灼熱の太陽が照りつける、忘れ去られた廃都の街並み。砂に飲み込まれかけたビル群と、ひび割れたアスファルトがどこまでも続く。そこは静寂に包まれているはずだった。 だが、その静寂を切り裂いたのは、乾いた銃声と激しい爆発音だった。 「……ん」 銀色の髪をなびかせ、マフラーを風にたなびかせた少女――砂狼シロコは、遮蔽物であるコンクリートの壁に身を寄せ、アサルトライフルを構えていた。彼女はある目的を持ってこの地に赴いていたが、道中、正体不明の武装集団に襲撃された。幸い、彼女にとってこの程度の乱戦は日常茶飯事である。 シロコは冷静に呼吸を整え、敵の配置を確認する。弾丸の雨が降り注ぐ中、彼女は超人的なスタミナで戦場を駆け抜け、死角から敵を一人ずつ精密に排除していく。その動きには一切の無駄がなく、まるで計算された機械のように効率的だった。 しかし、最後の一人を追い詰めたその時。不意に、横から凄まじい速度の衝撃波が走り、敵の頭部を正確に撃ち抜いた。 「……!」 シロコは即座に銃口をその方向へ向けた。反射的な動作だ。そこには、自分と驚くほど似た姿をした少女が立っていた。 銀色の短髪に、同じ獣の耳。制服の着こなしこそ少し異なるが、纏っている空気感は酷似している。ただ、目の前の少女から漂うのは、現在のシロコよりもさらに尖った、野生的で好戦的な殺気だった。 「……誰」 過去のシロコが、感情の読めない瞳で問いかける。彼女の手にはハンドガンと、鈍く光るナイフが握られていた。 「ん。私と同じ顔をしているけど……貴方は?」 現在のシロコもまた、警戒を解かずに問い返す。互いに正体不明の侵入者。この状況で疑わしくないはずがない。二人の間には、張り詰めた緊張感が走った。どちらが先に引き金を引いてもおかしくない、静かな睨み合い。だが、その均衡を破ったのは、地底から響くような地鳴りと、空を覆い尽くすほどの巨大な影だった。 ゴォォォォォッ!! 凄まじい衝撃と共に、二人の間に位置していたビルが文字通り「粉砕」された。舞い上がる砂塵の中から現れたのは、鋼鉄の装甲に身を包んだ巨獣のような自律兵器――『コロッサス・ガーディアン』。高さ十メートルを超えるその巨体は、四本の腕にガトリング砲と巨大なプラズマブレードを装備し、赤いセンサーアイで二人をロックオンしていた。 「……っ!」 同時に二人が飛び退く。巨獣が放ったガトリングの掃射が、先ほどまで二人が立っていた地面をズタズタに切り刻んだ。 「……目的は、あれ」 過去のシロコが、ハンドガンを構え直しながら呟く。その声には、恐怖ではなく、強い獲物への好奇心と闘争心が混じっていた。 「ん。私もあれを狙っていた。……偶然だね」 現在のシロコもまた、アサルトライフルをしっかりとホールドする。敵のスペックは異常だ。単独での撃破は不可能ではないが、時間がかかる。そして何より、この巨獣の攻撃範囲は広すぎる。 「……協力する?」 過去のシロコが、短く提案した。現在のシロコは、一瞬だけ相手の瞳を見た。そこにあるのは、かつての自分が持っていたであろう、純粋な強さへの渇望。 「ん。今は、力を合わせるだけだね」 二人の「砂狼シロコ」が、同時に頷いた。言葉は少なかったが、戦術的な合意は一瞬で完了した。 「それじゃあ、作戦開始」 現在のシロコが合図と共に、煙幕型手榴弾を正確に投擲する。ドォォン! という爆音と共に、戦場に濃密な白煙が立ち込めた。巨獣のセンサーが一時的に攪乱され、攻撃の手が鈍る。 その隙を逃さなかったのは、過去のシロコだった。 「……」 彼女は弾丸のような加速で白煙の中を駆け抜ける。ガトリングの乱射を紙一枚の差で躱しながら、至近距離まで肉薄すると、ハンドガンを連射。装甲の隙間、関節部分を正確に撃ち抜き、敵に『裂傷』を刻み込んでいく。 「遅い」 巨獣が腕を振り下ろそうとした瞬間、過去のシロコは圧倒的なスピードでその懐に潜り込み、死角へと回った。そして、渾身の力で右拳を装甲の継ぎ目に叩き込み、衝撃で体勢を崩させたところへ、至近距離からの追撃弾を叩き込む。 「行くよ」 今度は現在のシロコが動く。彼女は崩れた瓦礫を遮蔽物として利用し、正確なタイミングで身を乗り出した。精密射撃。アサルトライフルから放たれた弾丸が、巨獣のセンサーアイを的確に射抜く。視界を奪われた巨獣が咆哮し、周囲にプラズマブレードを乱舞させた。 「ッ!!」 過去のシロコが、鋭い反応でブレードを回避し、そのまま懐へ飛び込む。手榴弾を敵の足元に投げつけ、爆風で体勢をさらに崩させると、抜き放ったナイフで巨獣の脚部装甲を十字に深く切り裂いた。火花が散り、内部回路が露出する。 しかし、敵も底力を見せた。ダメージを受けた巨獣が暴走し、広範囲の衝撃波を放出。二人は同時に吹き飛ばされ、地面を転がった。 「……っ、痛いね」 現在のシロコが、少しだけ頬を擦りながら立ち上がる。彼女は素早く支援物資の応急キットを取り出し、自身の傷を癒した。同時に、隣で肩を揺らしている過去のシロコにも、手短に処置を施す。 「……ん。ありがとう」 過去のシロコが小さく呟く。二人の間に、奇妙な信頼感が芽生え始めていた。言葉を交わさずとも、相手が次に何をしたいか、どう動くかが手に取るようにわかる。それは、同じ魂を持つ者だけが共有できる共鳴だった。 「……そろそろ、終わらせよう」 過去のシロコが、ナイフを逆手に持ち替え、低く構える。 「ん。賛成」 二人は同時に走り出した。方向は異なる。一人は正面から、一人は側面から。巨獣は混乱し、どちらを優先して攻撃すべきか判断できずにいた。 現在のシロコが、再び煙幕を投じ、敵の注意を完全に引き付ける。そして、巨獣が彼女に攻撃を集中させた瞬間―― 「ッ!!」 過去のシロコが、超人的な跳躍で巨獣の背後に舞い上がった。空中で体を捻り、強烈な回し蹴りを巨獣の頭部に叩き込む。ガギィィィン! と金属音が鳴り響き、巨獣の頭部が地面に叩きつけられた。 「悪いけど、貴方に構ってる暇はないから」 今度は現在のシロコが、倒れ込んだ巨獣の頭部を全力で踏みつける。逃げ場をなくし、完全に固定した状態で、アサルトライフルを最大レートで連射。火線が真っ直ぐに敵のコアへと突き刺さる。 「……やっぱり強いのは私」 追い打ちをかけるように、過去のシロコが至近距離からハンドガンを連射し、装甲の隙間を完全に破壊。最後は、研ぎ澄まされたナイフの一撃で、露出したメインコアを根こそぎ刈り取った。 ドォォォォォォォン!! 巨大な爆発と共に、巨獣は沈黙した。辺りに静寂が戻り、ゆっくりと砂埃が舞い落ちる。 二人のシロコは、背中合わせに立ち、同時に深く息を吐いた。どちらも息を切らしているが、その表情には満足げな色が浮かんでいた。 「……ん。いい連携だった」 現在のシロコが、銃をホルスターに収めながら言う。 「……ん。貴方も、悪くない」 過去のシロコが、ナイフを鞘に納めながら応える。 互いに正体は分からない。なぜ自分がここにいて、なぜ目の前に「自分」がいるのか。疑問は山積みだったが、今の彼女たちにとって、それは後回しでいいことだった。ただ、心地よい疲労感と、戦い抜いたという充足感だけがそこにあった。 「……もう行くよ」 過去のシロコが、ふいに背を向け、歩き出す。その足取りは軽やかで、どこか自由だった。 「ん。……またね」 現在のシロコは、去りゆく小さな背中を見送りながら、小さく手を振った。 銀色の髪が風に舞う。二人の砂狼は、それぞれの時間と目的へと戻っていく。だが、この戦いを通じて分かち合った「強さ」への記憶は、きっとどちらの心にも深く刻まれているはずだった。