静寂に包まれた白亜の闘技場。そこは、聖なる光と野蛮な咆哮が交差する運命の地であった。 一方の陣営に立つのは、宮廷治療係として名高い四姉妹メイド、[エンジェルシスターズ]。純白のフリルを揺らし、聖なる微笑みを浮かべる彼女たちは、その愛らしい外見に似合わぬ「治療(という名の蹂躙)」を司る者たちである。 リーダーのマイが快活に声を上げる。「さあ、みんな! 今日もお患者さんをピカピカに治療しちゃおうね!」 冷静なユイが静かに頷き、泣き虫のミイがおどおどと巨大な注射器を抱え、ライが虚空を見つめながらAEDのボタンを弄んでいた。 対するは、山のような巨躯を誇る男、シマキン。筋肉の上に脂肪を重ね、さらにその上に強靭な筋肉を構築した究極の肉体「肉の鎧」を纏う彼は、不敵な笑みを浮かべて地を鳴らした。 「ほいだらおどれはあの世へ送ったろかあーん!!」 戦いの火蓋は、マイの号令と共に切って落とされた。 「まずは、お掃除から! 消毒スプレー!!」 マイが手にした銀色のボトルから、超高圧の噴霧が放たれる。それは単なる液体ではない。細菌からウイルス、そして有機的な不純物までをも根こそぎ消滅させる、極限まで濃縮された「聖なる消毒液」の奔流であった。粒子の一つ一つが微細な刃となって空気を切り裂き、視界を真っ白に染め上げるほどの激流となってシマキンに襲いかかる。 シュォォォォッ!! という轟音と共に、消毒液がシマキンの巨躯を直撃した。通常であれば皮膚が溶け落ち、骨まで露出するであろう猛毒の洗浄液。しかし、シマキンは眉一つ動かさない。肉の鎧が衝撃を吸収し、皮膚表面で液を弾き飛ばす。 「こそばゆいんじゃあっ!!」 「ええっ!? 効いてない!?」 驚愕するマイの懐に、シマキンが地を砕いて突進する。その速度は巨体に似合わず凄まじく、一歩ごとに闘技場の石畳がクモの巣状にひび割れる。シマキンは右拳を大きく振りかぶり、空気を圧縮して衝撃波を伴う正拳突きを繰り出した。 ドォォォォン!! 空気が爆ぜ、衝撃波がマイの背後の空間を歪ませる。しかし、エンジェルシスターズは驚異的な耐性を有していた。マイは軽やかな身のこなしで攻撃を回避しつつ、後方からユイが静かに介入する。 「……固定します」 ユイが袖から取り出したのは、一見普通の包帯。しかし、それが放たれた瞬間、それは生き物のように空を舞い、シマキンの四肢を猛烈な速度で絡め取った。シュルシュルと音を立てて巻き付く包帯は、一巻きごとに締め付けを増し、鋼鉄の鎖をも凌駕する耐久性でシマキンの巨躯を拘束していく。 「な、なんじゃこの紐は! 締め付けがえげつないぞ!」 あまりに完璧に、あまりに過剰に巻き付けられた包帯は、シマキンの自由を奪う。筋肉が膨張してもびくともしない超高密度繊維が、彼の肉体をミイラのように変えていく。しかし、シマキンは笑っていた。 「ガハハハ! 紐遊びは終わりじゃあ!」 ギュルルル! という肉の軋む音と共に、シマキンが力任せに包帯を引き千切ろうとする。その際、筋肉の爆発的な膨張により、包帯の隙間から凄まじい圧力が放出され、周囲の風圧だけでユイが後方に押し流された。 そこへ、震えながらも前進する影があった。男の娘、ミイである。 「うぅ……怖いよぉ……でも、頑張らなきゃ……! えいっ!!」 ミイが抱える1メートルを超える巨大な注射器が、シマキンの太ももに深く突き刺さった。ズボォッ!! という鈍い音と共に、正体不明の淡いピンク色の薬液がシマキンの血管へと一気に注入される。 その瞬間、シマキンの表情が変わった。怒りでも苦痛でもない。それは、脳を直接揺さぶるような、抗いようのない「快楽」であった。 「……っ!? な、なんじゃあこの感覚は! 背筋がゾクゾクして……力が、抜ける……っ!」 注射器に含まれていたのは、神経系を強制的にリラックスさせ、多幸感で思考を停止させる特効薬。最強の戦士であるシマキンが、人生で初めて味わう「快楽の泥沼」に足を取られ、膝をつく。意識が朦朧とし、攻撃の意思が霧散していく。まさに精神的な拘束状態であった。 だが、シマキンという男の精神は、肉体同様に強靭であった。 「おどれら……いい治療じゃあ……だが、俺の肉体は快楽さえも燃料に変えるわい!!」 快楽による脱力状態を、精神的な根性で強引にねじ伏せるシマキン。彼は朦朧とした意識の中で、地を蹴った。快楽で弛緩したはずの筋肉が、逆説的に柔軟性を増し、これまで以上の爆発力を生む。凄まじい速度の突進が、ミイを襲う! 「ひゃあああ! 来ないでぇ!!」 パニックに陥るミイ。しかし、その背後から、静かに、そして突発的に「彼」が現れた。不思議少女、ライである。 「はい、電気ショック。ピー、ピー、ドカン」 ライが掲げたAEDが、眩い黄金色の光を放った。それは通常の医療用AEDなどではなく、落雷のエネルギーを凝縮した超高電圧兵器であった。ライがボタンを押した瞬間、空が割れ、シマキンの心臓へ向けて直撃する巨大な電撃の柱が降り注いだ。 バリバリバリィィィッ!!! 闘技場全体が激しく明滅し、雷鳴が鼓膜を突き破らんばかりに響き渡る。数千万ボルトの電流がシマキンの全身を駆け巡り、肉の鎧を内側から焼き尽くそうとする。シマキンの巨体が宙に舞い、激しい痙攣と共に地面へと叩きつけられた。激しい土煙が舞い、クレーターが形成される。 静寂が訪れた。シマキンは地面に深く埋まり、全身から煙を上げている。絶望的な状況に見えた。 だが、煙の中から、低く、地を這うような笑い声が聞こえてきた。 「……ガハハ……。いい電撃じゃ。ちょうど肩が凝っておったところじゃあ!!」 ゆっくりと、しかし確実に、シマキンが立ち上がる。彼の「肉の鎧」は、電撃による熱さえも代謝し、筋肉の緊張を高めるマッサージとして吸収していた。もはや服はボロボロだが、その眼光はかつてないほど鋭く、闘志に満ち溢れていた。 「さて……お礼に、俺の全力を見せてやろうじゃあ!!」 シマキンが大きく踏み込む。その衝撃で闘技場の地面が完全に崩落し、地割れが走った。彼は四姉妹全員を射程圏内に捉え、究極の打撃を繰り出す構えをとる。 「肉の鎧・絶頂破!!」 全身の筋肉を限界まで収縮させ、一気に解放する。それは打撃というよりも、局地的な爆発に近い一撃であった。拳が空気を叩いた瞬間、真空の刃が四方八方に飛び散り、周囲の岩石を粉々に砕く。逃げ場はない。逃げ切れるはずもない。凄まじい破壊の波がエンジェルシスターズを飲み込もうとしたその時、四姉妹は互いの手を握り合った。 「みんな! 合同治療の時間だよ!」 マイの消毒スプレーが霧となり、ユイの包帯が渦を巻き、ミイの注射器から薬液が散布され、ライのAEDが全電力を解放する。四つの異なる「治療」が一つに混ざり合い、巨大な光の繭となってシマキンの拳を包み込んだ。 ドガァァァァァン!!! 激突。衝撃波が闘技場の外壁までを破壊し、雲を吹き飛ばした。光が収まった後、そこには奇妙な光景が広がっていた。 シマキンは、全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、消毒液でピカピカに洗浄され、注射薬で恍惚とした表情を浮かべ、さらにAEDの余韻でピクピクと痙攣しながら、地面に大の字になっていた。 「……あー……。心地よい……。負けたわい……こんなに気持ちよく負けたのは初めてじゃあ……」 勝敗を決めたのは、個々の技の威力ではなく、「絶え間ない治療の波」による精神的・肉体的なオーバーロードであった。シマキンの肉体は打撃に耐え、電撃に耐えたが、同時に押し寄せる「極上の清潔感」「拘束による安心感」「脳を焼く快楽」「心臓を叩く刺激」という、悪意なき快楽の波に、本能レベルで屈してしまったのである。 マイがにこっと笑い、シマキンの胸元に絆創膏を貼った。 「はい、治療完了! お疲れ様でした!」 最強の肉体を持つ男は、心地よい脱力感の中で、静かに意識を失った。聖なる治療係たちの完勝であった。