空が、血のような赤黒い色に染まった。 街を囲む強固な外壁の上に立つBチームの四人は、地平線の向こうから迫り来る絶望的な圧力を感じていた。大気にはどろりとした「邪気」が充満し、呼吸をするだけで肺が汚染されるような不快感がある。この邪気は、聖なる力を持たぬ者の能力を著しく弱体化させる。Bチームのメンバーは、自身の力が泥に浸かったように重く、鈍くなっていることに気づいた。 「……最悪だ。空気が重いし、眠気が加速する……」 リーヴェが欠伸を噛み殺しながら、愛用の拳銃を弄ぶ。彼女の周囲では、邪気の影響で重力制御の精度がわずかに乱れていた。 「私に任せて!!!何とかなるから!!!!」 アニータが巨大なハンマーを肩に担ぎ、快活に叫ぶ。しかし、彼女の自慢のフィジカルですら、邪気のデバフによって心なしか体が重い。それでもその瞳には、怯えなど微塵もなかった。 「ふん! 吾輩がここにいる限り、この街に指一本触れさせんぞ!」 獅子頭の巨漢、レオが黄金の鬣をなびかせ、地響きのような大声で宣言する。彼は不滅の誇りを胸に、最前線で盾となる覚悟を決めていた。 そして、静かに魔導書を浮かべる大悪魔アビス。彼女だけは冷静だった。彼女の持つ「神聖」の魔導書だけが、この呪われた空の下で淡い光を放っている。 その時、雲を切り裂いて「それ」が現れた。 ――【邪竜】ドグマニール。 空を覆い尽くさんばかりの巨躯。鱗の一枚一枚が闇を凝縮したかのように黒く、その口からは絶えず紫黒色の邪気が漏れ出している。さらに、その傍らには、山のような巨躯を持つ邪神ゴーレム、六本腕に漆黒の冠を戴く邪王ヴォルフ、そして万物の理を嘲笑う根源的な恐怖、邪神そのものが降臨していた。 「我こそは邪王なり。邪の下に跪け!」 ヴォルフの咆哮が街に響き渡る。同時に、ドグマニールが大きく口を開いた。 「ガアアアアッ!!!」 邪気100%の超高出力ブレス【邪龍砲】が、街を守る結界へと直撃した。 ――ドォォォォォォン!! 凄まじい衝撃波。街を覆っていた結界が、ガラスが砕けるように粉砕される。結界の耐久力は、想定通りブレス一撃分だった。衝撃で街の端にある建物が数棟崩落し、悲鳴が上がり始める。 「結界が……! 早すぎる!」 レオが叫ぶ。もはや猶予はない。Aチームの目的は街の破壊と虐殺。Bチームの目的は、それを阻止し、Aチームを殲滅することだ。 「アビス! 邪気を祓え!」 レオの指示に、アビスは静かに頷き、金色のページをめくった。 「――【神聖属性・浄化の波動】」 アビスから放たれた聖なる光が、Bチームを包み込む。これにより一時的に邪気のデバフが解除され、彼らの本来の能力が復元した。しかし、それは同時に、Aチームにとっての「明確な標的」になることを意味していた。 「チッ、聖属性か。目障りだな」 邪王ヴォルフが不快そうに顔を歪め、指を鳴らす。瞬間、地面から無数の邪鬼と邪狼が湧き上がり、街へと流れ込んだ。同時に、邪神ゴーレムが地響きを立てて前進し、その巨大な拳を振り上げる。 「アニータ、ゴーレムを頼む! リーヴェは上空の龍を! 吾輩は……この邪王とやらを相手にしてくれよう!」 レオが地を蹴り、ヴォルフへと突撃する。同時に、アニータが巨大ハンマーを構え、ゴーレムへと跳躍した。 「いっけええええ!! 【鉄鎚】!!」 アニータのハンマーが、ゴーレムの肩に激突した。凄まじい衝撃音が鳴り響く。しかし、ゴーレムは微動だにしない。邪神ゴーレムの防御力に加え、周囲の邪気を吸収して即座に修復する【邪気修復】が発動していた。 「あれ? 効いてない!?」 「今だ!!」 アニータがスキル【反芻するパトス】を発動。一撃目の衝撃が遅れて爆発し、ゴーレムの巨体が大きくよろめいた。 その隙を見逃さず、上空からリーヴェの銃弾が放たれる。 「……【断罪】」 銃身内に発生させた極小の超重力場により、弾丸は音速の数十倍まで加速し、ゴーレムの胸部にある弱点――コアを正確に貫いた。激しい火花が散り、ゴーレムが咆哮を上げる。 だが、戦場は地獄だった。上空ではドグマニールが【強制支配】を発動し、街に逃げ惑う人々や、逃げ遅れた兵士たちを次々と操り、味方同士で殺し合わせる惨劇が始まっていた。 「貴様ら、甘いな。絶望に染まれ」 邪王ヴォルフが【アビスホール】を展開し、周囲の空間を飲み込み始める。レオは【不滅の威光】で被ダメージを99%カットし、黒い渦に耐えながらも前進した。 「ふん! 吾輩の誇りは、そんな闇ごときで消えぬわ!!」 レオがヴォルフの懐に潜り込み、豪快に彼を掴み上げる。そのまま地面へと叩きつける【終幕だッ!】。しかし、ヴォルフは【自動再生能力】により、砕けた骨を瞬時に再生させ、不気味に微笑んだ。 「面白い。だが、これはどうだ? 【カオスノヴァ】!!」 混沌の邪気が凝縮され、超新星爆発のような衝撃波が街の中央へ向かって放たれた。Bチームの誰もが戦慄する。これが直撃すれば、街の被害は一気に70%を超える。バッドエンドは目前だった。 「……させない」 アビスが複数の魔導書を同時に展開する。物理、結、そして虚空。 「【魔導之書:虚空・事象消滅】」 カオスノヴァの爆発エネルギーが、アビスが作り出した「虚無」の穴に吸い込まれ、消滅した。間一髪の回避。しかし、アビスの顔には疲労の色が見え始めていた。邪神の放つ圧倒的な魔力に、魔導書の供給が追いつかなくなっている。 「あはは! ギリギリだったね! でも、次は私の番だ!!」 アニータがゴーレムの脚を【メリーゴーランド】でなぎ払い、転倒させた。その瞬間、リーヴェが空中で三つの重力場を展開する。 「【王冠】――圧縮」 転倒したゴーレムの上に、超高密度の重力が降り注ぐ。ゴーレムの装甲がひしゃげ、コアが完全に露出した。そこに、アビスが放った【神滅】の光弾が突き刺さり、邪神ゴーレムは大爆発と共に消滅した。 「一匹片付いたな!」 レオが叫ぶが、空の色が変わった。ドグマニールが、理性を捨てて【邪気暴走】から【邪神龍化】へと移行したのだ。体躯はさらに増し、全身からどす黒い雷鳴のような邪気が溢れ出す。もはや個体としての龍ではなく、歩く天災と化していた。 さらに、背後から静かに歩み寄る邪神。その【能力反転】という最悪のスキルが発動する。 「……え?」 突然、Bチーム全員の感覚が反転した。攻撃力が防御力に、素早さが鈍重さに。レオの鉄壁の防御力が、脆いガラスのようなステータスへと反転した瞬間だった。 「今だ、ドグマニール。全てを灰にせよ」 邪神の合図と共に、龍が最大出力のブレスを街全体へ向けて放とうとする。絶体絶命。もはや防ぐ手段はない。誰もが死を覚悟したその時――。 「……めんどくさいけど。やるしかないよね」 リーヴェが、自身の全魔力を込めて【王冠】を最大出力で展開した。彼女は重力を「外」ではなく、「内」へ、自分たちの足元へと集中させた。能力反転の影響で、本来なら制御不能なはずの負荷。しかし、それが逆に「反転した力」となって、邪神の干渉を弾き飛ばした。 「レオさん!! 今!!」 能力が反転したことで、レオはこれまで受けた全てのダメージを「蓄積したエネルギー」として認識することに成功した。瀕死の状態。しかし、それこそが彼の最強の条件だった。 「吾輩の人生……最高のフィナーレにしてくれい!!」 秘奥義【ルーヴンリート】!! 黄金の獅子が、光の奔流となって空へ舞い上がった。能力反転による脆さを、そのまま攻撃への転換へと変え、龍の喉元へ突き刺さる。不滅の威光を攻撃に転換した一撃は、ドグマニールの強固な鱗を容易く貫き、その心臓を粉砕した。 「ガ、ガアアアッ!!!」 龍が断末魔の叫びを上げる。しかし、絶望は終わらない。ドグマニールの死に際に発動する【邪気崩壊】。全邪気を爆発させ、街ごと全てを消し飛ばそうとする心中攻撃だ。 「……お疲れ様。あとは私たちが」 アビスが、最後の魔導書を開いた。それは【結獄】――因果律を操る書。 「【因果逆転:爆発の不在】」 爆発が起こるはずだった瞬間、その現象だけが「なかったこと」に書き換えられた。静寂が訪れる。呆然とする邪王ヴォルフと邪神の前に、疲れ果てたBチームが立っていた。 「……信じられん。我らが敗れるなど」 ヴォルフが膝をつく。邪神もまた、眷属の全滅と龍の喪失により、この世界に留まる力を失い、闇へと消えていった。 戦いは終わった。 街には、結界が壊れた際に崩れた建物や、邪鬼たちの襲撃による火災が残っていた。しかし、Bチームの迅速な連携と、アビスによる被害の最小化により、壊滅的な状況は免れていた。 生き残った人々が、ゆっくりと瓦礫の中から顔を出す。彼らは、自分たちを救った四人の英雄に、涙ながらに感謝を捧げた。 リーヴェはまた眠そうに目を擦り、アニータはハンマーを高く掲げて笑い、レオは尊大に胸を張り、アビスは静かに本を閉じた。 空からは、ようやく黒い雲が消え、本物の太陽の光が差し込んでいた。 * 【リザルト】 ■街の被害状況: ・結界の崩壊および初期ブレスによる一部損壊 ・邪鬼による小規模な火災と建物損壊 ・被害率:約8%(10%未満を達成) ■生存者数: ・1,000,000人(全員生存。アビスの因果逆転およびBチームの防衛により、殺害者の発生を完全に阻止) ■判定: 【ハッピーエンド】 Bチームの勝利。バッドエンドを回避しつつ、Aチームを完全に殲滅した。街の平和は取り戻された。