陽光が降り注ぐ、どこまでも続く穏やかな公園の広場。そこは次元の壁が薄くなっているのか、あるいは単なる偶然か、異なる時間と場所からやってきた奇妙な二人組が対峙していた。 一人は、派手な衣装に身を包み、手首に三つの時計を嵌めた男、ホル・ホース。彼は慣れた手つきで煙草を口に咥え、紫色の煙をゆっくりと吐き出した。その表情には余裕があり、同時にどこか「ナンバー2」としての心地よい立ち位置に甘んじているような、軽薄さと自信が同居している。 対するは、仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、整った髪型を崩さない男、吉良吉影。彼は自身の指先を眺め、まるで午後のティータイムを待つかのように静かに佇んでいた。その瞳には、争いへの熱意など微塵もなく、ただ「静かな日常」を乱されたことへの軽い困惑と、目の前の相手を効率的に片付けたいという淡い願望だけが宿っている。 二人の間には、奇妙な空気が流れていた。殺伐とした殺意はない。どちらかといえば、「いい運動になるな」とか「暇つぶしにちょうどいい」という、挨拶がわりに拳(あるいは能力)を交わす、社交ダンスのようなノリである。 「よう、お洒落な旦那。ここらで軽く一勝負しようぜ。俺の『皇帝』の弾丸が、あんたのその綺麗なスーツに穴を開けないことを祈るぜ」 ホースがニヤリと笑い、指を鳴らす。同時に、彼の背後に黄金に輝くリボルバーのような姿をしたスタンド、『エンペラー』が出現した。出現音は「メギャン」という、どこかコミカルでありながら鋭い音だった。 吉良は小さく溜息をつき、丁寧な口調で応えた。 「おや、物騒な挨拶ですね。私はただ、静かに散歩を楽しみたいだけなのですが……。ですが、あなたのようなタイプの方は、一度完膚なきまで叩き伏せないと、いつまでも騒がしい。それが私の『平穏な生活』への近道ということになりましょう」 吉良の背後にもまた、不気味な静寂を纏ったスタンド、『キラークイーン』が姿を現した。ピンク色の肌をしたその姿は、不気味なほどに冷静で、いつでも「スイッチ」を押す準備ができている。 「へっ、理屈っぽい野郎だ。じゃあ、挨拶代わりの一発、いくぜ!」 ホースがトリガーを引いた。メギャン!という音と共に、目に見えない弾丸が超高速で射出される。しかし、その弾道は直線ではない。ホースの意のままに空中で鋭く曲がり、吉良の右肩を狙った。 だが、吉良は慌てない。彼は軽くステップを踏み、弾道を回避しながら、足元の小石をそっと踏んだ。その瞬間、キラークイーンの能力で小石が「爆弾」へと変わる。 「ふむ。弾道を操作できるようですね。しかし、私の爆弾は『触れたもの』すべてを対象にします」 吉良が指先で小さくスイッチを模した動作をすると、足元の小石が激しく爆発した。ドォォォン!という轟音と共に土煙が舞い上がる。ホースはひょいと後ろに飛び退き、煙の中で笑った。 「あはは! 危ねえな! だがな、俺の弾丸は『消音』だ。どこから撃たれたか分からねえまま、あんたの足元に穴が開くぜ!」 ホースは乱射を開始した。エンペラーの最大火力射程は50メートル。この距離なら十分だ。弾丸は空中でジグザグに、時には円を描くようにして吉良を追い詰める。吉良はそれを最小限の動きで避けながら、冷静に分析していた。 「速い。そして予測不能な軌道だ。ですが、射撃というものは結局のところ『点』の攻撃。対して私の爆弾は『面』と『追尾』です」 吉良が左手をかざすと、そこから小さな、しかし強固な戦車のようなスタンド、『シアハートアタック』が射出された。 「なんだありゃ? おもちゃか?」 ホースが嘲笑した瞬間、シアハートアタックは猛烈な速度でホースの持つ煙草の「熱」を感知し、一直線に突き進んだ。ホースは慌てて弾丸をシアハートアタックに叩き込む。 メギャン! メギャン! メギャン! 連射された弾丸がシアハートアタックに命中し、火花が散る。しかし、この自動追尾爆弾は無敵に近い防御力を誇る。弾丸が当たっても、びくともしない。 「冗談だろ!? 俺の弾丸が効かねえ!?」 「驚くのはまだ早いですよ。あれは熱を追う。あなたが煙草を吸い続け、体温を上げている限り、逃げ場はありません」 ホースは慌てて煙草を地面に捨てた。しかし、シアハートアタックは今度はホース自身の体温にロックオンし、猛スピードで突っ込んでくる。ホースはなりふり構わず後方に跳躍し、空中で身をひねりながらエンペラーを最大出力で起動させた。 「ちっ、しつこい野郎だ! ならばこれでどうだ!」 ホースは魔力を5倍に引き上げ、一点集中した超高威力の弾丸を射出した。弾丸は空中で鋭角に曲がり、シアハートアタックの真上から叩き落とそうとする。しかし、吉良はそれを予測していた。彼はわざと自分のスーツの袖を少しだけ切り裂き、そこにキラークイーンで爆弾を仕込んでいたのだ。 ホースが放った弾丸が、吉良の袖に触れた瞬間。吉良は静かに指を鳴らした。 カチッ。 「チェックメイトです」 ドガァァァン!! 弾丸そのものが爆弾へと変えられ、誘爆した。至近距離での爆発に、ホースは派手に吹き飛ばされ、芝生の上に大の字に転がった。しかし、このバトルは「ケガや死亡が存在しない」というルールに基づいているため、ホースは真っ黒に焦げた格好で、煙を出しながら「げほっ、げほっ」と咳き込むだけで済んだ。 「げっ……。弾丸まで爆弾にするなんて、えげつねえぞ、あんた」 ホースは苦笑いしながら、三つの時計を確認した。時間はちょうどいい。これ以上の深追いは、ナンバー2としての美学に反する。 「参ったよ。あんたのその『静かに暮らしたい』って願い、実は相当に攻撃的なんだな。完敗だぜ」 吉良は満足げに、汚れひとつない(ように見える)手袋を整え、穏やかな微笑みを浮かべた。 「ふふ。褒め言葉として受け取っておきましょう。あなたもいい腕を持っていましたよ。弾道の操作は実に見事でした。もし私が、もっと暇な人間であれば、もう少しお相手したところですが」 二人は立ち上がり、互いに軽く会釈を交わした。そこには、激しい戦闘の後の奇妙な連帯感があった。吉良はどこからか取り出したハンカチで、わずかに付着した煤を拭い、再び静かな散歩へと戻っていく。 「じゃあな、旦那。またどこかの次元で会おうぜ。次はもっといい煙草を持ってきてやるよ」 「ええ、期待していますよ。それでは、良い一日を」 ホル・ホースは再び煙草に火をつけ、紫色の煙を空に逃がした。吉良吉影は、その後ろ姿に一度だけ視線を送り、再び自分の完璧な日常へと消えていった。 勝敗の決め手は、ホースの「攻撃の点」を吉良が「爆弾という罠」で利用した点にあった。弾丸という不可視の攻撃を逆手に取り、それを起爆剤へと変換した吉良の冷静な判断力が、このカジュアルバトルの結末を導き出したのである。 公園には再び静寂が訪れ、ただ、地面に小さな焦げ跡だけが、二人の賑やかな挨拶の証として残っていた。