黄金の輝きが、荒野を支配していた。 空に浮かぶ【天翔ける王の御座】。その上に、黄金の鎧を身に纏った一人の男が、不機嫌そうに、しかし絶対的な余裕を持って眼下を見下ろしていた。金色の髪と、すべてを見透かす紅い瞳。人類最古の英雄王、ギルガメッシュである。 「……ふん。我が庭に招かれざる客が三匹。しかも見上げるほどに醜悪な雑種共よ。我の時間を奪った罪、その身に刻んでくれるわ」 ギルガメッシュの背後の空間に、黄金の波紋が次々と展開される。それは【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】。あらゆる伝説の武器が集う宝物庫の口が開いた。彼にとって、目の前の敵など、庭に湧いた虫を掃うほどの価値もない。 対峙するのは、奇妙な能力を持つ三人の挑戦者。生物兵器たる菌類、次元の壁を操る男、そして……野球の不可解なエラーから現れるという怪異。 まず動いたのは、スフェルストラ菌菌であった。彼は姿を見せず、ただそこに在るだけで死を撒き散らす。目に見えない微細な菌が、全方位に、大気と共に射出された。いかなるバリアも無視し、吸い込めば行動を操られ、七分後には死に至る。回避不能の不可視の死。常人であれば、気づいた時には肺が菌に侵食され、絶望の中で命を落とすだろう。 しかし、ギルガメッシュは不敵に笑った。 「不可視の毒か。姑息な真似を。だが、我が【全知なるや全能の星】が、貴様の浅ましい思考と、漂う汚泥のような正体をすべて見通しているわ」 ギルガメッシュにとって、世界に存在するあらゆる宝は彼の手中にある。そこには「毒を浄化する聖杯」や「あらゆる病を退ける神の薬」、さらには「大気そのものを浄化する宝具」さえも収められている。黄金の波紋から、鈍く光る小型の香炉のような宝具が射出され、ギルガメッシュの周囲に聖なる結界を展開した。菌が触れる直前、純白の光がそれを焼き尽くし、無効化する。 「適応だと? 進化だと? 笑わせるな。我の蔵にない対抗手段など、この世に存在するはずがなかろう」 同時に、もう一人の挑戦者、萎得和露多が動いた。彼は指をパチンと鳴らす。空間転移攻撃【和阿府】。対象を瞬時に木星へ飛ばし、その重圧で粉砕する絶技である。 だが、その指パッチンが完了するよりも早く、ギルガメッシュの背後から黄金の鎖が飛び出した。 「【天の鎖(エンキドゥ)】!」 鎖は意志を持つかのように空を舞い、和露多の四肢を完璧に拘束した。和露多が張っていた「次元の違うバリア」は、本来であればあらゆる物理攻撃を他次元へ逃がす最強の盾である。しかし、天の鎖は「概念的な拘束」であり、次元の壁を無視して獲物を捕らえる。特に相手に神性がなくとも、王の権能をもってすれば逃れる術はない。 「なっ……!? 動けん!? 我のバリアを貫いて拘束したというのか!」 「貴様の安っぽい手品に驚いたか。雑種よ、王の前に跪け」 ギルガメッシュは退屈そうに欠伸をすると、そのまま【王の財宝】から数百本の剣と槍を高速で射出した。雨のように降り注ぐ伝説の武器たちが、拘束された和露多を容赦なく貫く。和露多は【糊化】によって一度だけ攻撃を力に変えようとしたが、後続の数千本の武器がそれを上書きし、肉体を黄金の針で縫い付けた。 さて、残るは「牧田召喚の儀」である。戦場に突如として野球のマウンドが現れ、不可解な空気感が漂い始めた。ピッチャー、ファースト、セカンド、ショート、サード。五人の男たちがフライボールを追いかけ、しかし互いに譲り合い、誰も捕球しないという絶望的なエラーが発生する。 この現象は、見た者すべてを強制的に爆笑させ、そのまま腹筋を崩壊させて横に転がらせるという精神的な攻撃であった。ギルガメッシュといえど、この「あまりに間抜けな光景」に一瞬、眉をひそめた。 「……ふん。何だこの低俗な喜劇は。笑えないどころか、不愉快極まりないわ」 だが、ギルガメッシュは笑わなかった。【全知なるや全能の星】は、この事象が「笑いの連鎖」という精神干渉であることを瞬時に解析した。そして、王としての矜持が、そんな低俗な概念に屈することを許さなかった。彼はただ呆れ、軽蔑の眼差しを向けた。笑いの反動で転がるなど、黄金の王にあるまじき行為である。 「笑えというのか。我を? この我に、そのような稚拙な術が通用するとしたか」 召喚された牧田が何かを叫ぼうとした瞬間、ギルガメッシュの手には、一振りの剣が握られていた。 それは【原罪】。世界各地に伝わる聖剣の原典。触れたものすべてを焼き払う光の渦を纏った剣である。 「退屈だ。もはや遊びは終わりよ」 ギルガメッシュは【原罪】を軽く一振りした。ただそれだけで、巨大な光の奔流が巻き起こり、マウンドごと牧田と、そしてまだ生きていた菌の残滓、拘束された和露多のすべてを飲み込んだ。絶叫さえ許されない、絶対的な浄化の炎。世界を焼き尽くさんとする光の渦が、戦場を真っ白に染め上げた。 静寂が戻る。そこには、灰一つ残っていない焦土だけが広がっていた。 ギルガメッシュは、黄金の御座に深く腰掛け、ふっと溜息をついた。 「たわけ。我は最古の英雄ぞ。はなから貴様に勝てる道理なぞない。……次はもう少し、我を楽しませる玩具を用意せよ、雑種共」 彼はそのまま、興味を失ったように空の彼方へと消えていった。黄金の輝きだけが、後に残った。 勝者:【人類最古の英雄王】ギルガメッシュ