静寂に包まれた虚無の空間。そこは次元の境界線であり、あらゆる理が交差する特異点であった。そこに、一人の男が降り立つ。黒髪に青い瞳、そして静かに揺れる黒い尾を持つ龍神――イアレ・ディアルニテ。彼は退屈していた。数多の次元を滅ぼし、強者を求め歩んできた彼にとって、この宇宙に類を見ない「異能の集団」が待ち構えているという噂は、唯一の慰めであった。 対するチームBは、奇妙な調和を持って彼を迎えていた。 知的な眼差しで分析を行う魔法収集家・蔣介石。$マークの眼鏡をかけ、どこか飄々とした態度で佇むアロサウルス。そして、純白のワンピースを纏い、静かに黄昏れる機械仕掛けの少女。そしてその中心には、淡い光を放つ一枚の「鏡」を持つ真白の少女が立っていた。 「……ふむ。面白い。我を満足させてみせよ」 イアレは不敵に微笑み、軽く構えた。まだ、本気ではない。力を抑え、素手で戦う基本形態。しかし、その静かな佇まいから放たれる圧力は、空間を歪ませるに十分であった。 先制したのは、アロサウルスだった。彼は大きな口を開け、饒舌に語りかける。 「そういえば最近聞いたんスけど……龍神様って、実は特定の次元では完敗して逃げ出したことがあるらしいッスね。本当ッスか?」 それは完全なる虚構であり、初耳の噂であった。しかし、この能力は精神的な揺さぶりを強制的に植え付ける。常人ならばここで集中力を欠き、隙を晒すだろう。だが、イアレの青い瞳は冷徹だった。【万象の眼】が、その言葉の裏にある稚拙な意図を瞬時に見抜く。 「くだらない。そのような妄想に惑わされる我だと思うか」 イアレが地を蹴った。神速の打撃。超光速の拳がアロサウルスの顔面に突き刺さる。衝撃波だけで周囲の空間がひび割れた。しかし、アロサウルスは驚異的なタフネスで耐え、$マークの眼鏡をずらしながら笑っていた。天変地異など造作もない彼にとって、この程度の打撃では「倒れる」という概念に至らない。 同時に、蔣介石が動いた。彼はイアレの挙動を「猿真似」のスキルで解析し、その構造を理解しようと試みる。完全阻害魔法を展開し、イアレの不可視の圧力を遮断。さらに、独自の秩序作成により、龍神の法則を上書きする魔法を構築し始めた。 「なるほど、法則そのものを書き換える力か。だが、理解できれば対処は可能だ」 さらに、機械仕掛けの少女が静かに口を開いた。彼女が紡ぐ【歌】が、5羽の機械の鳥を通じて空間全体に伝播する。それは滅びた世界の物語であり、同時に聴く者の精神を摩耗させ、存在を希薄にする絶望の旋律だった。さらに彼女の「声」には、殺意を持つ者を即死させる言霊が宿っている。 イアレの周囲に、絶望の歌と死の言霊が渦巻く。そして、鏡を持つ少女が静かにその鏡を掲げた。 「鏡写し」 その瞬間、世界が反転した。イアレが放つ攻撃、彼が支配する法則、そして彼が持つ「最強」という概念さえもが、鏡によって反転し、彼自身へと還される。攻撃すれば自分が傷つき、支配しようとすれば支配される。理外の鏡は、勝敗の指示さえも反転させる権能を持っていた。 イアレは愕然とした。自分の拳が、自分自身の胸を打つ。自分の法則が、自分を縛る鎖となる。 「……ほう。我の力をそのまま返すか。面白い。だが、この程度の『反転』で我を止められると思うな」 イアレが激昂した。その怒りと共に、彼が受けた「反転によるダメージ」がトリガーとなり、彼の形態が変化する。 宇宙の法則が悲鳴を上げた。バキバキと空間が砕け散り、星々が消滅していく。第2形態への移行。この形態に移行した瞬間、世界を支配していた「反転の理」が、圧倒的な暴力によってかき消された。鏡を持つ少女の権能が、一瞬の中断を余儀なくされる。同時に、イアレの身体から「死」の概念が消え、完全なる不死身へと昇華した。 「ここからが本番だ。貴様らに絶望を教えよう」 イアレの手には、因果を断つ【宝剣:エナ・ロンメント】と、すべてを貫く【宝弓:ジ・ペネーク】が握られていた。さらに、1京倍の手数を持つ【宝矛:トリ・ストラピア】と、あらゆる能力を無効化する【宝鎖:テトラ・デアセルン】が展開される。 まずは【宝鎖】。次元を超えて伸びる鎖が、蔣介石とアロサウルス、そして機械の少女を同時に拘束した。逃げ場はない。能力は0になり、身体能力は剥奪される。蔣介石が構築した秩序も、アロサウルスのタフネスも、少女の言霊も、すべてが鎖の接触によって消滅した。 「終わりだ」 イアレは【宝斧:ペンタ・トルクネイロス】を振り下ろした。一撃。それは数京回の死を同時に体験させる絶望の斬撃。蔣介石、アロサウルス、機械の少女の三人は、悲鳴を上げる暇もなく、輪廻の輪から外れ、無へと還元された。彼らは以後、この戦いに参加することは叶わない。 残されたのは、鏡を持つ少女のみ。彼女は再び鏡を掲げ、反転を試みた。しかし、イアレは止まらなかった。彼はさらなる高みへと至る。受けたダメージを糧に、最終的な形態へと移行した。 背中に、純白の翼【宝翼:オクタ・エテリューゲ】が展開され、頭上には森羅万象を支配する【宝輪:ミデン・ドミナムニス】が輝く。 もはや、そこにあるのは「戦い」ではなかった。単なる「消去」である。 【宝翼】により、イアレは多次元・並行世界を刹那に移動し、あらゆる干渉を無効化する。そして【宝輪】が、鏡を持つ少女の唯一の武器である「反転」の能力を根こそぎ奪い取り、それを無限に進化させた。反転させる能力そのものを支配し、さらに強化して自分の力とする。 鏡を持つ少女は、ただ呆然と彼を見上げた。彼女の存在維持に必要な理さえも、イアレが放つ威圧感だけで崩壊していく。同じ空間に存在しているだけで、彼女の魂は粒子となって霧散し始めた。 「貴方の行いは……?」 少女が最後に問いかけた。しかし、その答えを返す必要はなかった。イアレが指先を軽く弾くと、彼女の存在していた座標そのものが消滅した。 静寂が戻った。そこには、ただ一人、多次元の放浪者が立っていた。彼は満足げに、あるいは相変わらず退屈そうに、空を仰いだ。 「やはり、この次元にも我を倒す者は居なかったか」 彼は再び歩き出す。さらなる強者を求め、次の次元へと消えていった。 * 【勝者】 イアレ・ディアルニテ 【勝利理由】 チームBは「反転」と「解析」という強力なメタ能力を持って挑んだが、イアレ・ディアルニテの形態変化に伴う「能力の上書き・消去」および「圧倒的な出力上昇」に太刀打ちできなかった。特に第2形態による法則の崩壊でチームBの連携を断ち切り、第3形態の【宝輪】によって相手の唯一の勝ち筋であった反転能力を奪い、支配したことが決定打となった。存在そのものを維持不能にする絶対的な格差により、完勝に至った。