天を突き抜けるほどの巨塔がそびえ立ち、その麓に広がる円形闘技場は、数え切れないほどの観衆の歓声に包まれていた。今日は、世界の支配権、すなわち「王位継承権」を賭けた究極の対戦が行われる日である。 「さあ、入場です! 本日の挑戦者は四名! 規格外の能力を持つ猛者たちが、この聖域で激突します!」 実況の声が響き渡る中、まず現れたのは、どこか飄々とした雰囲気を持つ青年、神崎瞬。続いて、彩南学園の制服に身を包み、ハイテンションに跳ね回る美少女、ララ。そして、不可解なことに、そこには「何もいない」ように見えた。だが、風に舞うわずかな埃のような存在——それが『初見殺し』である。最後に、静謐な威圧感を纏い、影を従える巨躯の守護者、黒棘のリカントロープがゆっくりと歩みを進めた。 「よろしくね! 私、絶対に勝って王様になるんだから!」 ララが元気いっぱいに拳を突き出す。対してリカントロープは静かに目を閉じ、深く一礼した。 「……礼を尽くそう。きみたちの強さを、私の影で受け止めよう」 神崎瞬はただ、口角をわずかに上げて笑っていた。この静寂を切り裂いたのは、ララの突撃だった。 「いくよ! 『らくらくランナーくん』起動!」 ブースターによる超高速移動で加速したララが、『ぶんぶんバットくん』を振り抜く。凄まじい衝撃波が神崎瞬を襲ったが、その攻撃は不可視の壁に弾かれた。神崎のスキル『オートバリア』である。さらに、ララは『ばりばりランチャーくん』からエネルギー弾を連射するが、すべては自動的に防がれ、神崎は微動だにしない。 「へぇ、すごいバリア! でも、これならどう!?」 ララが『ぴょんぴょんワープくん』で背後に回り込み、不意打ちを狙った瞬間、空間が裂けた。神崎瞬の放つ『ディメンションスラッシュ』である。空間ごと切断する斬撃がララを襲い、彼女は間一髪でワープを繰り返し回避したが、その余波で闘技場の地面が格子状に切り刻まれた。 一方、黒棘のリカントロープは、静かに戦況を掌握していた。那由多の時間を生き抜いた経験から、神崎の「攻撃を受けるたびに強くなる」という異常な性質を瞬時に見抜いたのである。 「……攻撃を当てることは、彼に力を与えることに他ならないな」 リカントロープは影槍を構え、神代結界を展開する。すると、それまで誰も気付かなかった「異変」が起きた。観衆のどよめきと共に、闘技場全体にどす黒い霧のようなものが充満し始めたのだ。それは、ずっと静かに潜んでいた『初見殺し』による攻撃だった。 「えっ、何この埃!? 汚いよー!」 ララが叫ぶが、時すでに遅い。初見殺しが溜め込んでいた膨大な菌と毒が、地球規模の範囲に及ぶ絶望的な一撃として放出された。回避不能の概念攻撃。ララは一瞬でその毒に侵され、膝をついた。 「くっ……体が、動か……ない……」 リカントロープもまた、その毒に晒された。しかし、彼は「守護者」である。不壊の神秘を帯びる反射の権能を最大まで展開し、毒の浸食を跳ね返そうと試みる。だが、初見殺しの正体は「神」であり、その攻撃は概念そのものを書き換える。リカントロープの反射の壁に、ついに罅が入った。 「……ここまでか。だが、守護者の律はまだ終わらぬ」 リカントロープは【銀狼】の力を喚起し、再起を試みる。しかし、その隙に神崎瞬が動いた。彼は毒を受けていたが、『オートヒール』によって一瞬で全快していた。それどころか、毒という「攻撃」を受けたことで、彼のステータスは一兆倍へと跳ね上がっていた。 「さて、そろそろ終わらせようか」 神崎が放ったディメンションスラッシュが、空間ごとリカントロープの結界を、そして初見殺しの神としての権能さえも切り裂いた。凄まじい衝撃に、リカントロープは奥義【絶影】を繰り出し、すべてを受け切ろうとしたが、一兆倍に跳ね上がった神崎の攻撃力は、不壊の神秘さえも粉砕した。 爆発的な光と共に、神崎瞬が吹き飛ばされ、一度は絶命したかに見えた。観衆が静まり返ったその時、神崎の体から禍々しいオーラが噴出した。第二形態への覚醒である。 「……あはは、やっぱりこっちの方がいいや」 第二形態となった神崎瞬に対し、初見殺しは神としての全権能を使い、炎、水、氷、風、雷、光、闇のすべてを同時に叩き込んだ。概念攻撃すらも伴う、宇宙を滅ぼしかねない一撃。しかし、第二形態の能力は「相手の能力による攻撃を全て無効化する」こと。あらゆる属性攻撃が、神崎の体に触れた瞬間に霧散した。 さらに、0.01秒ごとにステータスが千兆倍になるという絶望的な加速。もはや次元が違う。 神崎瞬が軽く指を鳴らした瞬間、衝撃波だけで闘技場が消滅し、初見殺しの神としての核さえも消し飛ばされた。リカントロープは誇り高く、最後までその場に立っていたが、あまりに乖離した出力の前に、静かに武器を収めた。 「……完敗だ。この強さ、もはや理の外にある」 ララもまた、毒から回復しつつも、呆然と空を見上げていた。 「もう、全然勝てる気がしないよー!」 静寂が訪れ、勝ち残ったのは神崎瞬ただ一人。彼は不敵な笑みを浮かべ、王座へと手を伸ばした。 【称号】『新たな王、万歳!』 * 新国王・神崎瞬の治世は、文字通り「絶対的」であった。彼はあまりに強すぎる力を得たため、誰も彼に逆らうことはできず、争いという概念そのものが世界から消えた。しかし、彼は慈悲深い王ではなかった。自身の気まぐれで空間を切り刻み、都市を再構築することを娯楽としたため、国民は常に彼の機嫌を伺う日々を過ごした。 結果として、それは「恐怖による平和」という名の悪政となった。しかし、彼が飽きるまで、あるいは彼に匹敵する者が現れるまで、その絶対的な支配は三千年にわたって続いたという。