虚無の色彩すら存在しない、完全なる白の異次元空間。そこは上下左右の概念が希薄で、ただ無限に広がる静寂だけが支配する特異点であった。そこに、二つのチームが召喚される。 一方に、静かなる殺気を纏う四人の男たち――チームA。そしてもう一方に、圧倒的な威圧感を放つ単独の巨躯、TiAMATT-00(ティアマット-インフィニティ)――チームB。 「……ふむ。ここが戦場か。随分と殺風景な場所だな」 アニマが穏やかな笑みを浮かべながら、自身の長い指先で顎を撫でる。その隣では、【修羅ノ剣士】蜻蛉が静かに刀の鯉口を切っていた。その瞳には、ただ獲物を屠るためだけの純粋な闘志が宿っている。 「まあまあ、アニマさん。場所などどこでもいい。誰が一番強いか、それを決めればいいだけのことでしょう」 温和な微笑みを湛え、眼鏡の奥に柔らかな瞳を光らせる男、アマデウス・プレイン・オーガが口を開く。その物腰はどこまでも昼行燈であり、戦場に不釣り合いなほどに穏やかだった。一方、大柄な男、Π.アペラティーキは、愛用の「クラブ」を肩に担ぎ、退屈そうに鼻を鳴らしている。 対するチームB、TiAMATT-00が、地響きのような駆動音と共にその巨体を震わせた。機械的な唸り声が空間を震わせ、同時に不可視の圧力がチームAを襲う。 [不敬なり] その瞬間、チームAのメンバーは身体に鉛を流し込まれたかのような重圧に襲われた。ステータスが強制的に削り取られ、飛行による回避手段が封じられる。空間そのものがTiAMATTの絶対的な支配下に置かれたことを意味していた。 「おっと……。これは不便ですね。身体が重い」 アニマが困惑したように眉をひそめる。しかし、その瞳の奥にある光は消えていない。先に動いたのは、蜻蛉だった。 「……遅いな」 【猛進ノ虫】 刹那、蜻蛉の姿が消えた。音すら置き去りにし、時間という概念さえも超越した超速の一撃。白い空間に、ただ一本の直線的な斬撃の軌跡だけが残る。しかし、TiAMATT-00は微動だにせず、その分厚い装甲で攻撃を受け止めた。キィィィィン! という激しい金属音が鳴り響く。 「ガハッ……!」 蜻蛉が血を吐き、後方に跳ね飛ばされる。限界を超えた速度の代償として、彼の靭帯が悲鳴を上げ、骨が砕ける音が周囲にまで聞こえた。だが、蜻蛉は不敵に笑い、再び刀を構える。 「いい……いいぞ。この硬さ、斬り甲斐がある」 「おいおい、一人で盛り上がるなよ」 アペラティーキが地を蹴った。重い足取りながらも、その一撃は破壊的だ。 「叩く!」 巨大なクラブがTiAMATTの側面に叩きつけられる。凄まじい衝撃波が走り、空間が歪む。しかし、TiAMATTはそれを強引に耐え抜き、即座に反撃に転じた。 [回帰を許さぬ者] 装甲から鋭利な柱が猛烈な速度で射出される。アペラティーキは咄嗟にクラブでそれを受け止めたが、衝撃で後方に押し出された。同時に、この空間に「回復」という概念が封印される。一度受けた傷は二度と癒えない。絶望的な状況が構築されていく。 「やれやれ。実に強引な力ですね」 アマデウスがゆっくりと歩み出る。彼はただ、微笑んでいた。TiAMATT-00は目の前の「弱そうな人間」を排除すべく、右腕を振り上げる。しかし、アマデウスは避けない。ただ、そこに立っているだけだった。 「おや、もう終わりですか?」 TiAMATTの攻撃が届く直前、アマデウスはまるで相手の動きをすべて知っていたかのように、最小限の動きでそれを回避した。右、左、上。舞い踊るような身のこなし。攻撃力も防御力も平均的なはずの彼が、完封している。 「既知ならば恐怖足り得ない」 アマデウスが静かに呟いた瞬間、彼の雰囲気が一変した。温和な昼行燈の皮が剥がれ落ちる。 【「擬態解除/部分解禁」右腕】 彼の右腕が、人間のものではない、原初の蟲としての異形へと変貌した。それは生物としての理を外れた、究極の捕食者の腕。アマデウスは一瞬で距離を詰め、TiAMATTの装甲の隙間――動力源である心臓部へ、正確にその腕を突き立てた。 ドゴォォォッ!! 「ガ、ギ……ッ!?」 TiAMATT-00が初めて衝撃に揺らぐ。しかし、相手は不滅の機械神に近い存在。心臓を貫かれてもなお、その機能は停止しない。むしろ、怒りに任せた最大出力の攻撃が始動する。 [深淵送り] 漆黒の波動がアマデウスを包み込み、行動を完全に封じる。逃げ場のない拘束。そして、至近距離から超高熱のブレスが放たれた。轟烈な炎がアマデウスを飲み込み、白き空間を赤く染め上げる。 「アマデウス!!」 アペラティーキが叫ぶ。だが、炎の中から現れたのは、静かに眼鏡を直すアマデウスだった。彼はもはや擬態などしていなかった。原初の父としての威厳を纏い、炎さえも自身の糧とするかのように佇んでいる。 「ああ、やはり人は素晴らしい。ですが、残念です。人が悪かったですね」 アマデウスの言葉と同時に、彼は再びTiAMATTへ飛びかかった。しかし、TiAMATTもまた限界を超えた出力を出し、互いの攻撃が激突し合う。空間がひび割れ、次元の壁が崩壊し始める。 そこに介入したのは、今まで静観していたアニマだった。 「そろそろ、幕引きにしましょうか」 アニマが指を鳴らす。周囲に無数の「長針と短針」が召喚された。 「時を守り貫く針」 針がTiAMATTの四肢を貫き、その動きを極端に遅延させる。1秒が1時間に感じられるほどの絶対的な鈍化。絶望的な鈍足に陥ったTiAMATTに対し、アペラティーキが最大の一撃を溜める。 「アペラティーキ流秘奥義――大地玉砕!!!」 渾身の力を込めたクラブの一撃が、TiAMATTの頭部から胴体にかけて叩きつけられた。空間ごと圧殺するほどの衝撃。装甲がひしゃげ、内部機構が火花を散らす。 しかし、TiAMATT-00はまだ死んでいなかった。崩壊した装甲から、最後の抵抗として全エネルギーを集中させた絶滅光線を放とうとする。光が集束し、すべてを消し飛ばさんとする閃光が走り始めたその時――。 アニマの表情から笑みが消えた。 『█▉▅▎▃▉』 彼が纏っていた衣服が、深い闇を湛えたローブへと変貌する。魔力の制約をすべて解除し、彼自身の本質である「殲滅」の権能が解放された。 世界が止まった。 文字通り、時間の流れが完全に停止した。飛び散る火花も、TiAMATTが放とうとした光線も、空中に舞う塵さえもが静止する。静寂の中に、アニマの冷徹な声だけが響いた。 「全ては、在るべき姿へ」 アニマがゆっくりと歩き、停止したTiAMATT-00の核へと手を触れる。そこに「自律命令」を与えた。それは【崩壊】という命令である。 時間が再び動き出した瞬間。 ドォォォォォォォォン!! 外部からの攻撃ではなく、内部から、細胞一つ一つ、回路一つ一つが拒絶反応を起こし、TiAMATT-00の巨躯は内側から爆発し、塵となって消滅した。不敬なりと嘲笑った絶対的な力は、絶対的な「停止」と「崩壊」の前に、跡形もなく消え去ったのである。 静寂が戻った白い空間に、四人の男たちが立っていた。 蜻蛉は血塗れの刀を鞘に収め、アペラティーキはクラブを肩に担ぎ直して大きくあくびをした。アマデウスは再び温和な微笑みを湛え、眼鏡の位置を正す。 「お疲れ様でした。さて、帰りましょうか」 アニマがそう言い、彼らは消えゆく次元の彼方へと歩き出した。後に残ったのは、かつて最強を自負した機械の残骸さえも残らぬ、真っ白な虚無だけだった。 【勝利チーム:チームA】 勝敗の決め手: TiAMATT-00の圧倒的なステータス低下と拘束スキルは脅威であったが、チームAの個々の能力の噛み合わせがそれを上回った。特に、アマデウスによる「既知」に基づく回避と内部攻撃で装甲を弱らせ、アペラティーキの最大火力で構造を破壊し、最終的にアニマの「時間停止」と「崩壊命令」という不可避の権能が、TiAMATT-00の再生・抵抗能力を完全に無効化したことが決定打となった。