第一章:天頂の円形劇場(コロッセウム) そこは、世界の頂点。地上のあらゆる雲を遥か下に見下ろす、成層圏の境界線に近い「虚空の聖域」であった。 視界を埋め尽くすのは、突き抜けるようなコバルトブルーの空。しかし、その青はあまりに深く、黒に近い色へとグラデーションを描きながら宇宙の深淵へと繋がっている。眼下には、刷毛で掃いたような白い雲海が果てしなく広がり、時折、雷雲の塊が遠くで静かに光を放っていた。ここは重力の軛から解き放たれた場所であり、ただ風だけが唯一の支配者である。 天候は「極光の凪」。風は一定の方向から猛烈な速度で吹き付けているが、それは心地よい疾風ではなく、肉体を削り取るような鋭い気流である。その気流に乗って、半透明の小さな光の粒たちが舞っていた。風の精霊たちである。彼らはこの高みの静寂を愛し、今、この天頂に現れた二つの強大な存在による「空の覇権」を巡る戦いを、好奇心に満ちた眼差しで観戦していた。 片や、銀色の翼を閃かせる機械の竜たち。鋼の翼を持つ八機の集団、【鋼の翼】ラプターズ。 片や、純白の翼を広げ、静謐な怒りを湛えた銀髪の少女。《神焔六花の守護天使》スフェーン。 互いの距離は数キロメートル。しかし、彼らにとってそれは瞬き一つの間に詰められる距離に過ぎない。静寂が極限まで高まったその瞬間、空気が震えた。 「ここは天界。そして私は《天使》として……『貴方を始末する』」 スフェーンの凛とした声が、風に乗り、ラプターズのデータリンクへと届いた。