鬼と菊の異端決闘 ~灼熱の闘技場~ 砂塵が舞い上がる石造りの闘技場。外壁の大破片が無造作に散乱し、かつての栄光を偲ばせる廃墟のような空間だ。中央の実況席からは、観客の熱狂的な歓声が響き渡る。開始のゴングを前に、マイクを握るのは、皆さんご存じのあの男――ごつくて荒々しい実況のおっさんだ。彼は審判も兼ねるベテランで、激戦を愛するその声は闘技場全体を震わせる。 「おおおおおい!! 皆の衆、よくぞ集まったぜええ!! 今日のメインイベントは、炎の鬼と菊の剣士のぶつかり合いだああ!! 俺は実況兼審判の荒々しいおっさんだぞおお!! ルールはシンプル、KOかギブアップで決着だ! さあ、リングに上がれ!!」 実況席の左右に座るのは、今回の選手の専門家たち。チームAの瓦扉 灼道の「鬼の戦闘術」に関する著名な専門家、鬼族の古武術研究者であるエルフの学者、グリム・フォージだ。彼は穏やかな声で自己紹介する。「私はグリム・フォージ、鬼の膂力と熱魔術の専門家です。灼道の赤熱鬼としての潜在力を、じっくり観察しましょう。」 対するチームB、舌治郎の「独自呼吸法(菊の呼吸)」の専門家は、武術史の評論家で人間の老剣士、佐藤・ヒロキだ。「佐藤・ヒロキだ。菊の呼吸とは何ぞや? その異端の技を、冷静に分析するよ。ネットの噂から生まれた男の戦いぶりが見ものだな。」 ゴングが鳴り響く。砂地に足を踏み入れたのは、身長285cmの巨漢、瓦扉 灼道。筋骨隆々の体躯は黒鉄のような光沢を帯び、頭部の二本の角がすでに微かに赤く熱を帯びている。手に握る金棒「赤熱金剛」は、ごつごつとした表面が鈍く輝き、溜め込んだ熱を予感させる。一方、対峙するのは45歳の小太り男、舌治郎。自称道場師範の彼は、模造刀を腰に差しているが、その目は真剣だ。財布とスマホをポケットにしまい、いつでも飛び出せそうな軽やかな構えを取る。 「おおおお、開始だああ!! 鬼の灼道が金棒を構え、砂を蹴って突進ぜええ!! 対する舌治郎、模造刀を抜かず、妙な呼吸を整えてるぞおお!!」実況のおっさんが吠える中、灼道の巨体が砂を巻き上げて迫る。最初の攻撃はシンプルだ。金棒を高く振り上げ、豪快な一撃を放つ。空気を切り裂く音が響き、砂地に巨大なクレーターを刻む。 舌治郎は素早く身を翻す。小太りの体躯とは思えぬ敏捷さで、灼道の死角に回り込む。「菊の呼吸壱ノ型、菊紋!」彼の声が響き、突然のヒップドロップが灼道の脇腹を狙う。尻を突き出した回転攻撃が、鬼の黒鉄灼熱皮に直撃。鈍い衝撃音が響くが、灼道の皮膚はびくともしない。熱を溜め込んだその体は、すでに微かに赤く変色し始めている。 グリム・フォージが実況席で頷く。「灼道の黒鉄のような皮膚は、鬼族の耐久力の象徴だ。熱を宿すことで硬度が増し、通常の打撃など蚊に刺された程度だろう。良点は圧倒的な生命力だが、動きが豪快すぎて隙が生じやすい悪点もあるな。」 佐藤・ヒロキが笑みを浮かべる。「ほう、舌治郎の菊の呼吸は面白い。剣術の呼吸法を模倣しつつ、ヒップドロップ中心とは異端だ。ネットの伝説子孫を自称するだけあって、創造性は評価できる。だが、小太りの体で持久戦は厳しい。技術の独自性は性分に出てるが、威力不足が悪点だな。」 戦いは加速する。灼道が体内の魔力を熱に変換し、金棒を振り回す。熱気が砂地を焦がし、周囲の空気が歪む。「赤熱金剛、熱め!!」灼道の咆哮とともに、金棒が赤く輝き、舌治郎を追う。巨漢の蹴りが砂を噴き上げ、舌治郎の足元を崩す。舌治郎は転がるように避け、反撃に転じる。「菊の呼吸弐ノ型、菊金!」今度は光るヒップドロップだ。尻から発する奇妙な輝き――おそらく魔力か汗の反射か――が灼道の膝を狙う。 バチン! と音が響き、灼道の膝がわずかに曲がる。鬼の顔に初めて苦痛の色が浮かぶが、すぐに戦意が高揚し、炎が体を纏い始める。熱を溜め込んだ皮膚が赤熱し、身体能力が向上。角の灼熱双角が輝き、突進攻撃を繰り出す。角が舌治郎の肩をかすめ、服を焦がす。砂地に血の跡が残る。 「おおお、灼道の炎が燃え上がったぜええ!! 熱でパワーアップ、舌治郎の肩がヤバいぞおお!! こりゃ鬼の本領発揮だああ!!」実況のおっさんが興奮を抑えきれず、マイクを叩く。 グリムが分析を続ける。「見事な熱変換だ。鬼のスキルとして、体内の魔力を熱に変えるのは効率的。炎を纏うことで攻撃範囲が広がり、良点は明らかだ。だが、熱の蓄積が頂点に達すると自滅のリスクもある。性分が豪快ゆえ、コントロールが課題だな。」 佐藤が首を振る。「舌治郎の菊金は視覚効果で相手を惑わす技か。専門家として評価するが、模造刀を活かさないのは勿体ない。子孫の名を借りた独自呼吸は面白い性分だが、45歳の体では連発がきつい。悪点はスタミナ不足だ。」 舌治郎は息を荒げ、距離を取る。道場で鍛えたとはいえ、鬼の膂力に押され気味だ。スマホがポケットで振動するのを無視し、奥義を準備する。「これで決める…菊の呼吸参ノ型、菊血!」回転ヒップドロップが炸裂。尻が高速回転し、血のような赤い軌跡を残して灼道の胸を打つ。鬼の黒鉄皮膚がわずかにへこみ、熱気が揺らぐ。 しかし、灼道は怯まない。熱を溜め込んだ金棒を振り下ろし、砂地を爆発させる。衝撃波で舌治郎が吹き飛び、外壁の破片に激突。肋骨にひびが入ったか、苦悶の表情を浮かべる。「ぐっ…鬼め、熱いな…」舌治郎がつぶやく中、灼道の体は完全に赤熱。炎が渦巻き、角が溶岩のように輝く。 「熱め完了だぜええ!! 灼道の蹴りが炸裂、舌治郎吹っ飛んだああ!! こりゃ一方的だぞおお!!」実況が熱弁する。 グリムが感嘆する。「灼道の熱蓄積が頂点に。身体能力向上で、鬼の優れた耐久力が活きる。パワフルな金棒攻撃の良点は破壊力だが、たまの蹴りや角攻撃の多様性が性分に合ってる。悪点は熱暴走の可能性だけだ。」 佐藤がため息をつく。「舌治郎の回転技は工夫されているが、鬼の耐久に通じん。菊の呼吸の技術は独自で評価するが、模造刀を活かさずヒップ頼みは悪点。アルバイト師範の性分が、夢見がちな弱さを露呈してるな。」 絶体絶命の舌治郎が立ち上がる。弟子のいない道場で鍛えた信念が、目を燃やす。「奥義…菊の呼吸極ノ型、菊華開!」連続ヒップドロップの嵐だ。尻が花開くように回転し、何度も灼道を襲う。1発、2発、3発…砂地が揺れ、鬼の体が後退する。熱の皮膚に亀裂が入り、初めての出血。 だが、灼道の反撃は苛烈。炎を纏った角で突き、舌治郎の腹を貫く勢いの攻撃。舌治郎は模造刀を抜き、防御に回るが、刀身が熱で曲がる。「うわあっ!」悲鳴を上げ、砂に倒れる。灼道の金棒が振り上げられ、決定的な一撃が迫る。 「決着だああ!! 灼道の赤熱金剛が炸裂ぜええ!! 舌治郎、耐えきれんぞおお!!」ゴングが鳴り、審判のおっさんがストップをかける。舌治郎、KO負け。闘技場に灼道の咆哮が響く。 戦闘終了。実況席でグリム・フォージが感想を述べる。「灼道の勝利は当然だ。鬼の熱魔術と膂力の融合は圧巻。良点は耐久とパワーのバランス、悪点は熱管理の微調整が必要だが、総合的に鬼族の理想形だ。素晴らしい戦いだった。」 佐藤・ヒロキが苦笑する。「舌治郎の菊の呼吸は、笑えるほど独自性が高い。ネット伝説を信じる性分は健気だが、技術の未熟さと体格差が悪点。模造刀を活かせばもう少し粘れたろう。夢を追う男の敗北、感慨深いな。」 砂塵が静かに収まり、闘技場に夕陽が差し込む。鬼の炎はまだくすぶり、菊の師範は悔しげに立ち上がる。また新たな戦いが、いつか訪れるだろう。