黄金の輝きが、虚無の空を塗り潰していた。 そこは次元の狭間か、あるいは神さえも忘れた特異点か。背景に広がるのは、色彩を失った灰色の世界。だが、その中心に君臨する男だけは、眩いほどの黄金に彩られていた。全身を包む黄金の鎧、傲慢なまでに釣り上がった赤い瞳。人類最古の英雄王、ギルガメッシュは、天翔ける王の御座に身を任せ、眼下に広がる「雑種」たちを冷徹に見下ろしていた。 「雑種ごときが、王に刃向かうか。滑稽よな。貴様らの存在そのものが、我が庭に迷い込んだ羽虫と同義であることに気づかぬとは」 ギルガメッシュの声は、静かでありながら世界を震わせる絶対的な権威を帯びていた。彼の背後、空間に黄金の波紋が幾重にも展開される。それは【王の財宝】。この世のあらゆる宝具の原典を収めた宝庫。そこから、数多の神剣、魔剣、聖槍が、狙いを定めることなく射出される準備を整えていた。 対峙するのは、異質な三つの存在。一人(一匹)は、古風な狐の置物を依代に、気だるげに空中に浮かぶ天狐、物部。一人は、絶えず体が崩壊し、再生を繰り返す黒セーラーの少女、ヨミ。そして最後の一人は、もはや個の形すら持たぬ、宇宙の外側から訪れた根源的な絶望と希望の体現、𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗 𝕮𝖍𝖆𝖔𝖘 𝖊𝖙 𝕳𝖆𝖗𝖒𝖔𝖓𝖎𝖆。 「あー……だるいなぁ。なんでおれがこんなギラギラした奴とやり合わなきゃならんの。置物の中が心地いいんだけど」 物部が欠伸をしながら呟く。その周囲には「近づくなオーラ」が漂い、空間そのものが重苦しく澱んでいた。しかし、ギルガメッシュにとって、そのような低次元の呪術は児戯に等しい。 「ふん。置物の中に隠れて震えるとは、臆病な獣よ。その卑しき魂ごと、黄金の雨で洗い流してくれよう」 ギルガメッシュが指を弾いた瞬間、黄金の波紋から数百本の宝具が超高速で射出された。弾丸のごとき速度で降り注ぐ伝説の武器群。だが、物部の周囲でそれらは霧散した。【義務神威】。一定以下の威力を持つ攻撃を無効化し、逆に味方を癒やす権能。さらに、物部自身は置物の中に潜み、物理的な接触を拒絶している。 「おっと。危ないね。けどさ、おれの置物に近づくのは無理だよ」 物部が適当に指を動かすと、狐の妖術が奔流となってギルガメッシュを襲う。しかし、ギルガメッシュは不敵に笑った。彼のスキル【全知なるや全能の星】。相手の能力、思考、そして弱点。そのすべてが既に彼の脳内にカタログ化されている。 「貴様の小細工など、すべて見え透いている。対・妖術用の宝具を射出せよ!」 波紋から現れたのは、妖力を中和し、霊体を縛り付ける特製の短剣と鎖。それが物部の「置物」を正確に貫き、呪いの結界を強引に突破した。物部の気だるげな表情に、初めて驚きが走る。 「げっ、マジか。おれの置物を直接狙うなんて、性格悪いな!」 物部は慌てて霊体として置物から飛び出し、能動的な攻撃に転じようとした。だが、その瞬間、別の「影」が動いた。ヨミである。 彼女の体は、一秒に数億回という速度で崩壊し、再生していた。輪廻の因果を超え、敵の能力を学習し、昇華させる特異点。ヨミが簪から「髪結」を抜き放つと、激しい暁光が世界を照らした。 「……貴方の強さ、学習しました。もう一度だけ、繰り返しますね」 ヨミの攻撃は、もはや視認できない。1ヨクトという極小の時間単位で学習を繰り返し、ギルガメッシュの攻撃パターンを完全に解析。彼女は【王の財宝】から放たれる武器の軌道を、直感的にすべて回避し、一瞬でギルガメッシュの至近距離まで肉薄した。 「ほう。雑種にしては面白い芸当を。だが、学習などという低俗な積み重ねが、王の天賦の才に届くと思うなよ」 ギルガメッシュは動じない。彼は空中に【天の鎖】を展開した。神性を縛る絶対拘束の鎖。ヨミの持つ「輪廻」の性質が神性に近いと判断した彼は、迷わずそれを彼女に叩きつけた。 ガラン! という激しい金属音と共に、ヨミの四肢が黄金の鎖に縛り付けられる。しかし、ヨミは無表情のまま、自らの体をわざと崩壊させた。鎖が縛っていたのは「今の自分」であり、崩壊し再生した「次の自分」はすでに鎖の外にいた。 「輪廻……。なるほど、不快な能力だ。だが、この世のすべては我が所有物。貴様の輪廻すら、我が財宝庫の中にある『原典』に比べれば、模造品に過ぎぬ」 ギルガメッシュは不愉快そうに眉をひそめ、ついに【原罪】を顕現させた。選定の剣の原点。それが放つ光の渦は、触れるものすべてを焼き尽くす絶対的な消滅の炎。ヨミの再生能力すら塗り潰す、究極の浄化。光の奔流がヨミを呑み込み、彼女の「学習」が追いつかぬほどの絶対的な破壊力が空間を焼いた。 そこへ、沈黙を守っていた第三の存在が、静かに「意志」を向けた。𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗 𝕮𝖍𝖆𝖔𝖘 𝖊𝖙 𝕳𝖆𝖗𝖒𝖔𝖓𝖎𝖆。 彼はもはや、戦うという概念さえ持っていない。ただそこに「在る」だけで、宇宙の法則、次元、摂理、すべてを内包する根源の樹。彼がわずかに意識を揺らしただけで、ギルガメッシュが展開していた【王の財宝】の波紋が、物理的な法則を無視して歪み始めた。 「……なんだ、この不快な感覚は。空間が、理が、書き換えられているだと?」 ギルガメッシュの表情に、初めて焦燥の色が浮かぶ。𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗は中立であり、善悪を持たない。だが、その存在そのものが「すべてを包摂する混沌」であるため、ギルガメッシュが誇る「全知」さえも、彼という無限の空白の前では無意味だった。個の概念を超越した存在に対し、個の頂点である王の権能が通用しない。 物部が実体化し、怒りに任せて熾烈な攻撃を仕掛け、ヨミが輪廻の果てに特異点へと達し、絶え間ない攻撃を繰り出す。そして𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗が世界という枠組みそのものを侵食していく。 「面白い……! 実に面白いぞ、雑種ども! 我をここまで追い詰めるとはな!」 ギルガメッシュは激昂しながらも、その瞳には歓喜が宿っていた。彼は王の御座から降り、地に足をつけた。もはや小細工は不要。最強の宝具、そして最果ての斬撃を以て、この不遜な挑戦者たちを根絶やしにする時が来た。 彼はゆっくりと、右手を掲げた。周囲の空間が、耐えきれぬほどの圧力で軋み始める。空が裂け、次元の壁がひび割れる。彼が呼び出したのは、宇宙の法則すら切り裂く、唯一無二の剣。乖離剣エア。 「原子は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。死して拝せよ!」 ギルガメッシュの咆哮が世界を塗り潰す。それはもはや攻撃ではなく、世界そのものの「切断」である。 「『天地乖離す開闢の星』!!」 白銀の閃光が走った。防御不能、回避不能。空間そのものが二つに割れ、そこにいたすべてを虚無へと突き落とす絶対の一撃。物部の実体も、ヨミの輪廻も、そして𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗がもたらした混沌の理さえも、この「世界を裂く」一撃の前では等しく切断される運命にあった。 爆発的な光がすべてを包み込み、静寂が訪れた。 光が収まった後、そこには呆然と立ち尽くす三人の挑戦者たちの姿があった。物部の置物は粉々に砕け、ヨミの体はかつてないほどの崩壊を繰り返し、𝕬𝖗𝖇𝖔𝖗の遍在していた空間さえも、深く、鋭い切り傷のような亀裂が走っていた。 ギルガメッシュは、肩で息をしながらも、不敵な笑みを崩さなかった。彼の黄金の鎧にはいくつかの傷がついていたが、その威厳は損なわれていなかった。 「たわけ。我は最古の英雄ぞ。はなから貴様に勝てる道理なぞない」 彼は勝ち誇ったように、黄金の波紋を閉じ、再び王の御座へと戻った。挑戦者たちは、その絶対的な力の差を突きつけられ、静かに撤退していった。 黄金の王は、空虚な世界に一人、満足げに鼻を鳴らした。彼にとって、この戦いは最高の娯楽であり、自らの至高性を再確認するための儀式に過ぎなかったのである。 勝者:ギルガメッシュ