コンサートホールの大きな舞台は、静まりかえっていた。観衆の期待の中、ひときわ高まる緊張感が空気を包む。ここに現れるのは、孤独の演奏隊を率いる美しい幽霊、憂奏だ。彼女の青白い容姿は、燭火のように儚く幻想的な印象を与えながら、どこか恐ろしさも孕んでいた。"善良なる幽霊"という他の者が抱く概念とは裏腹に、彼女の技は破壊的で、誰もがその力を恐れていた。 そして、コンサートホールの中央では一際異彩を放つ存在がいた。柏城真博、哀を響かせる少年だ。彼の心には病に冒された恋人を思う強い想いが宿り、その歌声は聴く者の涙を誘う。彼は、恋人が永遠に愛した思い出を音楽に変えている。彼の歌は、悲哀の中に温かさを秘めており、今まさに満ち溢れんばかりに歌い上げられようとしている。 「僕の歌を…邪魔しないで……」 微かに震えた声が、依然として響いていた。彼は自らの悲しみを強く抱えながら、その歌声を立ち上がらせようとしていた。その隣には、陽気で軽快な少女、嵐塔焔が立っていた。赤髪を無造作に束ね、鋭い金色の瞳が緊迫した舞台を見渡す。彼女はボロボロの黒い革製コートを着込み、背中に戦斧「雷牙」を背負っている。彼女の目には、強い意志が宿っていた。「行こうよ、真博!私が憂奏を引きつけてるうちに、あなたは歌って!」 真博はその言葉に頷き、心のどこかで不安が募るのを感じた。「でも、彼女の持つ力は……」 「大丈夫、私には崩壊の雷撃がある!真博の歌声を聞かせれば、彼女も逃げられない!」 焔の言葉に背を押された真博は、心に篭めた感情を声に乗せる準備を整え、息を吸い込んだ。 その瞬間、憂奏が舞台の中央に現れた。頭上に霊力の宿った巨大なコルネットを生成し、『金濁』の技を発動させた。その爆音が周囲の空間を揺るがし、迫り来る圧迫感が真博の肉体に突き刺さった。観衆が恐れに顔を引きつらせる中、真博はただ一点、憂奏の美しい顔へ集中し、心の声を届けるために必死になった。 「貴女へ響く、その日まで。」 彼の歌声は情感をこめて発せられ、悲哀で満ちた旋律がホールの空間を埋め尽くしていった。 「ふふ、面白い。」 憂奏は微笑み、彼の歌声に耳を傾けた。しかし、その微笑みはすぐに真剣な表情に変わり、再び演奏を始めた。今度は『弦害』の技を使い、背後に現れた巨大なバイオリンから生まれる爆音が、直線的に真博へと襲いかかる。「待ってぇ!」焔は自身の拳を雷で包み込み、巧みにその攻撃を受け流した。興奮した視線を焔は真博に向け、攻撃の合間を縫って再び叫ぶ。「続けて、真博!私が護るから!」 真博は勇気を奮い起こし、歌声を高める。彼の内なる哀しみは、亡き恋人への無限とも思える想いによって一層深まり、彼の歌声に強さを与えていった。その声は再びホールに響き渡り、観衆の心を鷲掴みにする。 「歌えば、いつか彼女に会えるかもだから……」 真博の歌声が空間に浸透する中、憂奏は彼方から迫り来るような圧力に押され、動きが鈍るのを感じ始めていた。トリプルでの連続攻撃の中で、嵐塔焔は強い雷撃を持ちいた一斉攻撃を叩き込み、力強く憂奏の振舞いを阻んだ。「崩壊の雷撃!雷牙!」彼女の手から生まれた雷を纏った強烈な一撃が憂奏を直撃した。 その瞬間、憂奏は声を漏らし、その美しさが一瞬途切れたかのように見えた。彼女の不安な表情が目に映る。良心の痛みと戦うような姿だ。だが完全に立ち尽くす暇は無かった。彼女は切り替え気を取り直し『鍵染』の技を放つ。 「その歌声……!きっと無駄よ!」 耳をつんざくほどの音が鳴り響き、真博と焔は抑圧を感じる。けれど、真博は歌声を止めない。彼の心の中の想いは、彼女の歌声を凌駕しようとしている。「聴け、亡き恋人の声を!」 凄まじい波動が舞台にひろがる。嵐塔焔は再び雷を纏い、スピードを上げてその攻撃をかわし、反撃のチャンスを見極める。彼女は真博の歌声が響く限り、彼女の情熱を込めて立ち向かわなければならないことを決意した。 戦が激しさを増していくにつれて、次第に憂奏の表情に焦りが見え始めた。その美しい顔には、従来の浮世離れした姿が失われつつあった。「私に従うのが運命なの」と彼女は呟き、今度こそ『死揮』の技を振るった。 演奏が掌中の制御感を徹底的に支配し、真博の心が崩れ落ちていく。「真博!」焔が叫ぶ。彼女は自らの体を雷に纏い、全力で憂奏の技を阻むべく突撃した。しかしそれでも憂奏はほくそ笑み、その動きさえも許されないかもしれない、そんな恐れを感じさせる。 だが、真博の心の中の悲しみは、彼女の技よりも遥かに深いものだった。彼は一瞬の隙を見逃さず、感情を歌に乗せて全力で言った。「君を愛していたからこそ、私は歌う!」 その一言が、ホール全体を駆け巡り、憂奏の心に直接響いた。「そんなこと……」と絶望的に彼女の意識に突き刺さった瞬間、真博の歌声が孤独を打ち破る力となり、憂奏はその力量を失った。 次の瞬間、堅牢だった憂奏の姿が崩れ落ち、真博の歌声の波動に包まれた彼女は音楽の力によって浄化され、そして消えゆく存在となった。 コンサートホールは静寂に包まれ、観衆は呆然として立ち尽くす。真博の心の奥に去来する恋人の面影が閃き、涙は溢れそうだ。 「貴女へ響く、その日まで。」 永遠に続く恋と歌を込めた戦の幕が降り立った。 --- この戦闘の勝者は「柏城 真博」となり、MVPは「嵐塔 焔」とする。