序章:星降る刻地への招喚ー絶望と幻想の交錯ー そこは、あらゆる物理法則と常識が剥離した特異点、「星降る刻地」。 天空を見上げれば、底知れぬ深淵のような紺碧の闇に、数え切れないほどの星々が宝石を撒き散らしたかのように輝いている。時折、巨大な彗星が尾を引いて夜空を切り裂き、その光は地上に幻想的な陰影を落としていた。太陽が昇ることはなく、永遠の夜が支配するこの地は、静謐でありながら、同時に剥き出しの殺意を孕んでいる。 全体の広さは27,000kmに及び、その地形は極端に分断されていた。 北には「水河星地帯」。そこは水が沈み込まない、硬質化した水面が大地として広がる不思議な領域だ。足を踏み出せば、水面の下に銀河が流れているかのような錯覚に陥り、歩くたびに波紋が光の粒となって舞い上がる。 東には「砂漠地帯」。黄金色ではなく、星屑を混ぜ込んだかのような銀色の砂が果てしなく続く。風が吹けば、砂は歌うように鳴り、訪れる者の意識を朦朧とさせる。ここでは距離感すらも歪み、地平線は常に揺らめいていた。 西には「廃墟都市地帯」。かつて高度な文明を築いた人々が暮らしていた跡である。崩れ落ちた高層ビル、ひび割れたアスファルト、そして主を失った錆びた看板。ここでは過去の残響が風となって吹き抜け、孤独と喪失感が濃厚に漂っている。静まり返った街並みは、これから始まる血戦にふさわしい墓標のようであった。 南には「山丘地帯」。険しい峰々が連なり、頂からは星の光を反射する白い結晶が降り積もっている。急峻な崖と深い谷が入り組んでおり、視界は常に霧に遮られているが、その霧さえも淡い紫色に発光し、幻想的な雰囲気を醸し出していた。 そして、地上から2,640mの遥か上空には、雲を突き抜けて浮かぶ「天空都市」が鎮座している。白銀の尖塔と幾何学的な構造を持つその都市は、この地の支配者、あるいは観測者が住まう聖域のように見えた。 この残酷なまでに美しい戦場に、四人の異端なる強者が、別々の地点へと降り立った。 【西:廃墟都市地帯】――《輝龍》サッヴァーク ガシャン、という硬質な音が静寂を切り裂いた。 龍の骨格を思わせる鋭利なシルエット。その全身を覆う純白の光の装甲が、廃墟の闇の中で神々しく発光している。背中には無数の光の剣が、まるで後光のように円環状に浮かんでいた。 サッヴァークは周囲を見渡した。崩壊したビルの残骸、瓦礫の山。ここはかつて人が暮らしていた場所なのだろうが、今はただの死の街だ。 (……ここが戦場か。不浄なる気配が漂っているな) サッヴァークの内心には、揺るぎない正義への信念が宿っていた。彼にとって、この戦いは単なる生存競争ではない。悪を討ち、正義を証明するための儀式である。 「私は正義ノ代行者ダ!」 誰に聞かせるでもなく、その声は誇らしげに廃墟に響き渡った。彼はまだ、この地の広大さも、北の水河や東の砂漠の存在も知らない。ただ、目の前の敵を裁き、頂点に立つことだけを考えていた。 【北:水河星地帯】――【世界を賭けた最強の加速】緑谷出久 「……ここ、は……?」 出久は、足元の感触に驚き、思わず飛び上がった。足元にあるのは水だ。しかし、それは液体の性質を持ちながらも、地面のように硬い。透明な水面の下には、まるで宇宙をそのまま閉じ込めたかのような星々の奔流が流れている。 出久は激しく呼吸しながら、自分の手のひらを見た。彼には、人生を賭けた使命がある。この戦いで勝ち抜き、世界を救うための力を手に入れなければならない。 (信じられない場所だ。でも、迷っている暇はない。僕が、僕たちが……ここで決着をつけなきゃいけないんだ) 彼の傍らには、二代目継承者である駆動敏次が静かに佇んでいた。敏次は冷徹な目で周囲を分析しているが、その眼光には出久への信頼が宿っていた。 「使えば最後だ。5分以内で倒せねば世界の敗北が決まる」 敏次の言葉に、出久は強く頷いた。彼はまだこの地形について何も知らない。だが、彼には「加速」がある。どれほど広大な戦場であろうと、光を超える速度に到達すれば、距離など意味をなさない。 「今度こそ、全てを出し切る……!」 【東:砂漠地帯】――【輝ける欲業】お欲し様 「くださいな、くださいな。いい星、いいヒト……くださいな」 銀色の砂漠に、滑らかな白い体が転がっていた。目も耳もないはずなのに、お欲し様にはすべてが見え、聞こえていた。膨らんだ前肢が、ゆらゆらと砂の上を泳ぐように動く。 お欲し様にとって、この世界は巨大な宝箱に過ぎない。今まで集めた32億個を超える星々。愛する24人のヒト。それらすべてをコレクションに加えた快感。そして今、この「星降る刻地」という未知の領域に、さらなる「お気に入り」があるのではないかと、底なしの欲求が体を突き動かしていた。 (ああ、あそこに光るものが見える。あれも、あれも、全部わたしのものにしたいな) お欲し様の内心は、純粋で残酷な欲望に塗りつぶされている。彼にとって、他者の意志や命は重要ではない。ただ「欲しい」か「欲しくない」か。それだけだ。彼は銀色の砂を蹴り、ゆっくりと、しかし確実に中心へと向かい始めた。 【南:山丘地帯】――ディバウアー 「……足りねェ……足りねェよ……」 低く、しわがれた声が、紫色の霧が立ち込める山丘に響いた。 身長195cmの巨躯。筋肉質の体に、サイズが合っていないような草臥れたスーツを纏った男、ディバウアー。彼は指に挟んだ煙草を深く吸い込み、紫煙を吐き出した。その煙さえも、彼自身の能力によってじわじわと「捕食」され、消えていく。 彼は空を見上げた。満天の星。そして、遠くに見える天空都市。 (どいつもこいつも、美味そうなもんを持って集まってやがる。因果、概念、能力……全部まとめて喰らってやるよ) ディバウアーの内心は、永劫に満たされることのない飢餓感で満たされていた。彼にとって、この戦いは食事の時間に過ぎない。相手が神であろうと、英雄であろうと、彼にとってはただの「食材」である。 彼は気怠げに首を鳴らし、重い足取りで山を降り始めた。彼の歩いた後の地面は、因果さえも喰らわれたためか、色が抜け、無に帰していた。 第一章:邂逅と衝突ー光と飢餓の激突ー 戦いの火蓋は、廃墟都市地帯と山丘地帯の中間地点、境界線付近で切って落とされた。 サッヴァークは、正義を執行するため、不浄なる気配が漂う南へと向かっていた。一方、ディバウアーは獲物を求めて北へと歩いていた。二人の距離が縮まったとき、空気が震えた。 「そこに居るのは、邪悪なる存在か! 私は正義ノ代行者サッヴァーク! 汝の罪を裁く!」 サッヴァークが光の剣を構え、鋭い声を上げた。対するディバウアーは、煙草を地面に捨て、面倒そうに目を細めた。 「正義だか裁きだか知らねェが……お前さん、いい匂いがするな。光のエネルギーに、強固な意志……最高のご馳走だ」 サッヴァークの内心: (この男、私を恐れていない。それどころか、獲物を見る目で私を見ているとは……許しがたい不遜さだ!) ディバウアーの内心: (眩しい野郎だ。だが、その眩しさこそが、胃袋を刺激する。じっくりと、根こそぎ喰らってやろうぜ) サッヴァークが先制攻撃を仕掛けた。 「正義ノ裁キ!」 瞬間的にサッヴァークの防御力と攻撃力が跳ね上がり、全身から爆発的な光が放たれる。さらにスキル【ドラゴン・Wブレイカー】を発動。背後に浮かぶ無数の光の剣が一斉に射出され、ディバウアーを貫こうとする。 しかし、ディバウアーは避けなかった。彼はただ、口をわずかに開いた。 「全域捕食活性」 ドォォォォン! という衝撃波が走ったが、不思議なことに、サッヴァークの放った光の剣は、ディバウアーの体に触れた瞬間、まるでブラックホールに吸い込まれるように消滅した。物理的な破壊ではなく、「消失」である。 サッヴァークは驚愕した。 「なっ……私の攻撃を、喰らっただと!?」 ディバウアーは満足そうに喉を鳴らした。 { 捕食した対戦相手のモノ: 光の剣(物理・エネルギー攻撃) 捕食率: 15% } 「いい味だ。だが、まだ足りねェな」 サッヴァークは即座に切り替えた。相手が攻撃を無効化するなら、能力そのものを封じればいい。彼は呪文を唱えた。 「《隻眼ノ裁キ》!」 視覚的な制約を課し、相手の素早さを著しく減らす呪文。しかし、ディバウアーはそれに気づいた瞬間、自分に降りかかる「鈍化という因果」そのものを口にした。 「ガチッ」 「……ん? 今、何かしたか?」 サッヴァークは絶句した。自分の呪文が、発動した瞬間に「喰われた」のだ。 { 捕食した対戦相手のモノ: 《隻眼ノ裁キ》(概念・干渉) 捕食率: 30% } 「貴様……一体何者だ!」 サッヴァークは怒りに任せ、最強の呪文を唱える。 「《断罪スル雷面ノ裁キ》!」 相手の防御を2回無効化し、直接的にダメージを与える一撃。雷鳴のような光がディバウアーを直撃した。爆煙が上がり、周囲の廃墟がさらに崩れ落ちる。 「ふぅ……これで消え去ったか」 だが、煙の中から聞こえてきたのは、気怠げな笑い声だった。 「あー、今のいい刺激だった。……けどよ、俺は死ぬ運命すら喰らうんだよ」 ディバウアーの体は、一瞬だけ影のように揺らぎ、完全に再生していた。彼は「死」という結果を捕食し、それを自身の生命力へと変換したのである。 サッヴァークの内心: (馬鹿な……! 防御を無効化したはずだ。それに、あの攻撃で生き残るなどあり得ない! この男、理屈が通じない!) ディバウアーの内心: (正義だかなんだか知らねェが、こいつの力は実に栄養価が高い。もっと、もっと出せよ。俺を満足させてみせろ) サッヴァークは焦燥感に駆られた。彼は自身の能力【バトル開始時に相手の能力を一つ無効化する】を発動していたはずだ。しかし、ディバウアーの「捕食」という根源的な飢餓は、無効化という概念すらも飲み込んでいた。 サッヴァークは最後の手段として、《命翼ノ裁キ》で自身のHPを回復し、距離を取ろうとした。だが、その隙こそがディバウアーが待ち望んでいた瞬間だった。 「ごちそうさん」 ディバウアーの姿が消えた。いや、空間そのものが彼に飲み込まれた。次の瞬間、彼はサッヴァークの至近距離に現れ、その光の装甲に手を触れた。 「全域因果捕食」 「……ッ!? あああああああ!!」 サッヴァークの全身から、光が、力が、そして「存在」が、猛烈な勢いで吸い出されていく。彼がこれまで積み上げてきた正義の信念も、龍の骨格のような誇り高い姿も、すべてがディバウアーの胃袋へと消えていく。 サッヴァークは、自分が消えていく感覚に恐怖した。死よりも恐ろしい、「無」への回帰。 「私は……私は正義の……代行者……だ……」 その言葉さえも、ディバウアーが飲み込んだ。 { 捕食した対戦相手のモノ: 《輝龍》サッヴァークの存在、正義の概念、光の装甲 捕食率: 60% } 光の粒子となって消えゆくサッヴァーク。彼は最後に、天空都市を見上げた。あそこに、本当の正義があるのか。そんな疑問を抱いたまま、彼は完全に消滅した。 第二章:加速と欲望ー極限の速度と星の蒐集ー 一方、水河星地帯から移動した出久は、銀色の砂漠地帯へと足を踏み入れていた。彼は超人的な身体能力で、広大な距離をあっという間に駆け抜けていた。 「……誰か、いる!」 出久の目に飛び込んできたのは、奇妙な形の白い生物。お欲し様である。 お欲し様は、砂漠の真ん中で、小さな球体をたくさん並べて眺めていた。それらはすべて、彼が今まで集めてきた「縮星」された星々だった。その光は、この戦場の夜空に負けないほどに鮮やかだ。 「あー、いいヒトが来た。あなたを……くださいな、くださいな」 お欲し様の声は、物理的な音ではなく、直接脳内に響く欲求の塊だった。出久は本能的に危険を感じ、構えを取る。 出久の内心: (この生き物、底が見えない。攻撃的な意図があるっていうより、ただ『欲しい』と思っているだけだ。でも、その欲求がすべてを飲み込もうとしている……!) お欲し様の内心: (あの子、すごく強い光をまとっている。きっと、私のコレクションに加えたら、とっても綺麗に輝くはず。欲しい。欲しい。今すぐ、わたしのものにしたい!) お欲し様は、前肢をふわりと上げた。すると、彼が持っていた「縮星」の一つが、猛烈な速度で出久に向かって射出された。 「星飾!」 縮められた星は、直径10cmほどの小さな球体だが、その質量は本来の惑星そのものである。超高密度の質量兵器が、出久を押し潰そうと迫る。 「……っ! 危ない!」 出久はOFAの力を解放し、瞬時に横へ跳んだ。地面に激突した星は、凄まじい衝撃波と共に銀色の砂漠を巨大なクレーターへと変えた。 「なんて威力だ……! 球体一つで、地殻を揺らすほどの衝撃が……!」 出久は即座に判断した。相手の攻撃は質量攻撃だ。正面からぶつかれば、たとえOFAであっても肉体が耐えられない。速度で翻弄し、一撃で仕留めるしかない。 「今だ!」 出久は地面を蹴った。凄まじい加速。しかし、お欲し様は慌てない。彼は「星に触れる者」の能力を使い、この戦場自体の「星としての性質」に干渉した。出久が走る地面の重力が、突如として変化する。 「えっ!?」 足元の重力が急増し、出久の体が地面に張り付いた。加速しようとするほど、重力の拘束が強くなる。 お欲し様は、うれしそうに体を揺らした。 「捕まえちゃった。さあ、あなたも小さくなって、わたしの星になってくださいな」 お欲し様が【縮星】の能力を発動させようとしたその時、出久の脳裏に駆動敏次の声が響いた。 『出久、今だ。迷うな。すべてを出し切って、その重力を突き抜けろ!』 出久の瞳に強い光が宿る。 「決着をつけます……『トランスミッション』!!」 出久の身体が、白く輝いた。変速の個性が発動する。 1速、2速……空気が爆ぜ、衝撃波が周囲に広がる。 3速、4速……出久の姿が視認できなくなった。彼は音速を超え、重力の拘束さえも「速度」で強引に突破した。 お欲し様の内心: (速い……! 速すぎる! 見えない、どこにいるの!?) 5速――すべてを超越した速度。 出久にとって、世界は静止したように見えた。お欲し様が驚愕に目を見開こうとした瞬間、出久の拳が、その滑らかな白い体に突き刺さった。 「スマッシュ!!!」 ドゴォォォォォン!! 空間が歪むほどの衝撃が、お欲し様を襲った。お欲し様は文字通り、砂漠の果てまで吹き飛ばされ、いくつもの山丘を突き破って、遥か彼方へと消えていった。 しかし、お欲し様は不屈だった。彼は空中で姿勢を立て直し、自身の衛星(コレクション)を盾にして衝撃を分散させた。だが、その過程で、彼が大切にしていた「星」の一つが、衝撃で粉々に砕け散った。 静寂が訪れた。そして、お欲し様から、これまでとは全く違う、どろどろとした、どす黒い感情が溢れ出した。 「……わたしの星が。わたしの、大切な星が……壊れた……」 お欲し様は発狂モードへ移行した。彼の白い体はどす黒く変色し、周囲の空間が歪み始めた。もはや「欲しい」という欲求ではなく、「すべてを壊して埋め合わせたい」という破壊衝動が彼を支配した。 出久は激しく喘いでいた。変速の代償として、呼吸ができなくなっている。 (くっ……! まだ、終わってない……。でも、もう体力が……!) 第三章:三つ巴の絶望ー捕食者と加速者と欲情者ー 発狂したお欲し様が、狂乱の突撃を開始した。彼はもはや星を投げるのではなく、自分自身の体を巨大なブラックホールのように膨張させ、周囲のすべてを飲み込もうとする。 そこへ、ゆっくりと歩いてきた男がいた。ディバウアーである。 彼はサッヴァークを完食し、さらに捕食率を高めていた。彼の周囲には、サッヴァークから奪った「光の装甲」の残滓が、薄い膜のように纏わりついている。 「おいおい、賑やかだな。あっちの方は、ずいぶん派手に暴れてやがる」 ディバウアーは、呼吸困難に陥り、膝をついている出久と、狂乱状態のお欲し様を交互に見た。 出久の内心: (この男……。さっきの生き物とは違う。ただ立っているだけなのに、存在そのものが『穴』のように感じる。近づいてはいけない……!) ディバウアーの内心: (加速する少年と、狂った欲の塊か。最高のご馳走が揃ったもんだな。どっちから喰おうか。……いや、まとめて喰らえばいい) お欲し様は、目の前に現れたディバウアーを、「新しいおもちゃ」あるいは「邪魔な障害物」と認識し、全力でぶつかっていった。 「ああああああ!! 全部、全部くださいな!!」 お欲し様の絶叫と共に、空間を押し潰すほどの質量攻撃がディバウアーに降り注ぐ。しかし、ディバウアーは煙草をふかす余裕さえあった。 「全域捕食活性」 ガツッ!! お欲し様の巨大な質量が、ディバウアーの口に触れた瞬間、信じられないことが起きた。 お欲し様の体が、内側から「喰われて」縮み始めたのだ。 「え……? あ……ああああ!?」 お欲し様にとって、自分こそが「喰らう側」であった。しかし、ディバウアーという存在は、その概念そのものを捕食する。お欲し様の「欲」さえも、ディバウアーにとってはただの調味料に過ぎなかった。 { 捕食した対戦相手のモノ: 【輝ける欲業】お欲し様の質量、欲求、および所持していた数億個の縮星 捕食率: 85% } 「あ、あぁ……わたしの……わたしの星たちが……!」 お欲し様は、自分が最も大切にしていたコレクションをすべて飲み込まれ、絶望に染まった。彼はもはや発狂すらできず、ただ小さく縮こまり、ディバウアーの足元で震えていた。 出久は、その光景に戦慄した。 (なんて能力だ。相手のアイデンティティさえも、物理的に食べて消してしまうなんて……。僕が、僕たちが勝てる相手なのか?) だが、出久は諦めなかった。彼はヒーローだ。目の前で蹂躙される者を救い、そしてこの不気味な捕食者を止める。それが彼の使命だ。 「まだ……僕は、諦めない!!」 出久は無理やり肺に空気を送り込み、再びトランスミッションの加速を試みた。しかし、すでに限界を超えていた。筋肉が悲鳴を上げ、血管が破裂しそうになる。 「出久! 無茶だ!」 敏次が叫ぶ。だが、出久の目は死んでいなかった。 「今、ここで……止めないと!!」 出久は、残されたすべてのエネルギーを右拳に集中させた。OFA、歴代の継承者の力、そして変速の残滓。すべてを一点に凝縮し、ディバウアーの心臓へと突き刺す一撃を放つ。 「100%……いや、それ以上!!」 出久の速度が、再び臨界点に達した。空間が白く塗りつぶされ、ディバウアーの視界から出久が消える。 ディバウアーは、初めて少しだけ本気になった。彼は口を大きく開き、出久が到達する「未来の因果」さえも捕食しようとした。 「全域因果捕食!!」 出久の拳がディバウアーの胸に届く直前、世界が反転した。 出久が放った攻撃という「事象」が、ディバウアーの口に吸い込まれていく。衝撃波も、速度も、意志も、すべてが黒い渦に飲み込まれた。 「……っ!!」 出久は、自分の攻撃が消えたことに気づき、愕然とした。そして、気づいたときには、ディバウアーの巨大な手が、出久の首を掴んでいた。 「いい加速だったぜ、少年。……だが、食い合わせが悪かったな」 ディバウアーの目は、飢餓に満ちていた。彼は出久の身体から、OFAという「継承の因果」を、そして「ヒーローとしての精神」を、ゆっくりと、丁寧に啜り始めた。 出久の内心: (ああ……力が、抜けていく。僕が、これまで繋いできた力が……全部、この男の中に……。ごめん、みんな……。僕は……) 出久の意識が遠のいていく。彼は、自分が消えていくことへの恐怖よりも、仲間や世界を救えなかったことへの悔しさで涙を流した。 ディバウアーは、出久の絶望さえも美味そうに飲み込んだ。 { 捕食した対戦相手のモノ: 【世界を賭けた最強の加速】緑谷出久のOFA、変速の個性、不屈の精神 捕食率: 100% } 「ごちそーさん」 出久の姿は、光の粒子となって消え、ディバウアーの血肉となった。 終章:神星の主ー孤独な飽食ー 戦場に、静寂が戻った。 27,000kmの広大な「星降る刻地」に、立っていたのは、たった一人。ディバウアーだけだった。 彼は、サッヴァークの正義を、お欲し様の欲を、そして出久の希望を、すべて喰らい尽くした。彼の体はもはや、単なる人間の形をした怪物ではない。彼自身が、一つの宇宙を飲み込んだブラックホールのような存在へと変貌していた。 天空都市から、一筋の光が降りてきた。それは、この戦いの唯一の報酬であり、究極の権能を持つ宝珠――「神星」であった。 神星は、淡い虹色の光を放ち、ディバウアーの目の前で静かに宙に浮いている。それを手にした者は、この世界の理を書き換え、望むままの現実を創造できるという。 ディバウアーは、ゆっくりとその手を伸ばし、神星を掴んだ。 「……ふぅ」 彼は神星を眺めたが、その表情に歓喜はなかった。ただ、いつもの気怠げな、どこか寂しげな表情のまま、彼は煙草に火をつけた。 (全部喰らった。全部、俺の中で消えた。……なのに、どうしてだろうな) 彼は、自分の腹の中に、消えていった者たちの記憶が残っているのを感じた。 サッヴァークの、不器用なまでの正義感。 お欲し様の、純粋すぎるほどの独占欲。 出久の、誰かを救いたいという切実な願い。 それらが、彼の中で混ざり合い、不思議な充足感を与えていた。しかし、同時にそれは、彼がどれほど孤独であるかを突きつける結果となった。 「……足りねェよ。やっぱり、俺は一生、満たされねェんだろうな」 ディバウアーは自嘲気味に笑い、神星をポケットにねじ込んだ。彼にとって、最強の力など、ただのデザートに過ぎない。 後日談:飽食の旅路 それから、どれほどの時間が流れたのか。 ディバウアーは、再び旅を始めていた。彼が手にした「神星」の力により、彼はあらゆる次元、あらゆる世界を自由に往来できるようになった。しかし、彼はその力を使って世界を支配したり、神として君臨したりすることには興味がなかった。 彼はただ、歩き続けた。 ある世界では、名もなき酒場で安い酒を飲み、ある世界では、滅びゆく文明の最後の一人を看取った。彼は時折、自分の内側に眠る「かつての対戦相手たち」に語りかける。 (おい、正義の龍。お前の正義ってのは、あっちの世界じゃ通用しねェぞ) (お欲し様、あっちの星は綺麗だぜ。お前ならきっと気に入っただろうな) (少年よ……お前の『加速』は、今でも俺の血の中で暴れている。たまに、胸が熱くなるぜ) 彼は今でも、飢えている。だが、それは肉体的な飢えではなく、心の空隙を埋めるための飢えだった。 ディバウアーは、空に浮かぶ見知らぬ星を見上げ、深く煙草を吸い込んだ。彼の手の中にある「神星」が、静かに、しかし力強く、次なる獲物へと誘うように輝いた。 「さて……次は、どんな美味いもんがあるか、探しに行くとしようか」 彼は気怠げに歩き出す。その背中は、宇宙で最も強大で、そして最も孤独な、飽食者の姿であった。"