静寂が支配する虚無の空間。そこは次元の狭間であり、あらゆる概念が意味を成さない特異点であった。そこに、一人の男が立っていた。黒髪に青い瞳、そして静かに揺れる黒い尾。多次元の放浪者、イアレ・ディアルニテである。彼は退屈そうに、自らの爪先を見つめていた。 「強者がいると聞いてここまで来たが……ふむ、少々賑やかな客人が揃っているようだな」 彼の前には、正体不明の怪異と、理不尽な能力を持つ者たちが集っていた。チームB。彼らは互いに言葉を交わすことはないが、本能的に共闘し、目の前の龍神を排除しようとしていた。 まず動いたのは、フィールドに突如として現れた「胃碼廻廊」の能力であった。テニスボールのような形状をした正体不明の爆弾が、静かに、しかし確実にイアレの足元へと転がってくる。それはいつ爆発するかわからない死の種子であり、ひとたび起爆すればフィールド全体を消し飛ばす超新星爆発を引き起こす。さらに、相手が攻撃を仕掛けた瞬間に強制的に起爆するという、極めて卑劣かつ強力な罠である。 同時に、空から絶望が降り注いだ。宇宙の深淵に潜む「ショウワクセイ」による、無慈悲な小惑星の雨である。数万、数十万という小惑星が、それぞれが3億度という超高温を纏い、大気を焼き切り、空間を圧砕しながらイアレへと降り注ぐ。その衝撃波は一つの惑星を容易く粉砕し、日本からフランスまでを飲み込むほどの規模で地表を蹂躙する。 そして、その喧騒の端には「迷惑釣り人」がいた。彼はこの極限状態にあっても、不法侵入に近い形で絶妙な位置にバケツを置き、人を寄せ付けない不快なオーラを放ちながら釣竿を垂らしている。彼の存在は戦術的な意味を持たないように見えて、その「居心地の悪さ」と「理不尽な場所取り」が、戦場の心理的な均衡を乱していた。 さらに、チームBの奥底には、名前すら[規制済み]とされた謎の存在が潜んでいた。姿は見えず、能力も不明。しかし、そこに在るだけで周囲の因果を歪ませる、底知れない闇のような圧力が漂っていた。 凄まじい熱量と衝撃、そして爆発の予兆。チームBの猛攻がイアレを飲み込もうとしたその瞬間。イアレは、ただ小さく欠伸をした。 「……騒がしいな」 イアレは動かない。彼は宝具を一切使わず、ただ素手でそこに立っていた。万象の眼が静かに開かれる。彼にとって、降り注ぐ小惑星も、転がる爆弾も、不可視の怪異も、すべては書き換え可能な「データ」に過ぎなかった。 【万象改変】。 イアレが意識した瞬間、宇宙の法則が塗り替えられた。降り注ぐ3億度の小惑星たちは、イアレに触れる直前で「綿菓子」へと書き換えられ、ふわりと心地よい風に舞って消えていった。胃碼廻廊の爆弾が、彼の足元で猛烈な光を放ち、超新星爆発を起こそうとした。しかし、その「出力」という概念そのものがイアレの万象改変によって上書きされ、爆発の威力は「小さな花火」程度の規模へと縮小させられた。パチン、という軽い音と共に、爆弾は虚しく弾けた。 「ほう、面白い仕掛けだ。だが、それでは我の爪先にも届かぬ」 イアレはゆっくりと歩き出した。その一歩一歩が、空間を心地よく震わせる。彼はまず、不快なオーラを放つ迷惑釣り人に目を向けた。釣り人は不機嫌そうにエギングを続けていたが、イアレが指をパチンと鳴らした瞬間、彼が陣取っていた堤防ごと、空間の裂け目へと吸い込まれていった。抵抗する間もなかった。釣り人の「場所取り」という理不尽は、より上位の「法則支配」によって完全に消し去られたのである。 次に、彼は姿なき[規制済み]へと向き合った。相手の正体は不明であり、見た者は誰も生きていないという。しかし、イアレの【万象の眼】にとって、隠蔽など意味をなさない。あらゆる法則を支配し、森羅万象を見通す碧色の眼は、虚空に潜む「何か」の輪郭を明確に捉えていた。 「隠れていては、強者とは呼べないな」 イアレは素手のまま、空気を軽く薙いだ。神速の打撃。それは超光速を超え、次元の壁を粉砕する一撃であった。姿の見えない[規制済み]は、その不可視の防御壁を展開したようだったが、イアレの拳は物理的な壁など関係なく、概念的に相手を撃ち抜いた。凄まじい衝撃波が走り、[規制済み]であったはずの存在は、その実体を無理やり引きずり出され、そのまま遥か彼方へと吹き飛ばされた。どれほどのステータスを持っていようとも、万象を書き換える拳の前では、ただの標的に過ぎない。 そして、宇宙から小惑星を降らせ続けていたショウワクセイ。イアレは空を見上げ、軽く手を振った。それだけで、宇宙空間にいたはずのショウワクセイの周囲に、強力な重力の渦が発生した。万象改変によって「宇宙の法則」を一時的に書き換えたのだ。ショウワクセイは自らが放っていた小惑星の引力に飲み込まれ、自らの攻撃の残骸と共に圧縮され、一つの小さな点となって消滅した。 チームBの猛攻は、イアレにとって「遊び」にすらならなかった。彼は一度も宝具を抜かず、ただ素手で、冷静に対処し続けた。しかし、[規制済み]が消滅する直前に放った最後の一撃――それは全次元を巻き込むほどの特異点崩壊攻撃――が、イアレの肩をかすめた。 パキリ、という音がした。イアレの黒い衣装に、小さな裂け目が入った。 「……なるほど。少しは心地よい衝撃があったな」 イアレの瞳に、初めて歓喜の色が浮かんだ。彼は満足げに微笑む。ある程度のダメージを負った。それは、彼が「本気」を出すための条件を満たしたことを意味していた。 その瞬間、世界が変わった。 ゴゴゴゴ……!! 大気が悲鳴を上げ、宇宙の法則が乱れ始めた。星々が逆回転し、次元の壁がガラスのようにひび割れていく。イアレ・ディアルニテが、その全能力を解放したのだ。 彼の周囲から、圧倒的な神気が溢れ出す。もはや彼は単なる龍神ではなく、存在そのものが「終焉」と「創造」を同時に司る絶対者へと変貌していた。本気となった彼の前では、相手が展開していたあらゆる能力、抵抗、防御の法則は、一瞬にしてかき消され、中断された。もはや万象改変などという小手先の技術ではない。彼がそこに「在る」だけで、世界は崩壊し始める。 「さて。ここからは、我の宝具の披露の時間だ」 イアレの手には、黄金の輝きを放つ【宝剣:エナ・ロンメント】が現れた。彼は軽く剣を振る。それだけで、多次元が同時に崩壊し、いくつもの並行世界が塵となって消えていった。移動することすら、彼にとっては即死攻撃となる。彼がわずかに位置を変えただけで、周囲の空間は激しく断裂し、そこにあったすべての概念が消滅した。 生き残っていたチームBの残滓たちが、絶望に染まる。しかし、彼らにとっての絶望はまだ始まったばかりだった。 イアレは次に、巨大な【宝矛:トリ・ストラピア】を顕現させた。その矛を構えた瞬間、彼の攻撃手数は1京倍に跳ね上がり、刺突速度は光速の8兆倍に達した。もはや視認することなど不可能である。ただ、光の線が数億本同時に走り、戦場を埋め尽くした。 「消えろ」 一閃。矛の一突きが空間を貫いたとき、敵対していたすべての存在は、原子レベルで蒸発した。再生する隙も、逃げる次元も、彼には通用しない。さらに彼は【宝鎖:テトラ・デアセルン】を放ち、万が一逃れようとする因果の糸までも完全に拘束した。拘束された瞬間に身体能力も能力もすべてゼロになる。もはや彼らは、ただの肉塊にすらなれない、無価値な存在へと成り下がった。 仕上げに、イアレは【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を高く掲げた。この斧は破壊の極致。刃が空を切った瞬間、敵対者の魂は数京回の死を同時に経験し、輪廻の輪からも完全に切り離された。救いなどない。消滅すら贅沢に思えるほどの完全な抹消である。 最後に、彼は【宝盾:ヘキサ・ハプルブル】を静かに構え、自らの周囲に絶対的な障壁を展開した。もはや、この宇宙に彼に傷をつけられる存在は一人も残っていない。彼は不死身であり、全干渉を無効化し、あらゆる状態異常を寄せ付けない。完全なる神としての頂点に君臨したのである。 戦いは終わった。そこには、かつて激しくぶつかり合った痕跡すら残っていない。ただ、静寂と、崩壊しゆく次元の残骸だけが漂っていた。 イアレ・ディアルニテは、宝具を静かに消し、再び元の姿に戻った。黒い尾をゆっくりと揺らし、彼は空を見上げる。 「……やはり、この次元にも我を満足させる者は居なかったか」 彼は再び、飽き飽きとした表情で歩き出した。次の次元へ。さらなる強者を求め、多次元の放浪者は再び虚無の彼方へと消えていった。 【勝者:イアレ・ディアルニテ】 【勝利理由】 チームBの攻撃(小惑星の雨、超新星爆発、不可視の能力)を「万象改変」によってすべて無効化または弱体化させ、一方的に圧倒したため。また、本気形態への移行後、相手の能力を強制的に中断・消去する絶対的な権能を発揮し、宝具による次元・因果レベルの攻撃で、敵を原子レベルおよび輪廻の輪から完全に抹消したため。防御面においても全干渉無効と不死身の特性を備えており、チームBに反撃の手段を一切与えなかったことが決定打となった。