宇宙旅行艦S4:四日間の記録 【犠牲者:2名】(胃碼廻廊による爆発に巻き込まれた一般客2名) ■プロローグ:巨大な揺り籠へ 全長27,000kmという、もはや一つの小惑星に匹敵する超巨大宇宙旅行艦「S4」。白と灰色の外装に山吹色のラインが走るその巨体は、サイバーユニバースコーポレーションの技術の結晶であり、数千万人の富裕層と観光客を乗せて銀河を巡る。 この豪華客船に、ある「目的」を持った奇妙な集団(チームA)が乗り込んだ。彼らは表向きは旅行客だが、その実態は極めて個性的、かつ危険な能力の保持者たちである。そして彼らを案内し、監視し、必要であれば排除する役割を担うのが、案内スタッフのレトである。 --- 【第一日:豪華なる不協和音】 S4への乗船初日。チームAの面々は、あまりの規模に圧倒されていた。案内役として彼らを迎えたのは、白髪にオッドアイを持つ小柄な美少女、レトである。彼女は完璧な笑顔で、しかしその瞳の奥にどこか空虚な、あるいは誰か(アルツェムタ教官)への執着を滲ませながら案内していた。 「…あはっ♪…多分教官の代わりに来ました!レトです!皆様、S4へようこそ。ここでは規則をしっかり守ってくださいね。特に武器の持ち込みは禁止です。…まあ、私なら許しちゃいますけど♪」 レトは優しく微笑むが、その背後には巨大な狙撃銃「ツェンデッタ」と撮影機器「ノンゲッツォス」が隠されている。彼女の目的は案内ではなく、不審者の監視、そして隙あらば教官に報告するための「実績作り」であった。 一方、チームAの怜は、不自然なほどに礼儀正しくレトに接していた。「案内ありがとうございます、レトさん。とても親切ですね」と飄々と語りかけるが、その視線は常に艦内の監視カメラの位置と、警備員の巡回ルートを把握していた。彼の衣服の下には、規則を無視して持ち込まれた短剣と拳銃が密かに隠されている。 リンダ・ランニーは、乗船した瞬間に絶望していた。「ここ、何かあったら逃げ場がないわ……。27,000kmなんて、走って逃げ切れるわけないじゃない!」彼女の異常な戦況予測能力は、この巨大な密室で何らかの紛争が起きた際、自分が真っ先に「使い捨て」にされる未来を予見していた。彼女は既に、最寄りの脱出ポッドの場所を確認し、逃走ルートを3パターン策定していた。 カニタムはカニ歩きで甲板を移動し、周囲の客から「珍しいペットか何かか」と注目を集めていた。迷惑釣り人は、宇宙旅行艦にあるとは思えない「人工海洋デッキ」を見つけるや否や、誰にも告げずにバケツを置いて場所取りを完了させた。魚介だしは、艦内の最高級レストランの食材ラインナップを確認し、「サバの質が低いな」と不満げに呟いていた。 そして、正体不明の「J」は、誰にも気づかれぬよう、艦の深層部、メンテナンスダクトへと消えた。彼は既にS4のシステムに、自分にしか制御できない「仕掛け」を組み込んでいた。 さらに、チームAと共に現れた「胃碼廻廊」――テニスボールの姿をした爆弾が、静かに、しかし確実に、豪華客船の絨毯の上を転がり始めた。誰が蹴ったのか、どこへ向かっているのか。誰も気づかぬまま、超新星爆発の種が移動を開始した。 --- 【第二日:静かなる浸食】 二日目、S4の中では平穏な時間が流れていた。しかし、水面下では不気味な動きが加速していた。 迷惑釣り人は、立ち入り禁止区域である「高エネルギープラズマ放電エリア」のフェンスを、どこからか入手した合鍵で軽々と突破した。そこは強力な電磁波が流れる危険地帯だが、彼は「ここが一番釣れる」という直感に従い、悠々とエギングを開始していた。警備員が駆けつけるが、彼から放たれる「人を寄せ付けないオーラ」に気圧され、なぜか注意することさえ忘れて立ち尽くすという怪現象が起きた。 魚介だしは、艦内厨房に潜入し、自身のスキルで食材を調達し始めていた。「アジのアジを確かめる!」と叫びながら自身の能力を強化し、さらに「ネギトロのネギ」を抜き取って、同行する(といってもバラバラに動いている)チームAのメンバーに配る準備をしていた。 レトは、ノンゲッツォスを用いて彼らの一挙手一投足を盗撮していた。「あはっ、面白い人たち。教官に見せたら、きっと褒めてくれるかな」と呟きながら、彼女は狙撃銃の照準を怜の心臓に合わせていた。怜が武器を隠し持っていることは、彼女のようなプロの軍人(ストーカー)には明白だったからだ。 そんな中、胃碼廻廊(テニスボール)が、一般客が密集する大広間を横切った。ボールはゆっくりと、不気味に転がる。ある旅行客が好奇心からそれを蹴り飛ばした。ボールは加速し、壁に当たり、跳ね返り、そして再び静止した。 「……あ」 運悪く、そのボールが静止した場所は、二人組のカップルが休憩していたソファの真下だった。胃碼廻廊は「即座に起爆」の条件を満たしていなかったが、内部のタイマーが不意に作動した。――ドォォォォン!! 凄まじい衝撃波が走った。本来ならフィールド全体を消し飛ばす威力を持つが、S4の超強力な装甲と、胃碼廻廊の「味方を巻き込まない」という特殊仕様により、爆発範囲は局所的に限定された。しかし、至近距離にいた一般客2名は、一瞬にして消滅した。 警備員たちが騒然となり、緊急時対処員が駆けつける。しかし、爆心地にはただの「焦げたテニスボールの破片」しか残っておらず、原因の特定は困難を極めた。これが、この四日間で唯一の犠牲者となった出来事である。 --- 【第三日:均衡の崩壊】 三日目。事件の余波で艦内は緊張状態にあった。レトは案内スタッフとしての仮面を脱ぎ捨て、実力行使に出る準備を始めた。彼女は「不審な動きをする者」を排除し、実績を上げて教官へのアピールをしようと考えたのだ。 レトは通信回線を通じてチームAに告げた。 「皆様、ちょっといいですか? 規則違反が見つかりました。武器の持ち込み、不法侵入、そして爆破事件への関与……。全部、私が片付けてあげますね♪」 レトの狙撃銃「ツェンデッタ」が火を噴いた。超長距離から、精密に、かつ冷酷に。標的は怜。しかし、怜は弾丸が届く直前、風のような身のこなしで回避した。 「おっと、危ない。レトさん、案内スタッフが客を撃つなんて、サイバーユニバースコーポレーションの教育はどうなっているんでしょうね?」 怜は不敵に微笑み、懐から二丁の拳銃を取り出した。ここから、S4の豪華な廊下を舞台にした、静かなる、しかし激しい戦闘が始まった。 怜の【迅速:風蛇】が放たれる。弾丸は風に乗り、不規則な軌道を描いてレトを襲う。しかし、レトは元指揮官レベルの身体能力と、ヤンデレ特有の執念でそれを回避し、同時に狙撃を繰り返す。 そこへ、戦況を察知したリンダ・ランニーが乱入した。彼女の思考回路はフル回転していた。 (待って、今ここで戦えば、レトさんの狙撃で私が死ぬか、怜さんの弾丸に巻き込まれるか、あるいはこの艦が崩壊して全員死ぬかの三択しかないわ! 結論:逃げるのが正解!!) リンダは電光石火の速さで戦場から離脱し、同時にレトと怜の位置情報をデータ化して、どこかへ送信しようと試みた。彼女の「逃げる能力」はもはや芸術の域に達しており、レトの狙撃さえも「なんとなくあっちに弾が来る気がする」という直感だけで回避し続けた。 一方、カニタムはカニ歩きでレトの背後に回り込み、ハサミで彼女の軍服の裾を「チョキッ」と挟んだ。レトが驚いて振り返った瞬間、魚介だしが「お寿司で押すし!」と、巨大なマグロの握り寿司を召喚し、レトを押し潰そうとした。 「あはっ♪ 賑やかでいいですね! でも、教官の愛に比べたら、こんな攻撃、ちっぽけです!」 レトは驚異的な跳躍力で回避し、空中で狙撃を完了させようとする。しかし、その時。誰かがレトの足元に「釣り糸」を張り巡らせていた。迷惑釣り人が、暇つぶしに廊下を釣り場に変えていたのである。 「あ……」 レトが転倒した瞬間、怜の短剣【疾剣:風弄】が彼女の喉元に突きつけられた。しかし、怜は殺さなかった。彼はただ、飄々とこう言った。 「さて、ここらで休戦しませんか? 僕たちはただの旅行客ですよ」 --- 【第四日:本物の結末】 最終日。チームAとレトの間には、奇妙な停戦状態が流れていた。しかし、本当の主役はまだ動いていなかった。 Jである。 彼は四日間、誰にも見つからず、S4の心臓部であるメインコンピューターの深層にいた。彼が仕掛けた「仕掛け」とは、艦の航路を微調整し、特定の座標にある「特異点」へと誘導すること。そして、その瞬間、全乗客の記憶から「この四日間の争い」を消去し、同時に特定の個人(J自身)だけを完璧に消去して脱出させるプログラムであった。 Jは時計を見た。佳境だ。 レトはまだ怜への執着(あるいは監視欲)を捨てきれず、リンダは脱出ポッドの鍵を盗もうとし、カニタムは甲板で日向ぼっこをし、迷惑釣り人はついに「宇宙魚」を釣り上げようとしていた。 Jがスイッチを押す。 「作動。」 その瞬間、S4全体に白い光が溢れた。衝撃も爆発もない。ただ、静かな、絶対的な書き換えが行われた。 【仕掛け】の内容: 1. 胃碼廻廊による爆発の記憶および物理的痕跡の抹消(ただし、犠牲となった2名の記録だけは「事故」として本社のログに残る)。 2. レトとチームAの戦闘記録の消去。 3. Jという存在が最初からこの艦に乗っていなかったことにするデータの改ざん。 光が収まった後。レトは呆然と立ち尽くしていた。 「あれ……私、何をしようとしていたんでしょう。あはっ、思い出せない。まあいいか、教官に報告しなきゃ♪」 怜は、自分の懐に短剣があることに気づき、小さく笑った。「ふふ、どうやら計画通りにいかなかったみたいですね。でも、いい旅でした」 リンダは、自分がなぜ脱出ポッドの前に立っているのか分からず、首を傾げた。「……とりあえず、生き延びたならそれでいいわ」 カニタムは相変わらずカニ歩きであり、迷惑釣り人は満足げに釣り上げた得体の知れない銀色の魚をバケツに入れていた。 そして、Jは、完璧な後始末を終え、誰もいない小型艇でS4を離脱していった。彼は誰にも尻尾を掴ませず、誰にも正体を明かさず、ただ「本物」として、この滑稽な茶番劇を完結させたのである。 S4は再び、静寂と贅沢に包まれた。山吹色の塗装が星々の光に照らされ、巨大な船体は目的地へとゆっくりと進み続ける。 【四日間の集計】 ・犠牲者:2名(一般客) ・破壊:廊下の一部(レトの狙撃と胃碼廻廊の爆発による) ・結論:Jの完全勝利。他メンバーは現状維持。