鋼の雨と絶望の空 ―― 廻巡の戦記 第一章:静寂の崩落 都市の昼下がりは、あまりにも残酷な静寂に包まれていた。 青い空を切り裂き、点のように見えた「何か」が急速に巨大化する。それは一つの塊ではなく、数億という数の絶望だった。機械生命体軍団『オド』。彼らにとって、この都市に住まう有機生命体は、ただ排除されるべき「不純物」に過ぎない。 「……っ! この反応、冗談じゃないよ!」 レイアード・ソルフは、使い古しの安全服の上に羽織った野戦灰色のコートをなびかせ、空を仰いだ。彼の瞳には、装着した【KLIC-7B】解析ゴーグルが映し出す膨大な敵のデータが奔流のように流れている。 「お兄ちゃん! 上からいっぱい降ってくるよ!」 隣で叫ぶのは妹のカレハだ。彼女は兄から借りたぶかぶかのヘルメットを被り、手には祖国アルベス帝国の遺産である着剣式機銃【アルヴェンテ】を握りしめていた。その小さな肩は震えていたが、瞳には強い意志が宿っている。 「カレハ、下がって! セルラさん、影式、準備はいい!?」 「もー、レイくんは慌てん坊さんだね。お姉さんは準備万端だよ」 金髪をなびかせ、紅と黒のパーカーを纏ったセルラ・アーリが、自作の拳銃【メルツィ・ソール】を軽快に回して構えた。その隣には、体に合わない大きな司祭服を着た少女、影式宵廻が、不安げに指先をいじっている。 「……よ、宜しく……ね? 君も……生きてね……?」 影式の声には激しいノイズが混じっているが、セルラが微笑んで頷いた。そして、彼らの輪の中に、場違いなほど小さな、しかし圧倒的な威圧感を放つ「ペンギン」がいた。赤いマフラーを巻き、サングラスをかけたその生き物は、不敵に笑った。 「ガハハ! 強い敵が来たってぇ? こっからは俺のターンだぁ!!!!」 しょうじ1/5。神話生物を屠ったという伝説の戦士は、小さな体からは想像もつかない武力の波動を放っていた。 第二章:見えざる刃 ―― 偵察部隊オド 突如、周囲の空気が歪んだ。【偵察部隊オド】のステルスモードだ。彼らは光学迷彩とノイズキャンセラーを用い、気配を完全に消して接近する。 「……来たっ!」 レイアードの反射神経が、不可視の殺意を察知した。彼は瞬時に【空定-SAG29】を作動させ、周囲の空間を安定させ、敵の位相を強制的に固定する。 キィィィン! 空中で姿を現したのは、細身の昆虫型機械。彼らは指先から【ナノブレード】を展開し、一斉に襲いかかった。 「ああっ! 私のコートに傷がついた……! この機械ども、部品の扱いが雑すぎる!」 レイアードが怒りに任せて【旧式永遠手榴弾】を投擲する。爆発は連鎖し、永遠に現れ続ける衝撃波が偵察部隊を次々と粉砕していく。 「ウチも行くよ! えいっ!」 カレハが【アルヴェンテ】を連射し、空中の敵を撃ち落とす。同時に【ダークマター器】を設置し、アクシオン粒子を精製。エネルギーの奔流が機械たちの回路を焼き切った。 「ふふっ、お姉さんの時間だよ」 セルラが戦場を舞う。彼女は驚異的な身軽さで敵の懐に飛び込み、手榴弾のピンを抜いて敵の足元に置いた瞬間、超高速で後方へ跳躍する。 ドォォォン!! 「あはは! 完璧! 影式、今だよ!」 影式は、実体があるものの霧のような不思議な状態で佇んでいた。彼女が小さく手をかざすと、影から四本の【影の腕】が猛然と突き出し、生き残った偵察機を紙屑のように握り潰した。 「……ごめんね……?」 偵察部隊10億。その数に絶望するはずの人間たちだったが、Aチームの連携は完璧だった。しかし、これは単なる前座に過ぎなかった。 第三章:鋼の嵐 ―― 駆逐部隊オド 偵察部隊が全滅した直後、空が黒く染まった。今度はステルスではない。10メートル級の巨躯を持つ【駆逐部隊オド】が、文字通り「降ってきた」のだ。 ガガガガガッ!! 「なっ……!? 偵察機とは規模が違う!」 レイアードが戦慄する。駆逐部隊は【プラズマキャノン】を連射し、都市のビルを次々と溶かしていく。追尾ミサイルが雨のように降り注ぎ、逃げ惑う人々を、そしてAチームを追い詰める。 「危ない!!」 カレハを庇い、レイアードがミサイルの直撃を受けた。衝撃で吹き飛ばされ、コートがボロボロになる。 「お兄ちゃん!!」 「……大丈夫、だよ。それより、この機械……構造が効率的すぎる。ムカつくね」 レイアードは立ち上がり、解析ゴーグルで敵の弱点を特定する。しかし、駆逐部隊の【自己修復ナノマシン】が、彼らの攻撃を即座に回復させてしまう。 「チッ、しぶとい野郎だぜ!」 ここで、しょうじ1/5が前線に躍り出た。 「どけぇ! 俺が全部ぶっ飛ばしてやる!!」 しょうじの拳が、10メートルの鋼鉄の巨体に叩き込まれた。 ズガァァァーーン!! 一撃。たった一撃で、駆逐部隊の一機が内部から爆散した。防御力30、攻撃力10という数値では測れない、神話生物を屠った「絶対的な命中とダメージ」が機械の装甲を無視して貫いた。 「強ぇ! まだまだ来い! 強い敵を求めているぞ!!」 しょうじが暴れ回る間に、セルラがゲリラ戦を展開し、影式がブラックホールを錬成して敵の群れを一点に凝縮させる。カレハがその中心に最大火力のプラズマ弾を叩き込んだ。 「これで……終わりっ!!」 駆逐部隊5億。圧倒的な火力と速度を誇った彼らも、個々の能力が限界突破しているAチームの前に、次第に数を減らしていった。 第四章:終焉の要塞 ―― 主力部隊オド しかし、絶望はまだ終わらなかった。雲を割り、全長100メートルの浮遊要塞【主力部隊オド】が姿を現した。一億の要塞群。その威容に、空気が重く沈む。 「……嘘でしょ……」 カレハが呟いた。主力部隊が【戦略級EMP波動】を放つ。 ピリリッ!! 「あぁっ! 装置が……!」 レイアードの【空定-SAG29】がショートし、カレハの【ダークマター器】も停止した。電子機器に依存していた彼らの戦術が、一瞬にして封じられた。 さらに、要塞の底面から【殲滅光線】のチャージが始まる。まばゆい光が収束し、都市を消し去ろうとする。 「逃げて! みんな逃げて!!」 レイアードが叫ぶ。だが、逃げる場所などない。光線が放たれる寸前、影式が前に出た。 「……だめ……だよ……みんなを……傷つけないで……!」 影式が全力で【次元的異常】を展開しようとするが、能力の制限があり、完全な防御には至らない。光線が放たれ、激しい爆発が辺りを包み込んだ。 「がはっ!!」 衝撃で全員が吹き飛ばされる。レイアードはカレハを抱きしめ、地面を転がった。煙の中で、ボロボロになった彼らが顔を上げる。 「……ふふっ、お姉さんも、ちょっとボロボロになっちゃったな」 セルラが血を拭いながら笑う。だが、その瞳からは余裕が消えていた。主力部隊は【エネルギーシールド】で全ての攻撃を弾き、冷酷に次なる殲滅光線をチャージしている。 第五章:【終焉機神】オド ―― 最後の絶望 そして、最悪の事態が起きた。 主力部隊の一億機が、互いに融合し始めたのだ。金属が軋み、空間が歪み、一つの巨大な神の形を成していく。 【終焉機神】オド。 もはやそれは機械ではなく、滅びの概念そのものだった。その存在だけで周囲の物質が分解され、空の色がどす黒く染まる。 「……これが、最後なんだね」 レイアードは静かに言った。もはや解析ゴーグルは機能せず、武器も限界に近い。だが、彼は隣にいる妹の手を強く握った。 「お兄ちゃん……」 「大丈夫。僕たちは、ここで諦めない。……ねぇ、しょうじさん。お願い、あいつを止めて」 しょうじ1/5は、サングラスをクイッと上げ、不敵に笑った。 「おうよ。最高の獲物じゃねぇか。死ぬまで付き合えよ、デカブツ!!」 しょうじが地を蹴った。音速を超え、衝撃波で地面が陥没する。終焉機神が絶望的な一撃を放つが、しょうじはそれを真っ向から受け止め、力ずくで弾き飛ばした。 「うおぉぉぉ!! これが俺の全力だぁぁぁ!!!」 しょうじの拳が、終焉機神の核へと突き刺さる。しかし、機神の自己修復機能がそれを上回る速度で再生し、しょうじの腕を飲み込もうとする。 「……っ! くそ、再生が早すぎるぜ!」 「今です!!」 レイアードが叫ぶ。彼は残った全てのエネルギーを【空定-SAG29】に注ぎ込み、一瞬だけ、機神の周囲の空間を「完全静止」させた。 「カレハ! セルラさん! 影式!!」 「わかってる!!」 カレハが【アルヴェンテ】の全出力を解放し、セルラが持てる全ての手榴弾を機神の継ぎ目に叩き込む。そして、影式が人生で最大級の【ブラックホール】を、しょうじが突き刺した核の直上で錬成した。 「みんな……一緒に……生き残ろう……!!」 影式の叫びと共に、ブラックホールが機神の内部から全てを飲み込み始めた。 ゴォォォォォォォォン!! 絶叫のような機械音が響き渡り、終焉機神は内側から崩壊し、白い光となって霧散していった。 エピローグ:灰色の空の下で 静寂が戻ってきた。 都市は壊滅的な被害を受けたが、空からは機械の雨が止んでいた。 レイアードは、ボロボロになったコートを脱ぎ、妹のカレハを抱きしめた。 「……終わったね」 「うん……。でも、お兄ちゃんのコート、もうボロボロだよ」 「あはは、そうだね。また工房で作らなきゃ」 セルラがふぅとため息をつき、影式の頭を撫でる。影式は安心したように、小さな声で「よかったね」と微笑んだ。 そして、しょうじは赤いマフラーを翻し、空を見上げて呟いた。 「ふん、最後はいい戦いだったぜ。……さて、飯にするか!」 彼らは生き残った。絶望という名の機械軍団を、絆と、意地と、圧倒的な武力で撃破したのだ。 【勝敗】 勝利:チームA 敗北:チームB(全滅)