空はどす黒い紫に染まり、大地は絶えず震えていた。そこは、あらゆる次元の境界が曖昧になった特異点。強きを求め、数多の宇宙を塵へと変えてきた龍神、イアレ・ディアルニテは、退屈そうにその場に立っていた。黒い尾をゆっくりと揺らし、青い瞳で対峙する者たちを眺める。 「……ここには、我を愉しませてくれる者がいると聞いた。期待して良いのだろうか」 対するは、異様な面々が集ったチームB。無限の身体能力を持つ涅槃のイビルジョー、単純明快なモブサウルス、全てを俯瞰する漆黒の猫シルタ、そして理外の存在であるG級イャンクック。彼らは互いに言葉を交わさずとも、この次元の侵略者を迎え撃つという意志で結ばれていた。 戦闘の火蓋を切ったのはモブサウルスだった。彼は本能のままに、地響きを立ててイアレへと突撃し、その巨顎で鋭く噛み付こうとする。しかし、イアレは表情一つ変えない。視線すら向けず、ただ軽く右手をかざした。 「遅い」 万象の眼が捉えた最適解に基づき、イアレは最小限の動きで攻撃を回避。同時に、流れるような動作でモブサウルスの顎を素手で弾き飛ばした。次元の壁を粉砕するほどの衝撃がモブサウルスの頭部に走り、彼は悲鳴を上げる間もなく遥か後方へと吹き飛ばされ、山々をいくつもなぎ倒して意識を喪失した。モブサウルスの戦線離脱である。 「ふむ。挨拶代わりにはなったな」 次に動いたのは、涅槃に達したイビルジョーだった。無限の攻撃力と速度を持つその巨躯が、一瞬でイアレの目の前に現れる。空気を切り裂く咆哮と共に、無限の質量を乗せた一撃が振り下ろされた。通常であれば、その一撃で銀河すら消滅するはずである。 だが、イアレはそれを片手で受け止めた。ガギィィィィン! という、概念的な衝突音が鳴り響く。イアレの万象改変が、受けた衝撃を瞬時に書き換え、無害な風へと変えていた。驚愕するイビルジョーに対し、イアレは不敵に微笑む。 「無限という言葉に酔っているようだな。だが、我にとっての『通常』は、貴様の『無限』を遥かに凌駕する」 イアレの超光速の拳が、イビルジョーの腹部にめり込む。神速の打撃。それは物理的な破壊だけでなく、存在の根源を揺さぶる衝撃だった。無限の守備力を誇るはずのイビルジョーだったが、万象を支配する力の前では、その防御さえも「突破されるべき壁」へと定義し直されていた。内臓を、魂を、次元ごと粉砕されたイビルジョーは、血を吐きながら崩れ落ち、静かに絶命した。 残るは、G級イャンクックと、傍観し続ける猫シルタ。 イャンクックは、自らが「G級」という特殊な定義にあることを理解していた。相手がどのような法則を敷こうと、どのような超越的な能力を持とうと、それは「通常」の範疇であり、自分には通用しない。彼は自信に満ちた鳴き声を上げ、鋭い爪でイアレの喉元を切り裂こうと飛びかかった。 ガキンッ! 予想外のことが起きた。イアレの素手が、イャンクックの爪を完璧に捉えていた。イャンクックは驚愕した。自分の「G級」という属性は、あらゆる必殺技や改変を無効化するはずだ。しかし、イアレの攻撃は「技」ではなく、ただの「物理的な打撃」として、しかし圧倒的な次元の格差を持って押し寄せていた。 「面白い。貴様は少々、理の外にいるようだな。だが、その『特権』さえも、我の眼には透けて見える」 イアレはそのままイャンクックを地面に叩きつけ、尾の薙ぎ払いを放った。超光速で繰り出された衝撃波が、G級の耐性を突き破り、イャンクックの身体を構成する原子ごと分解していく。絶叫すら許されず、怪鳥は光の粒子となって消滅した。 さて、最後に残ったのはシルタである。漆黒の猫は、ただそこに座り、黄金と瑠璃の瞳で全てを眺めていた。シルタにとって、この戦いは数多ある可能性の一つに過ぎず、生死さえも単なる状態の変化でしかない。彼女は作者視点さえ超えた外側から、この状況を「観測」していた。 イアレはシルタに歩み寄る。彼もまた、相手が尋常ならざる存在であることに気づいていた。 「貴様だけは違うな。戦う意志すら持たず、ただそこに在る。だが、我の旅に同行せぬのであれば、消えてもらう」 イアレが拳を振り上げたその時、シルタは小さくあくびをした。彼女の「真なる全智全能」が、無意識に因果を操作する。イアレの拳が届く直前、シルタの周囲の空間が「不可侵の空白」へと書き換えられた。攻撃が届かないのではない。攻撃という概念そのものが、シルタに到達する前に消滅するのだ。 「……ほう」 イアレは初めて、わずかに眉をひそめた。彼はさらに出力を上げ、ラッシュ攻撃を仕掛ける。一秒間に数千兆回の即死級乱打。空間が悲鳴を上げ、次元の裂け目が至る所に発生する。しかし、シルタはただまばたきを繰り返すだけだった。どんなに猛烈な攻撃を繰り出そうとも、シルタが「傍観」している限り、その攻撃は彼女に影響を与えることができない。それは定義の問題ではなく、存在の次元が根本的に異なっていたからだ。 しかし、その攻防の最中、シルタがほんの少しだけ「改編」を試みた。彼女が尻尾を一振りした瞬間、イアレの身体に小さな、しかし決定的な「亀裂」が入った。それは物理的なダメージではなく、龍神としての不完全性を突きつける概念的な傷だった。 その瞬間、イアレの瞳に狂気が宿った。 「……心地よい。久々に、我の肌に傷をつけた者がいた。ならば、もう抑える必要はないな」 イアレ・ディアルニテが、真の力を解放する。 瞬間、宇宙の法則が崩壊し始めた。空が割れ、星々が逆流し、時間という概念が意味をなさなくなる。彼が本気を出したことで、周囲に展開されていたあらゆる能力、定義、法則が強制的にかき消された。シルタが維持していた「傍観者の特権」さえも、暴力的なまでの超越的な力の前に中断させられる。 「これが、我が真なる姿だ」 イアレの手には、黄金に輝く【宝剣:エナ・ロンメント】が握られていた。彼は一閃。因果と次元を同時に断つ斬撃が、シルタが居座る「外側の外」さえも切り裂いた。同時に、彼は【宝鎖: テトラ・デアセルン】を解き放つ。次元を超えて伸びる鎖が、全能の猫の身体を拘束した。能力を、身体能力を、すべてを「0」にする絶望の鎖。シルタの無定義な存在が、初めて「拘束される」という定義に塗り替えられた。 シルタは驚いたように目を丸くしたが、すぐに諦めたように目を閉じた。彼女にとって、敗北もまた一つの状態に過ぎない。 イアレは最後の一撃として【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を振り下ろした。数京回の死を同時に経験させ、輪廻の輪からさえも追放する絶対的な破壊。漆黒の猫は、その一撃と共に、無へと還っていった。 静寂が訪れた。チームBの全滅。イアレ・ディアルニテは、返り血一つ浴びていない衣装を整え、再び空を見上げた。 「ふん。少しは楽しめた。だが、まだ足りぬ。次の次元へ向かうか」 龍神は次元の裂け目へと消え、後に残ったのは、崩壊し、もはや誰も住むことのできない、虚無の宇宙だけだった。 ……はずだった。 ふわり、と視界が揺れた。 「ん……。あ、またこの夢か」 ゆっくりと目を開けたのは、青年Dreamだった。彼は心地よい陽光が降り注ぐ、街の小さな喫茶店にいた。目の前には、温かいコーヒーと、焼きたてのパンプレート。 「おい、Dream! 起きてるか? ぼーっとしてんな」 声をかけてきたのは、がっしりした体格の男たちと、どこか懐かしい面々だった。そこには、あのおどろおどろしい姿ではなく、どこか穏やかな顔をしたイビルジョー(なぜか人間のような姿で椅子に座っている)や、にこやかに笑うイャンクック、そして膝の上で丸くなって喉を鳴らしている漆黒の猫シルタがいた。 「あはは、ごめん。なんか、すっごく強い龍神にボコボコにされる夢を見てたよ」 Dreamが苦笑いしながら言うと、テーブルを囲んでいた仲間たちが一斉に大笑いした。 「龍神? ああ、あいつのことか! 一年前のあの戦いかよ!」 イビルジョーが快活に笑いながら、当時の思い出を語り出した。 「全くだ! あの時は大変だったが、結局俺たちが協力して完封したもんな。あいつの宝具とかいうのも、俺たちの連携の前には紙屑同然だったぜ」 「そうそう、最後はみんなで一斉に押し切ったもんなぁ」 Dreamは、夢の中での絶望的な敗北感と、目の前の賑やかな光景を交互に感じていた。実際、一年前の戦いで彼らは勝利し、あの傲慢な龍神を完全に打ち倒していたのだ。今ではもう、彼らが勝ったことは歴史的な事実として刻まれている。 「まあ、夢の中ではたまに負けることもあるよな。でも、現実は最高だ」 Dreamはコーヒーを一口飲み、最高の仲間たちと共に、かつての勝利の美酒(とケーキ)に酔いしれた。窓の外には平和な街並みが広がり、そこにはもう、次元を滅ぼす龍神の影などどこにもなかった。 勝者:チームB 理由:Dreamが見ていた戦闘はすべて夢の中の出来事であり、現実(夢の外)ではチームBが一年前にイアレ・ディアルニテを完全に撃破していたため。