天空も大地もなく、ただ紫と黒の星雲が渦巻く異次元空間。そこは物理法則が希薄であり、精神的な意志が現実を規定する特異点であった。そこに集められたのは、二つのチーム。対極的な能力を持つ者たちが、ただ一つの勝利を懸けて対峙していた。 チームAは、奔放な【自由人】リバティ・フリダム、底知れぬ時を生きるアニマ、基礎の極致に到達した騎士ギース、そして沈黙の剣士・流罪ちゃん。対するチームBは、万能の盾と矛を併せ持つクリスタナ=QEX。数的な不利は明白であったが、クリスタナの放つ威圧感は空間そのものを震わせていた。 「さてさて、相手は一人か。ラッキーだと思っていいのかな?」 リバティが肩をすくめ、愛用の【自由の鉤縄】を指先で弄ぶ。その隣で、ギースは静かに長剣を抜き、地平線なき空間に剣先を向けた。 「数に頼るは卑道なれど、これが定めであるなら受け入れよう。基本こそが最強。それを証明してくれようぞ」 クリスタナは冷徹な視線で彼らを捉えていた。彼女にとって、相手が誰であろうと関係ない。最適解を導き出し、排除する。それだけである。 「無駄な会話は不要。消えなさい」 戦闘の火蓋は、リバティの快活な叫びと共に切って落とされた。 「行くぜ! フックショット!」 リバティが鉤縄を射出。それが空間のどこかにある「見えない足場」に引っかかったかのように、彼は猛烈な速度でクリスタナへと肉薄する。空中で体をひねり、鉤縄をフレイルのようにぶん回して叩きつける。しかし、クリスタナは眉一つ動かさない。 「[ウォー/リア]」 瞬時に現れた破壊不能の不可視の壁が、リバティの猛攻を完全に遮断した。激しい衝撃音が響き渡るが、壁は微塵も揺るがない。リバティは空中でバランスを崩したが、すぐに別の方向へフックショットを放ち、機敏に距離を取った。 「おっと、硬いね! ならばこっちはどうだ!」 リバティが腰の【FP-45解放者】を抜き、電光石火の速さで一発を撃ち込む。弾丸はクリスタナの肩をかすめた。命中こそしなかったが、リバティの目的はそこではなかった。弾丸の軌道を利用して、クリスタナの注意を逸らした隙に、背後からもう一人の影が忍び寄る。 流罪ちゃんである。彼女は一切の声を上げず、ただ静かに姉妹剣を構えていた。彼女の剣舞は、舞踏のように美しく、同時に残酷だ。[流罪の剣幕]による回避といなし。クリスタナが迎撃のために放った[ドル/バリア]の爆発球を、流罪ちゃんは紙一重でかわし、その爆風を利用して加速する。 「……!」 クリスタナが初めて警戒の色を見せた。流罪ちゃんの剣が、世界の理を破綻させる「初・理の非可逆的破綻」を孕んで切り裂く。空間に亀裂が走り、そこから「綻び」が生じる。しかし、クリスタナは冷静に[万無斥力]を展開した。 足元に突如として現れた黒い穴が、流罪ちゃんの身体を強引に吸い込もうとする。流罪ちゃんは空中で身を翻し、自身の生み出した「綻び」へと飛び込み、空間を透過して穴の拘束を逃れた。 「ふむ、実に興味深い連携よな」 ギースが静かに歩み出る。彼の足取りには迷いがない。派手な魔法も、特異なスキルもない。ただ、完璧な重心移動と、無駄を削ぎ落とした剣筋。彼はクリスタナに向かって真っ直ぐに突き出した。 「基礎的な突きだ。だが、避けることはできまい」 クリスタナは再び[ウォー/リア]を展開して防ごうとする。しかし、ギースの剣は「壁」を壊すのではなく、壁の「継ぎ目」とも言える最小の隙間を、圧倒的な経験値に基づいた精密さで突き抜けた。防御のタイミングをコンマ数秒ずらす。基礎の極致による、理詰めの攻撃。 「っ……!」 クリスタナの腕に浅い切り傷が走る。彼女は驚愕した。単純な剣撃であるはずなのに、それが完璧すぎるがゆえに、予測しきれなかったのだ。 そこへ、アニマが静かに手をかざした。 「『21.3のスプリング』」 アニマが触れた空間の破片が、自律命令を得てクリスタナの周囲を高速で旋回し始める。さらに「繋ぎ離すスクリュー」によって、空間そのものが歯車のように回転し、クリスタナの方向感覚を乱した。 「さらに、これを持って」 アニマが召喚したのは、身の丈ほどの巨大な長針と短針。それがクリスタナの周囲に配置されると、「時を守り貫く針」の効果が発動した。クリスタナの動きが、目に見えて緩慢になる。時間の遅延。これこそがアニマの真骨頂であった。 「遅いな。今の貴女なら、リバティの弾丸すら避けられない」 リバティが再び【FP-45解放者】を構える。リロードに7秒かかる不便な銃だが、相手が遅延していれば関係ない。彼は正確にクリスタナの足元の装備を狙い、引き金を引いた。 ガキンッ! 弾丸が命中し、クリスタナが展開していた防御システムの制御装置の一部が、リバティのスキルによって強奪された。 「やったぜ! これで防御がガタガタだ!」 絶好のチャンスだった。チームAの四人は、同時に襲いかかる。リバティの鉤縄による拘束、アニマの針による時間停止の予兆、ギースの容赦なき基本剣術、そして流罪ちゃんの理を修正する一撃。 しかし、クリスタナは絶望していなかった。彼女は自らの身体を核として、全魔力を解放した。 「甘い……! [ドル/バリア]・オーバーロード!」 彼女の周囲に数百もの小型球体が展開され、同時に爆発を起こした。特攻していたリバティと流罪ちゃんが爆風で弾き飛ばされる。ギースもまた、その衝撃波に押し戻された。空間全体が白光に包まれ、凄まじい衝撃がチームAを襲った。 爆煙の中から、クリスタナが冷たく笑う。だが、彼女の身体も限界だった。装備を奪われ、身体にはギースの斬撃と流罪ちゃんの「破綻」が刻まれている。 「……ここまでよ。あなたたちの連携は認めましょう」 クリスタナが最後の一撃を放とうとしたその時、アニマの身体が崩れ落ちた。爆発の直撃を受けたのだ。しかし、チームAの面々は絶望しなかった。なぜなら、アニマのスキルには「最後」が用意されていたからだ。 アニマの身体から、どす黒い魔力が溢れ出した。被撃破時のみ発動する究極の権能。ローブを纏った真の姿へと変貌したアニマが、静かに口を開く。 「『█▉▅▎▃▉』」 世界が止まった。 文字通り、すべての時間が停止した。渦巻く星雲も、舞い散る火花も、そしてクリスタナの思考さえも。静寂が支配する異次元空間で、アニマだけがゆっくりと歩き出す。その瞳には、数千年の孤独と、冷徹な理性が宿っていた。 「全ては、在るべき姿に」 宣告と共に、アニマの手がクリスタナの胸元に触れた。それは攻撃ではない。ただの「修正」であった。しかし、時間が停止した世界において、その接触は絶対的な拒絶を意味する。 時間が再び動き出した瞬間、クリスタナの身体を激しい衝撃が突き抜けた。彼女が展開していたすべてのバリアが、内部から崩壊していく。抵抗する術はない。時間の支配者の前では、いかなる防御も無意味だった。 「が……はっ……!」 クリスタナは膝をついた。彼女の万能な能力も、アニマの「真の姿」による時間停止と、それに合わせたチームAの波状攻撃の前には屈した。ギースが最後の一撃を、彼女の喉元に静かに突き立てた。殺しはせず、ただの制圧。それが騎士としての礼儀であった。 静寂が戻った異次元空間で、リバティが大きく伸びをした。 「ふぅ、疲れたぜ! まぁ、アニマさんのあの姿が見られたのは収穫だったな」 流罪ちゃんは何も言わず、ただ小さく頷いて剣を鞘に収めた。アニマは再び穏やかな優男の姿に戻り、困ったように笑っている。 「やれやれ、少しやりすぎましたかね」 ギースは剣を鞘に納め、泰然自若とした態度で、敗北したクリスタナを見下ろした。 「派手な術も良いが、最後はやはり、基本と信頼、そして少しの執念が勝敗を分けるものよ」 チームBのクリスタナは、完敗を認めて目を閉じた。個の力は強大であったが、互いの弱点を補い合い、役割を完遂したチームAの結束力こそが、この戦いの決定打となったのである。 【勝利チーム:チームA】