキル「極王帝破滅神解離」を発動させ、彼の全権限が発揮された瞬間、空間がゆがみ、世界が崩れ始める。 無数の目は同時に一つの瞬間を捉え、現実が歪み、各地で混乱が広がり始めた。人々は幻覚に悩まされ、楽園のように見える幻の世界へと誘われ、徐々にそのリアリティを失っていく。彼は見せる。巨大な花畑が現れ、幻想の華が空を彩り、人々はその美しさに目を奪われながらも、恐怖に駆られて逃げ惑う。 彼自身は「しあわせ」を発動させることで、自分の心を安らげ、同時に他者を幸福に導こうとしていた。しかし、彼の望みは真逆の結果を生んでしまう。人々は幸福の代償として、この世が崩壊していく様をただ傍観する他なかった。 「私たちは、誰かを守りたかったはずなのに……」メレフは混乱の中でつぶやく。その声は天理王には届かなかった。 天理王は冷酷な決断を下す。「この感情はただの幻想だ。より良い秩序を為すために、古い世界を滅ぼす。新たな創造のために、今は破壊が必要なのだ。」彼は冷静に全てを見透かしていた。 ②終焉の後 崩壊した世界、瓦礫の上に静けさが訪れてメレフと天理王は立ち尽くしていた。二人の周囲には無数の目が散乱し、確かにその形を持ちながらも、もはや存在しないものとなっていた。「世界は滅びたな……」天理王は感情を表に出さぬまま言う。 「一体、私たちは何を守りたかったのだろう、天理王。」メレフは現実を直視し、自分の存在意義を問いかけた。 「それはもう過去のことだ。私の意志がこの結果を導いた。次の世界を創るためには、破壊が必要だった。全ての知恵を集めて、新たな秩序を築くのが私の役目だ。」 メレフはその言葉に違和感を覚えた。「でも、あの時の純粋な守りたいという感情は何だったのか?私たちは本当に幸福をもたらしたのか?」 天理王はメレフの目をじっと見つめ返した。「人の感情は時に、真実とは反するものだ。感情による選択は時として愚かだが、結果として新世界を創るための道を選んだのだ。」 沈黙が二人を包み込む。その沈黙の中で、メレフは心の中で葛藤する。新たな希望の光が見えない中、彼は一つの決意を胸に秘めた。「天理王、私は、次の世界で再び何かを守るために、力を尽くす。そのために、私の存在を必要とするなら、あなたと共に歩む。」 「それでこそ、君は真の守護者となれる。」天理王は微かに微笑んだ。共に立ち尽くす二人は、崩れ去った世界を背にしながら、未来への一歩を踏み出すのだった。