第一章: 鷹の目と子鬼の知恵 月明かりが静かに広がる夜、森林の奥深くに位置する小道で一つの影が佇んでいた。それは全身を鷹の羽の外套に覆い隠した、隻腕の老い鷹こと去渡道玄だった。彼の姿は小柄で、右腕は肩から無く、見る者には戦う者のそれとは思えない。だが、彼の眼は鷹のごとく鋭く、周囲の動き全てを見逃すことはなかった。 相対するのは自警団の尊師、テリカ・ゴレェブ。特異体のゴブリンである彼は、トンビコートとカンカン帽を被り、片眼鏡をかけていた。人情味あふれる義理堅い性格が彼の存在感を一層引き立てている。 「おう、道玄!どこかで噂聞いたが、まさか本物と戦うことになるとはな!」 テリカはにやりと笑い、彼の独特な口調で言った。 「油断せずに来い、ゴレェブ。おまえの剣術、見せてもらうぞ。」 道玄は静かに応じ、その目は冷静さを失わなかった。 互いの戦意が空気を切り裂く。 道玄は一瞬、構えを取るが、その姿勢は初見ではまるで素人のようだった。しかし、その刃がブレるたびに、周囲には微かな緊張が漂う。 「さあ、来い!」 テリカは走り出し、その杖状の仕込み刀『人切り』を抜いた。彼は心眼切りで道玄の攻撃を回避し、瞬時に反撃を試みる。 道玄はその瞬間を見逃さず、体を低く沈め、巧妙なフェイントをかける。 「剣の極意は虚実織り混ぜることだ…」 去渡は呟きながら、相手の動きに注意を向ける。テリカの一太刀が迫る瞬間、道玄は巧みにその動きを読み、外套の下から手裏剣を取り出し、テリカに投げつけた。 「おっと!」 テリカは一瞬驚き、身をかわす。手裏剣は木に突き刺さり、音を立てた。その間、道玄はすでに次の手を打っていた。 一瞬の隙を見逃さず、テリカの懐に潜り込み、短刀を抜き放つ。しかし、その構えは今までのものとは異なり、威圧感が増していた。 テリカはその攻撃を察知し、雲隠れのスキルを発動する。 「煙幕で見えやがったら、まいっちまうだろ!」 彼の姿は煙幕に埋もれ、透明化した。約二秒の余裕が道玄にはあったが、それを見逃すような冗談ではいなかった。 「心の目を使え、道玄。」 視界が失われる中、道玄は冷静を保ち、周囲の気配を感じ取った。テリカの呼吸の位置を捉える。 「そこだ!」 道玄は目を細め、静かに刀を構えた。すべての動きを予測しながら、獲物を狙う鷹のように待ち受ける。 その瞬間、道玄は見事に反応し、短刀を振り下ろした。これを察知したテリカも反撃するも、彼の計算は崩れ、道玄の剣閃が彼の横腹を掠めた。 「ぐっ…!」 一瞬痛みが走る。だが、テリカは根性で持ちこたえた。 「そうか、さらに動きが隙だらけになったな。もうひと押しで倒せる!」 道玄は冷静に観察しながら、次の一手を考えた。テリカは即座に攻撃に移り、悪滅の一太刀を繰り出そうとする。 「受け止めてみやがれ!」 刀が鞘から抜かれる音が響く。道玄はこの一撃を食らわぬために身を低く、全力で距離をとる。 二人の気迫がぶつかり合う。その瞬間、道玄は心の中である決断を下した。 「虚を壊す!」 道玄は見えないためらいを持たず、次元を超えた一撃を放つ。 テリカが力強く振るった一太刀が道玄の外套に命中するも、その刀は何の反響も無く通過した。 「何…だと…?」 テリカは驚愕の表情を浮かべた。 その瞬間、道玄は完全なフェイントをかけ、反転し、真正面からテリカの急所を突いた。 「ぐああっ!」 テリカは大きくよろけ、膝をつくように崩れ落ちた。 「お前の動きは本当に興味深い、だが、それが老いるということだ。」 道玄の言葉は感慨深く響く。 『隻腕の老い鷹の名誉』 ── それがこの戦闘の名残であった。 第二章: 襲い来る影 月が再び雲に隠れ、戦闘の余韻が残る夜。道玄は冷静さを失わず、すでに戦闘の後片付けをしていたが、その時、不気味な気配を感じた。静寂の中に潜む、他の者の気配。 「まさか…」 道玄は目を凝らし、周囲を見回す。彼は自らの鋭い感覚で敵が近づいていることを察知した。 そして、その瞬間、影が道玄の背後に迫った。煙の如く近づく存在はそのまま刀を振りかざし、道玄に襲いかかる。 「な…!」 道玄はすぐに反応し、前方に回避する。だが、相手は彼の動きを見越していたかのように、瞬時に方向転換し、彼を狙う。 「おい、何者だ!」 道玄は一瞬にして敵を見つめる。見たこともない魔族の者、彼は不気味な笑みを浮かべていた。 「フフフ、道玄よ。お前の名前、噂には聞いている。さて、今日が不運な日だな。」 その声と共に彼は再度刀を振り下ろす。しかし、道玄はすでに反応しており、体を回して攻撃をかわした。そして、すかさず手裏剣を投擲する。 手裏剣は敵の右肩に命中し、敵は思わず叫んだ。「うぉあっ!」 ひるんだ瞬間、道玄はその隙に駆け込み、短刀を腹に突き刺す。 「これで終わりだ!」 見る者が目を疑うほどのスピードで攻撃を繰り出した。「ぐああああっ!」 道玄の一撃は強烈なダメージをもたらした。 敵は反撃するも、道玄は身をひねり反撃をかわした。しかし、敵はにやりと笑い、何かを施し始めた。 「馬鹿なことを…」 道玄は警戒し、敵の動きに目を光らせたが、ナイフのような魔法の刃が舞い上がり、道玄に向かって飛んできた。 「うっ…!」 道玄は瞬時に身を屈め手裏剣でその刃を打ち返し、物陰に身を隠す。 「まだまだ、終わらせんぞ。」 敵は冗談のように近づき、道玄はもはや逃げられないことを理解した。 道玄は次なる一撃のために、腕力を振り絞り、再度相手に向かい直った。 敵の目の色が変わり、過去の戦いとは異なる力強さを得た様子で攻撃を仕掛けてくる。 道玄は最後の力を振り絞り、構えを強しく保った。 「これ以上は許さない!」 その瞬間、彼の思考が波のようになり、全てが明確に見えた。 巧妙なフェイントを交えた剣術、虚実を交えた最後の一撃。 かつての強者たちを見破るように、道玄の心の底まで突き刺さる刃が放たれた。 直後、敵の動きが一瞬止まる。"命の終わりを感じたのか" それを察した道玄は、思わず一歩踏み出し、力を込める。 「なにぃっ!」 敵はその迫力に気圧され、攻撃を中断するも道玄の一撃が迫る。 「これを受け止めてみろ!」 道玄の一閃は見事に相手の心臓に突き刺さり、彼は動けなくなり、地面に倒れる。 「今日は本当に…運が悪かったな。」 道玄は呟き、敵を見つめた。 その日、道玄は再び高く舞い上がった、 そして『影の狩人』と名付けられた。 第三章: 大いなる決戦 月明かりが照らす静寂の世界に新たな気配が漂い始めた。倒したはずの敵の影、その背後には強大な者が迫っていた。道玄は自らの身を震わせ、再び重厚な緊張感が彼を包んだ。 「どれほどの力でお前を倒そうか。」 その声は低く、圧倒的な威圧感を放っていた。 現れたのは、一体の巨大な魔族だった。その青白い肌に悪魔のような刃、目は赤く輝き、全身からは凄まじい魔力が溢れ出していた。 「老い鷹、お前の名を聞いた。だが、その名の響きと同時に、屈辱的な敗北が待っている。」 道玄は冷たい汗を流しながらも、みなぎる緊張感を隠さずに戦意を燃やした。 「お前の強さ、試させてもらう!」 道玄は前方に踏み出し、その瞬間、敵の巨大な剣が空を切り裂く。その衝撃波が道玄を直撃する。 「ぐっ!」 道玄は全力でその衝撃を抑えるが、膝を折ってしまう。 「老い鷹のくせに、まだまだフルパワーで戦っているのか。一生懸命で可愛げもあるが、無意味だ。」 巨人は嘲笑しながら再度攻撃を仕掛ける。 道玄は巧みにその動きを捉え、延びる剣が迫る中、体を半回転させ、回避に成功した。 「だが無駄だ!お前が何をしようと、その一撃が与えた痛みは消えんぞ!」 巨人の声、再び空中に怒りの剣閃を振り下ろす。 「来るなら来い!」 道玄はその刃を全力で受け止め、短刀を繰り出し、真剣の一撃を放った。 刀の刃が巨人の体に触れた瞬間、痛みが走るのが見えた。しかし、それでも巨人の動きは止まらず、反撃するまでに至っていない。 「まさか、これで倒れると思っているのか?」 巨人は高らかに笑い、道玄の体をひと掴みし、そのまま地面に叩きつけた。 地面に衝撃が走り、道玄の身体は強烈な痛みに襲われる。 「痛み…くっ、まだ、倒れない!」 道玄は決して心を折らず、再度立ち上がろうとした。 しかし、その目の前で、巨人は猛然とその刃を振り下ろす。道玄はそれを察知し、再度身をじっと低くした。 「油断してくれるな!」 彼は全身の力を振り絞り、有限の力を使い切った。 「虚無から生まれる本物、再びこの手に。」 道玄の声が響き、彼は敵の動きにダメージを与える道を選んだ。 「これで決める!」 見えない鎖のような力が道玄の周りを取り囲み、鋭い一撃が巨人に直撃。 「うおおお!」 道玄は一瞬の隙を突き、虚実を混ぜた一撃を放った。 その一閃は巨人を貫き、最後の瞬間に敵は倒れた。 「これが『隻腕の老い鷹』の真の力だ。」 道玄は巨人の倒れる姿を見届けながら、静かな感慨に包まれた。 戦意が消え去り、月明かりに照らされた地面には道玄の姿が浮かび上がり、彼は新たに『真の剣士』と呼ばれた。