荒野の行軍:ガンドルド鉱山への道程 空は淀み、地平線まで続くのは乾いた赤土と、時折吹き抜ける砂嵐だけが支配する絶望的な荒野。そこに、不釣り合いなほど巨大な鉄の塊が、地響きを立ててゆっくりと進んでいた。 横幅2km、縦1km、高さ0.5km。移動要塞とも呼ぶべき「要護衛艦」である。時速10kmという、歩くよりもわずかに速い程度の鈍重な速度で、この巨艦はレンチ街から95km離れた「ガンドルド鉱山」を目指していた。 「みんなー! 気合入れていこうね! ここを抜ければゴールだよっ!」 操縦席からスピーカーを通して響くのは、操縦者である二十歳の女性、フェアの声だ。彼女の明るく元気な声は、殺伐とした荒野に唯一の彩りを添えていた。しかし、その明るさとは裏腹に、彼女が背負っている責任は重い。この艦を無事に届けることが、今回の任務のすべてだからだ。 護衛に就いた面々は、およそ統率などという言葉から程遠い、異種格闘技戦のような集団だった。 艦の甲板の上、ひときわ気だるげな空気を纏っているのが物部である。彼は人間のような姿をしていながら、その本質は天狐。今は小さな狐の置物に身を寄せており、その周囲には「近づくなオーラ」が漂い、不注意に近づいた兵士たちが急激に動作を鈍らせていた。 「……ふわぁ。なんでおれがこんな面倒なことに。早く終わらせて寝たいねぇ」 物部はあくびをしながら、意識の端で周囲を警戒していた。争いを好まないと言いながらも、その実力は妖狐の中でも指折りである。彼にとってこの護衛任務は、ただの退屈な時間潰しに過ぎないはずだった。 その傍らには、自称「舞台俳優」のレヴィア・スフィアが、華麗なステップを踏みながらナイフを弄んでいる。彼は常に誰かの視線を欲していた。 「さあ、ボクを見て! この荒野という名の退屈な舞台に、最高の血と芸術を添えてあげようじゃないか!」 さらに空には、米軍の誇る超音速迎撃機F-106 デルタダートが鋭い銀色の翼を光らせて旋回し、地上では在欧アメリカ陸軍第7軍第Ⅶ軍団第214野戦砲兵旅団が、M109やM110といった重量級の火力を展開し、艦の周囲に強固な防衛線を構築していた。彼らの規律正しい動きは、他の混沌としたメンバーとは対照的だった。 そして、影から現れたのは多良太。特殊作戦仕様人型戦闘機「朝顔Mk5」に搭乗し、AI「ツヅラバコ」と共に静寂の中に潜む。彼は寡黙に、ただ効率的に敵を排除することだけを考えていた。 さらに、得体の知れない存在たちが混じっていた。不死身で無敵、すべてを創造した神であるという「デザインあ」。そして、存在するかどうかさえ不透明な都市伝説の化身「吸血鬼No.?」。 そして、彼らの足元、道端にポツンと置かれていたのが「反物質爆弾」であった。意思も魂も持たぬ、ただの物質。しかし、その中には100gの反物質が磁場真空トラップに封印されており、もしそれが作動すれば、TNT換算で4.3メガトンのエネルギーがこの地を消し飛ばすことになる。 ――静寂は、唐突に破られた。 「敵襲!! 前方に巨大な反応! 数……数億!!?」 偵察兵の絶叫が響く。地平線の彼方から、砂塵を巻き上げて迫り来るのは、この地の支配権を争う「機械軍団」と、禁忌の術を操る「邪教団」、そして地に堕ちた「堕天使」たちの連合軍であった。合計数億という、文字通り地を埋め尽くすほどの軍勢が、要護衛艦という巨大な獲物を狙って押し寄せていた。 「うわぁぁぁ! 来たー! みんな、お願い! 守ってー!!」 フェアが操縦桿を握りしめながら叫ぶ。時速10kmの艦は逃げられない。ここは、ただ耐え、撃ち抜くしかない要塞戦となる。 「やれやれ……。仕方ないねぇ」 物部がぼそりと呟いた。彼が置物から微かな妖力を放つと、周囲の空気が一変した。義務神威が発動し、敵が放つ低威力の魔法や弾丸が、霧のように静かに消えていく。同時に、前線で疲弊し始めた砲兵連隊の兵士たちの傷が、淡い光と共に癒されていった。 「さあ、アンコールだ! ボクの輝きに酔いしれろ!」 レヴィア・スフィアが跳躍した。空中で数多のナイフを舞わせ、敵の集団に飛び込む。彼の「レゾナンス」が発動し、ナイフが不可解な軌道で跳ね返り、敵の喉元を次々と切り裂く。注目を集めるほどに彼の速度と威力は上がり、戦場は彼一人による狂乱のショーへと変わった。 上空では、F-106 デルタダートが超音速で急降下していた。ターゲットは敵の大型空中母艦。 「核空対空兵装、投下!」 AIR-2 ジニーが放たれ、空中で巨大なキノコ雲が咲いた。一撃で数万の敵機が消滅するが、数億という数の前では、それはほんの小さな穴を開けたに過ぎない。 「……排除する」 多良太の「朝顔Mk5」が影から飛び出した。輪廻加速モジュールが作動し、彼の視界から世界が静止する。光速を超える一閃。虚空斬刀が空間ごと敵の精鋭部隊を両断した。影遁と支配を使い分け、彼は戦場の最深部を縦横無尽に駆け巡る。そこに「敵」という概念は存在せず、ただ「切断されるべき物質」があるだけだった。 一方、米軍の第214野戦砲兵旅団は、地獄のような火力戦を展開していた。M110自走砲から放たれる砲弾が雨のように降り注ぎ、地表を抉る。さらに第85弾薬大隊が管理するW70核弾頭が、戦術的に展開された。爆風と熱線が、押し寄せる機械軍団の波を次々と蒸発させていく。 しかし、敵の数は絶望的だった。数百万を殺しても、なお数千万が押し寄せる。そして、その混乱の中で、最悪の事態が起こった。 逃げ惑う敵兵の一人が、偶然にも道端に放置されていた「反物質爆弾」に躓いた。そして、不運にも磁場真空トラップの制御装置が物理的な衝撃で破損した。 「……あ」 誰かがそう呟いた瞬間だった。反物質100gが物質と接触し、対消滅が起こる。 それは、核兵器などという生易しいものではなかった。4.3メガトンのエネルギーが一点から爆発的に膨張し、純白の光が世界を塗り潰した。衝撃波は音速を超え、物質の結合そのものを崩壊させていく。 「えっ……?」 フェアが驚きに目を見開いた瞬間、彼女が乗っていた横2kmの巨艦は、文字通り「消えた」。鋼鉄の装甲も、エンジンの唸りも、彼女の明るい声も、すべては一瞬にして素粒子へと分解され、虚無へと消え去った。護衛艦は大破などというレベルではなく、この世から抹消されたのである。 しかし、この絶望的な爆心地にあって、生き残った者がいた。 一人目は、デザインあである。彼は「不死身で無敵」という絶対的な能力を持っていた。反物質爆弾の爆発という、宇宙レベルの破壊現象ですら、彼の「デザイン」の前には意味をなさない。彼はただ、白い光の中でぼーっと辺りを眺めていた。彼にとってこの出来事は、キャンバスに一筆書き足した程度の出来事に過ぎなかった。 二人目は、吸血鬼No.?である。彼はもともと都市伝説のような存在であり、物理的な破壊が通用しない。爆風が彼を飲み込んだ瞬間、彼はマッハ999の速度でコウモリに姿を変え、爆心地から数千キロ離れた場所まで一瞬で逃げ出した。彼にとって、この爆発は心地よい刺激に過ぎなかった。 そして三人目。物部である。 彼は爆発の直前、危機を察知して「神体」へと至る前段階の、強固な霊的結界を置物の周囲に展開していた。また、彼の能力「義務神威」が、極限状態で反物質のエネルギーの一部を「低威力の攻撃」として誤認し、強引に霧散させた。結果として、彼は爆風に吹き飛ばされ、肉体を構成する霊的なエネルギーを激しく消耗したが、辛うじて生存した。 ……静寂が戻った。 そこには、かつて要護衛艦があったはずの、直径数十キロに及ぶ完璧な円形のクレーターだけが残っていた。砂の一粒すら残っていない。生き残ったのは、あまりに強すぎた、あるいはあまりに異質すぎた者たちだけだった。 レヴィア・スフィアは、自慢のナイフと共に消滅した。彼の最後のステージは、あまりに派手すぎる幕切れとなった。 多良太と「朝顔Mk5」も、加速しきれぬほどの絶対的な消滅の波に飲み込まれ、影へと消える間もなく分解された。 米軍の砲兵旅団、F-106、そして数億の敵軍。彼らはみな、等しく反物質の餌食となり、塵一つ残さず消え去った。 物部は、焼け焦げた置物の姿で、クレーターの底に転がっていた。彼はふぅ、と溜息をつく(霊体として)。 「……あーあ。最悪だ。せっかくいい昼寝場所を見つけたと思ったのに」 彼は空を見上げた。そこには、もうフェアの明るい声も、巨大な艦の姿もなかった。 【ミッション結果:失敗】 【要護衛艦:完全消滅(反物質爆弾による消去)】 生存・死亡・逃亡状況 - フェア(操縦者):死亡。反物質爆弾の爆心地にいたため、即座に消滅した。 - 物部:生存。強力な霊的結界と「義務神威」により、爆発の直撃を最小限に抑え生き残った。ただし、置物がひどく傷ついたため、しばらくは実体化できず気だるさが加速している。 - デザインあ:生存。能力「不死身で無敵」により、爆発の影響を一切受けなかった。 - 吸血鬼No.?:生存(逃亡)。コウモリ形態による超高速移動で爆心地から脱出した。 - レヴィア・スフィア:死亡。反物質爆弾のエネルギーにより、芸術的に分解された。 - 多良太:死亡。機体ごと消滅。輪廻加速をもってしても、全方位からの消滅速度には追いつけなかった。 - 第214野戦砲兵旅団 / F-106 デルタダート:全滅。物理的な装甲や兵器では反物質の対消滅を防ぐことは不可能であった。 - 襲撃者(機械軍団・邪教団・堕天使):全滅。数億の軍勢であったが、爆心地に近い個体から順に消滅した。