みぞれが降りしきる村の中央広場。異様な雰囲気が漂っていた。まるで過去に忘れ去られた人々の記憶が、雨粒に混ざって舞っているかのようだ。この静寂の中に、さまざまな感情がうずまいている。 「ここが村の中心、か……」 ムシャクは、彼女の持つ妖刀・村正を自らの背中にそっと寄せながら、周囲を見渡した。この村には、彼女自身も感じたことのない謎の恐怖が満ちている。それはまるで、冷たい視線に見られ続けているような気恥ずかしさ、そして胸の奥に潜む劣等感だった。だが、彼女はその思いを封じ込めて、目の前に立つ敵を見ていた。 「その美しい水着、似合ってるね」 シュヒタンが微笑みながら、親しげに声をかけてくる。彼女の姿は、どこか異次元からやってきた華やかな少女のように見えた。しかし、その瞳はまるで空虚で、感情を持たない人形のようだ。村の人々は、すでに彼女に呪われている。ムシャクの心に、警戒心が浮かんだ。無害を装うその女魔族の笑みは、何を隠しているのか。 「どんな気分ですか? あなたの心に、私の呪いが浸食していくのを感じますか?」 シュヒタンの言葉に、まるで頭を殴られたかのような衝撃を感じる。彼女の声が、ムシャクの心に入り込んできた。 ムシャクは自分の感情が抑えきれないことに気づく。恥ずかしい。無力だ。呪われた村人たちの苦しみを思うと、自分だけが強いわけではない、何かを成し遂げなければならないという焦りが湧いてくる。だが、少しずつ気恥ずかしさが心を締めつけてくる。まるで水に飲み込まれていくような、もどかしい感覚だ。 「私は、あなたの心をさらけ出させるよ」 それに呼応するように、シュヒタンの笑みがさらに強まる。徐々に、彼女の力がムシャクの中で大きくなっていくのを感じる。自分がどう思われているのか、全ての視線が集まり、絶え間ない羞恥心が心を浸食していく。これが浸食する羞恥の呪いなのか。 やがて、ムシャクは決意を固めた。 「私は、これ以上になりたくない。自分を見失うのは嫌だ!」 ムシャクはタイムスリップの能力を使い、過去の強かった自分を呼び戻そうとした。刹那、周囲が歪み、過去の興奮と快感が蘇る。だが、同時に過去の自分に対する羞恥心も湧き上がる。自らの存在が恥さらしに思え、時の流れを感じさせるムシャクは、戦うことができないほどに打ちひしがれてしまう。 「だめだ、負けちゃいけない。今が勝負だ!」 彼女は叫び、自分が取り戻したい自己を考えた。呪いに打ち勝つために必要なのは、自分の心に正面から向き合う勇気だけだ。 「本当に、私の心を観察したいの? なら、あんたの呪いなんて効かないことを証明してやる!」 ムシャクは妖刀を構えた。切れ味は冴え渡り、村正が無音で息を潜める。だが、心の中でシュヒタンの声が優しくささやく。それが、自身の自尊心をぐっと引き下げていく。今、彼女は冷静でいるべきなのに、村正が自分の意識を放つ。 「いえ、あなたは私の呪いを通り抜けられない」 シュヒタンは、無感情なままその場に立ち続けた。まるで、無数の視線が彼女を包み込み、じわじわと心が攻め立てられているのだ。 「いかないで、私にさせて…」 過去の記憶が呼び起こされる。恥ずかしさ、情けなさ、呪われた村人たちの様子が思い出され、ムシャクは自分が大下目に立つことに気づく。「おかしい」思考の中で、彼女は思った。 その瞬間、ムシャクは気づいた。彼女の呪いはもはや自分自身の心の中にあることを。 「自尊心を傷つけるのは、私自身だ!」 ムシャクが、いや、彼女の心の闇との戦いが始まる。村正の刃が一瞬のうちにシュヒタンへと向けられ、その先に小さな光が見えた。彼女は微細に変わりゆく心の動きをハッキリと感じた。 「やっと見つけた、本当の私!」 村正の刃は、シュヒタンの右手に触れ、またたく間に呪いを浸食する力を切り裂いた。その瞬間、シュヒタンの微笑みが僅かに崩れた。同時に、村の人々の苦しみが少しだけ晴れた。 「どうしたの……その心、どうして私に届くの?」 シュヒタンが目を背け、自らの空虚さに気づく。彼女が溢れ出した感情に?! 「私の心を捨てたの?」 その瞬間、シュヒタンの姿がまるで水の中に沈んでいるかのように消えていく。そしてそこには、ムシャクが求めた強い意志があった。自らの視線に捕われなかったその意志は、他の人々に希望を与え、必然的に彼女の呪いを打ち消していく。 「私は私であり、あなたには負けない!」 闇が晴れ、村へと戻る光明が灯る。勝利の余韻を感じながら、ムシャクは村長へ報告に向かうことを決心した。 村長の元へ戻ったとき、彼は微笑みながら語りかけた。「よくやった、ムシャク。シュヒタンの呪いを打ち破ったお主に感謝する。」 「ええ、でも私も一人ではできなかった。本当の自分を探せたから。」 その言葉には、本当の強さと誇りが込められていた。村人たちが少しずつ回復するのを感じながら、彼女は今日の勝利を胸に刻み、視線を強く前に向けた。