空を裂くほどの歓声と、地を揺らす地鳴りのような足音。ここは次元の狭間に築かれた究極の闘技場『アストラル・コロシアム』。観客席を埋め尽くすのは、あらゆる世界から集まった数千万の観衆であり、彼らが待ち望んでいたのは、ただ一つ。この世界の支配権、すなわち『王位継承権』を賭けた血で血を洗うバトルロイヤルであった。 「さあ、始まりだ! 運命の対戦、ここに開幕!!」 実況の声が響き渡った瞬間、闘技場の中心に四つの影が降り立った。一人、オレンジ色の道着に身を包み、不敵な笑みを浮かべる格闘家、悟空。一人、緑灰色の毛並みに威厳を湛えた巨大な狼、森林の守護神獣エ・バーニング。そして一人、神々しきオーラを纏いながらも、どこか現代的なデバイスを操作している神、ゼウスキン。そして――誰もが予想だにしなかった「概念」としての参加者、居眠り運転のトラックが、戦場の端で不気味にエンジンを唸らせていた。 「へへっ、強そうな奴らばっかじゃねぇか! ワクワクすんなぁ!」 悟空が拳を合わせ、軽く跳ねる。その隣で、エ・バーニングはテレパシーによって脳内に直接声を響かせた。 (……騒がしい人間だ。だが、この地の王となる者が自然を乱さぬと誓うのであれば、私は道を譲ろう。さもなくば、森の怒りを知ることになる) 「あー、はいはい。自然とかどうでもいいから、早く終わらせて動画のネタにしたいんだよね。見てろよ、このチャンネル登録者数、王になればさらに爆増するぜ」 ゼウスキンは空中に浮かぶ仮想モニター(GODTube)に視線を向け、不機嫌そうに鼻を鳴らした。神としての圧倒的な力への自信が、その傲慢な態度に現れている。 しかし、戦いが始まる直前、誰もが忘れていた「最悪の変数」が作動した。 ――キィィィィィィィィ!! 突如として、戦場に耳を劈くブレーキ音が鳴り響いた。どこからともなく現れた巨大なトラックが、猛烈な速度で突進してくる。それはもはや攻撃ではなく、不可避の「イベント」であった。 「おわっ!? なんだあいつ!!」 悟空が反応し、ゼウスキンが呆気に取られたその瞬間。不運にもその進路に立っていたのは、静かに瞑想し、自身の領域を展開しようとしていたエ・バーニングであった。守護神としての威厳も、森の加護も、この「居眠り運転」という理不尽な因果の前では無力だった。 ドガァァァァァァン!! 凄まじい衝撃音と共に、巨大な狼の体が吹き飛ばされる。森林の守護神獣という強大な存在が、あまりにもあっけない形で闘技場の壁へと叩きつけられた。エ・バーニングは再生能力を持っていたが、このトラックの攻撃は「強制脱落」というシステム上の裁定であった。光の粒子となって消えていく神獣を最後に、トラックは満足げに(あるいは単に運転手が目を覚ましたのか)そのまま闘技場の外へと消え去った。 「……おい、今の何だ? 冗談だろ?」 ゼウスキンが呆然と呟く。観客席からは、予想外の展開に大爆笑と驚愕の声が上がった。生き残ったのは、悟空とゼウスキン。実質的な決勝戦へと突入した。 「ま、いいじゃねぇか! 次はオメェだ、神様!」 悟空が構えを取る。対するゼウスキンは、不機嫌そうに手を上げた。 「チッ、いい気分をぶち壊しやがって。もういい、この星ごと消してやる。地球の皆さんさようなら、フゥーーパカー↑↑!」 ゼウスキンが手刀を振り下ろそうとした瞬間、空気が凍りついた。しかし、悟空の反応は速かった。 「はああああああ!!」 黄金の閃光が爆発した。悟空の髪が逆立ち、金色に輝く。『スーパーサイヤ人』への変身だ。全能力値が飛躍的に上昇し、ゼウスキンの放った衝撃波を、悟空は正面から拳一つで弾き飛ばした。 「なっ!? 私の攻撃を防いだだと!?」 「ここからが本番だ! 行くぞ!!」 悟空は目にも留まらぬ速さで接近し、激しい打撃の連撃を繰り出す。ゼウスキンは神としての力でそれを回避しようとするが、スーパーサイヤ人の身体能力はすでに神の領域に迫っていた。右ストレートがゼウスキンの頬を捉え、神の顔が歪む。 「この……分不相応な猿が!!」 ゼウスキンが怒りに任せ、全知全能の力を凝縮させた光線を放つ。しかし、悟空はそれをあえて正面から受け止めながら、後方に跳躍した。着地と同時に、彼は両手を腰のあたりに溜め始める。 「みんな! 元気を分けてくれ!!」 観客席の数千万人が、その呼びかけに呼応した。不思議なことに、戦いの行方に興奮していた観客たちは、悟空の純粋な闘志に惹かれ、自らのエネルギーを彼に託した。悟空の頭上で、巨大な光の球『元気玉』が形成されていく。 「そんな子供騙しの技が通じるか! 消えろ!!」 ゼウスキンが最後の一撃、星を砕くほどの破壊光線を放つ。しかし、その光線が元気玉に触れた瞬間、あまりにも巨大な正義のエネルギーに飲み込まれた。 「これで終わりだああああ!!」 ドゴォォォォォォォォォン!!! 白い光が世界を塗り潰した。爆風が止み、煙が晴れた後、そこには力尽きて地面に転がるゼウスキンと、肩で息をしながらも笑顔を見せる悟空の姿があった。 判定は明白だった。全知全能を自称した神を、純粋な努力と人々の願いが上回った瞬間であった。 「……完敗だ。クソ、編集でカットしてくれ……」 ゼウスキンは意識を失う直前までそう呟き、静かに気絶した。 「勝者、悟空!! 新たなる王の誕生だ!!」 会場は空前絶後の歓喜に包まれた。誰もが、この真っ直ぐな心を持つ戦士こそが、次なる時代を導くのにふさわしいと感じたのである。 * 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王となった悟空は、王座に座ることを嫌い、「みんなで修行して強くなるのが一番だ!」と宣言した。彼は政治という概念をほぼ放棄したが、代わりに世界中に格闘技の道場を設立し、人々が互いに切磋琢磨し、高め合う文化を根付かせた。権力による支配ではなく、個々の成長を尊重するという、ある意味で最も自由で平和な「善政」が行われた。 人々は飢えや争いよりも、「どうすればあんな風に強くなれるか」という目標に情熱を注ぐようになり、世界からは不自然な対立が消えた。この、緩やかで賑やかな治世は、悟空が「もっと強い奴がいる世界に行きたい」と旅立つまで、実に100年という長い期間にわたって続いたという。