闘技場の咆哮と棘の迷宮 砂埃が舞う石造りの闘技場。外壁の巨大な破片が散乱し、荒涼とした砂地が戦いの舞台を形成していた。観客席は熱狂に満ち、期待のざわめきが空気を震わせる。実況席では、荒々しい声の持ち主がマイクを握りしめ、興奮を抑えきれずに立ち上がっていた。 「オラァ！ 皆の衆、よく聞けぇ！ 俺はごつくて荒々しい実況のおっさんだああ！！ 今日もこの闘技場で、血と汗と骨の砕ける激戦を届けるぜええ！！ 審判も兼ねる俺が、公平に、熱く、ぶちかますぞおお！！」 実況のおっさんの名乗りが終わると、席の左右に座る二人の専門家が、簡潔に自己紹介を始めた。チームAの専門家は、恐竜生物学の権威、ドクター・エリザ・クロウ。眼鏡越しに鋭い視線を闘技場に向け、淡々と語る。「私は恐竜ミュータントの生態学者、エリザ・クロウ。ティラノサウルス系変異体の解剖と戦闘挙動を専門に研究しているわ。」 対するチームBの専門家は、都市防衛システムのプロフェッサー・ジャック・リード。髭を撫でながら、落ち着いた口調で続ける。「ジャック・リードだ。有刺鉄線と結界技術のエキスパートで、暗黒街の警備システムを何度も設計した。侵入阻止のプロフェッショナルを評価するよ。」 ゴングが鳴り響き、戦いが開始された。チームAの【歪んだ王】ディストータス・レックスが、闘技場の片側からゆっくりと姿を現す。体長14.3メートル、体高7.9メートル、約9トンの巨体が砂を踏みしめ、地響きを立てる。ティラノサウルスをベースにしたミュータント恐竜だ。頭部は不気味に膨らみ、長い肥大化した腕が二本、胸部には小さな補助の腕が二本、計四つの肢がうごめく。奇形化の苦痛からか、動きは鈍重で、しかしその目は原始的な飢餓に燃えていた。低くうなる咆哮が闘技場に響き渡る。 対峙するのはチームBの【棘の迷宮】王 羅面。首にタオルを巻き、黒いTシャツに緑のカーゴパンツ姿の肥満体型男だ。微笑眼鏡をかけ、鉢巻を締め、片手に電気ケトル、もう片手には丼を抱えている。戦場とは思えない呑気さで、己の周囲に有刺鉄線を幾重にも張り巡らせ、座り込む。鉄線は特別極太で、隙間なく迷宮を形成し、退魔札が貼られた結界が不気味に輝く。「ふふ、熱いラーメンが一番だね。君もゆっくりどうぞ？」と、敵に向かってさえ社交的に声をかける。 「さあ、始まったぜええ！！ チームAのディストータス・レックス、ミュータントの王者が砂を蹴立てて突進だああ！！ 対するチームBの王羅面、動かず座して鉄線の迷宮を展開！ これは原始の力か、現代の罠か！？」実況のおっさんがマイクを叩きつけんばかりに叫ぶ。 エリザ・クロウが頷き、解説を始める。「ディストータスの強みは咬合力と腕力よ。ヘリのフレームを粉砕する顎、肥大腕の一撃は重傷必至。だが、奇形の苦痛で動きが遅いわ。突進は予測可能で、持久戦に弱い欠点ね。」 ジャック・リードが笑みを浮かべる。「羅面の有刺鉄線は攻防一体。極太線は破壊に時間がかかり、絡まれば傷と出血で侵入者を削る。退魔結界は魔物すら弾くし、彼のスタミナは化け物級。動かず楽するのがプロの流儀だ。柔軟な発想で、拉麺占いまで使いこなす男さ。」 ディストータスが咆哮を上げ、砂を巻き上げて突進を開始した。巨体が地を這うように進み、肥大化した腕を振り上げて鉄線の迷宮に叩きつける。ガキン！ と金属音が響き、極太の有刺鉄線がわずかに歪むが、びくともしない。鉄線が反発し、ディストータスの腕に棘が食い込み、緑色の血が滴る。「グオオオオ！」と苦痛の咆哮が上がるが、止まらない。掴む攻撃で線を握りしめ、引きちぎろうとする。 「うおおお！！ ディストータス、腕で鉄線を掴んで引き裂くぜええ！！ だが、棘が肉に食い込んでるぞおお！！ 血が噴き出してるだああ！！」実況が熱を帯びる。 エリザが眉を寄せる。「その握力は凄まじいわ。一撃で相手を動けなくするはず。でも鉄線は絡まって離さない。ディストータスの性分は獰猛だが、知能が低い。こんな罠に自ら突っ込むなんて、悪点露呈ね。研究者の失敗作よ。」 羅面は迷宮の中心でゆったりとラーメンをすする。鉄箸が麺を掬い、湯気が立ち上る。「おいしそうだね、君の苦しそうな顔。拉麺占いでは、熱いスープが勝利の予感さ。」と呑気に微笑む。鉄線が自動的に動き、ディストータスの腕をさらに絡め取る。退魔結界が光り、恐竜の皮膚を焼くような痛みを加える。ディストータスが暴れ、砂を舞い上げて腕を振り回すが、線は幾重にも張り巡らされ、抜け出せない。 ジャックが感心したように言う。「羅面の技術は完璧だ。鉄線は侵入者を傷つけつつ、動きを封じる。肥満体だがスタミナは底なし。暗黒街で幾万の敵を撃退した経験が生きてる。社交的な性格が、心理戦にも強いよ。敵を油断させるんだ。」 巨体が迷宮に深く入り込み、ついに羅面の近くまで迫る。ディストータスが胸部の小さな腕で地面を掻き、砂を噴射して視界を遮る。咆哮と共に、肥大腕を振り下ろす！ 叩きつけが鉄線を薙ぎ払い、数本が切断される。砂埃の中、羅面の丼が揺れるが、彼は動じず退魔札を追加で貼る。結界が強化され、ディストータスの突進を弾き返す。恐竜の顎が開き、咬みつこうとするが、鉄線が口内に絡まり、棘が歯茎を裂く。「ガアアア！」と悲鳴のような咆哮。 「すげええ！！ ディストータス、迷宮を突破して羅面に肉薄だああ！！ だが鉄線が口に絡まって噛めねえぞおお！！ これは苦戦ぜええ！！」実況のおっさんが拳を振り上げる。 エリザが分析する。「パンチと叩きつけの威力は抜群よ。一撃で重傷を与えられる良点。でもゆっくりした動きが仇になる。鉄線の罠に嵌まって、消耗してるわ。不慮の脱走で野生化したけど、知能の低さが致命的ね。」 羅面は立ち上がり、電気ケトルを置いて鉄箸を構える。「よくここまで来たね。労うよ。」社交的な笑みで、ディストータスの巨体に飛びつくわけでもなく、鉄線を操って足元を絡め取る。恐竜が転倒しかけ、バランスを崩す。羅面の柔軟な発想が光り、鉄線を鞭のように振るってディストータスの目を狙う。棘が眼球をかすめ、血が噴き出す。ディストータスが暴走し、腕で地面を叩きつけるが、羅面は迷宮の中心で軽やかに避ける。スタミナのお化けぶりが発揮され、息一つ乱れない。 ジャックが頷く。「羅面の結界は魔物特化。ミュータント恐竜みたいな異形を弱体化させるんだ。鉄箸の一突きは秘孔狙いだが、基本は動かず待つ流儀。発想の柔軟さが悪点をカバーしてる。絡まる鉄線で自滅させるのが上手いよ。」 戦いは膠着し、ディストータスが疲弊を露わにする。奇形の苦痛が重なり、動きがさらに鈍る。鉄線に絡まった腕を振りほどこうと暴れるが、傷口が増えるばかり。羅面はラーメンを食べ終え、ケトルでお湯を沸かし始める。「もう少しで決着だね。君の力、認めるよ。」と呟き、退魔札を一枚、ディストータスの頭部に向かって投げる。結界の光が爆発し、恐竜の膨らんだ頭部を焼く。ディストータスが最後の咆哮を上げ、巨体を崩す。鉄線が全身を覆い、動けなくなる。 「決まったああ！！ 羅面の退魔結界が炸裂！ ディストータス、糸のようだぜええ！！ チームBの勝利ぞおお！！」実況のおっさんが飛び跳ねる。 戦闘終了後、エリザ・クロウが感想を述べる。「ディストータスは力の化身だけど、知能と速さの欠如が敗因ね。ミュータントの可能性を示したけど、制御不能。研究者たちの過ちよ。」 ジャック・リードが笑う。「羅面のプロフェッショナリズムに敬意を表する。動かず勝つ流儀は、警備の極意だ。スタミナと柔軟さが、巨大敵を倒す鍵。完璧な勝利さ。」 闘技場に拍手が沸き起こる中、砂埃が静かに収まった。