空はどす黒い紫に染まり、大地は絶え間ない爆撃によって赤茶けた荒野へと変わり果てていた。ここはある次元の辺境、時空の歪みが激しく、あらゆる世界の残滓が集まる「混沌の境界地」。 そこに、一人の男が降り立っていた。黒い道着に身を包み、片耳に輝くポタラ、そして知的な印象を与える角眼鏡をかけた男――ゴクウブラック、通称「バカロゼ」である。彼はある目的のためにこの地に赴いていたが、運悪くこの地の先住者である正体不明の魔物たちに襲撃されていた。 「ふん……。この私に牙を剥くとは、実に不届きな。この至高の美しさを前にして、恐怖すら抱かぬとは嘆かわしい限りだな」 ナルシストな独り言を漏らしながらも、その動きは洗練されていた。バカロゼは軽やかな身のこなしで魔物の攻撃をかわし、鋭い突きで一体、また一体と沈めていく。しかし、敵の数は底なしだった。 その時である。上空から禍々しい黒い閃光が降り注ぎ、バカロゼの周囲にいた魔物たちを一瞬で消し飛ばした。 「――チッ、どいつもこいつも目障りな。この地のゴミ掃除をさせられるとは、不愉快極まりないな」 低く、冷酷な声。煙の中から現れたのは、バカロゼと酷似していながら、決定的に異なる雰囲気を纏ったもう一人の「ゴクウブラック」だった。薔薇色の髪を逆立たせ、胸には禍々しい結晶が埋め込まれている。さらに左半身はどろりとした黒い闇に侵食されており、そこから溢れ出す気は純粋な悪意そのものだった。 バカロゼは即座に身構え、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。相手の正体は分からないが、自分と同じ姿、同じ気。しかし、その精神性はあまりに凶悪だ。 「ほう……。私に似た者がいるとは驚いた。だが、その趣味の悪い色使いはどうだ。左半身だけ黒いとは、なんともアンバランスな格好をしているな」 「……貴様か。私に似せて自分を飾る不届き者がいたとはな。その眼鏡、そしてその余裕……反吐が出る。今すぐここで、その身ごと断罪してやろう」 互いに警戒し、一触即発の空気が流れる。互いの気がぶつかり合い、周囲の岩石が共鳴して砕け散った。どちらが先に動くか。探り合いの静寂が支配したその瞬間――。 大地が激しく揺れた。地割れと共に、地底から巨大な異形が出現した。それは、この次元の守護者でありながら、暴走して全てを喰らう化け物「虚無の暴君」であった。身体は山のように巨大で、皮膚はダイヤモンドよりも硬い黒い鱗に覆われ、口からは次元を崩壊させるほどの高密度エネルギー弾を絶え間なく吐き出している。 「グガアアアアアッ!!!」 暴君の咆哮一つで、周囲の山々が消し飛んだ。二人のブラックは同時に空へ飛び上がり、互いに顔を見合わせた。 「ふむ。どうやら貴様も、あの大塊(かたまり)を狙っていたようだな」 「……認めん。だが、あのような醜悪な化け物がこの場を支配しているのは我慢ならん。効率的に処理したい」 バカロゼは不敵に笑い、薔薇色のオーラを緩やかに纏わせた。 「それなら今は、力を合わせるだけだな。私の至高の戦いぶりを特等席で見せてやろう。ついてこられるか、黒い方」 「口を動かす暇があるなら、その身で道を拓け。……行くぞ!」 二人のブラックが同時に加速した。速度は音速を遥かに超え、空に二条の光跡が走る。 先陣を切ったのは、極悪化したブラックだった。彼は瞬時に手に宿した気を凝縮させ、巨大な「大鎌」へと変貌させる。その刃は空間さえも切り裂く鋭さを持ち、暴君の硬い鱗を真っ向から切り裂いた。 「無駄だ……!」 暴君が太い腕を振り下ろすが、ブラックは大鎌を高速回転させ、盾のようにして攻撃を防ぐ。火花が激しく散り、衝撃波が大地を抉るが、彼はそのままの勢いで突進し、暴君の腹部を深く切り裂いた。 「フハハハ! 逃げても無駄だ……!」 ブラックは暴君の巨体を強引に掴み、地面へと叩きつける。凄まじい衝撃音が響き、暴君が呻く隙に大鎌を何度も、機械的な速度で振り下ろした。肉を断ち、骨を砕く鈍い音が連続して鳴り響く。 「いい連携だな! だが、ここからは私の独壇場だ!」 空からバカロゼが舞い降りた。彼はあえて暴君が放ったエネルギー弾の直撃を正面から受け止めた。爆煙が上がり、周囲が真っ白に染まる。 「なっ……!? 貴様、わざと食らったのか!?」 驚愕するブラックだったが、煙の中から聞こえてきたのは、勝ち誇ったような笑い声だった。 「フフ……力が高まる! この衝撃、この熱量……全ては私の糧となるのだよ!」 バカロゼの周囲に、これまで以上の濃密な薔薇色のオーラが渦巻く。彼は「ユニフラの真価」を発揮し、受けたダメージをそのまま爆発的な戦闘力へと変換させていた。その姿は、もはや神々しいまでの輝きを放っている。 「はあぁぁーーーー!!」 叫びと共に、バカロゼは超サイヤ人ロゼへと変身した。逆立つ薔薇色の髪が激しく揺れ、神の気が暴君を圧迫する。彼は高速で暴君の懐に潜り込むと、超至近距離からの連続打撃を叩き込んだ。 ドッ! バキッ! ゴッ!! 「不届き者め……!!」 空いた左手で極大の気弾を瞬時に形成し、それを至近距離から暴君の顔面に叩きつける。大爆発が暴君の視界を奪い、体勢を崩させた。 「今のうちにだ! 合わせろ!」 ブラックが叫ぶ。彼は瞬間移動で暴君の背後へ回り込み、大鎌を最大まで振りかぶった。 「断罪する!!」 鋭い一閃。暴君の足を切り裂き、そのまま上へと切り上げる。暴君の巨体が宙に舞った瞬間、ブラックは再び瞬間移動で真上に回り込み、凄まじい速度で真下に切りつけた。十字に切り裂かれた暴君が、絶叫と共に地面に激突する。 「仕上げだ、黒い方!」 バカロゼが空高く舞い上がり、右足を高く上げた。その脚には凝縮された薔薇色の気が集結している。 「お別れだ……!」 強烈な飛び蹴りが暴君の胸部に突き刺さり、衝撃で地面に巨大なクレーターが形成された。だが、バカロゼは止まらない。着地と同時に両手を突き出し、赤黒い極太のかめはめ波を至近距離から放った。 「絶望に沈めッ!!」 波が暴君を飲み込もうとした瞬間、バカロゼはさらに気で大鎌を形成。かめはめ波の奔流の中で、暴君を連続してぶった切り、次元の裂け目へと強引に押し込もうとする。 しかし、暴君も最後の一撃を繰り出した。全身から黒いエネルギーを放出させ、周囲の全てを消し飛ばそうとする自爆に近い攻撃。だが、それを待っていたのは極悪化したブラックだった。 「貴様の醜い足掻きなど、ここで終わらせてやる」 ブラックは真上に瞬間移動し、空を覆い尽くさんばかりの禍々しい極大エネルギー弾を形成した。その色は漆黒と紫が混ざり合い、見る者に死の予感を与える。 「絶望するがいい……この力にッ!!!!」 天空から降り注いだ極大のエネルギー弾が、バカロゼの追い込んだ暴君を直撃した。次元の裂け目と共に、暴君の身体は内部から崩壊し、光の粒子となって消滅していく。爆風が吹き荒れ、辺りは再び静寂に包まれた。 煙が晴れ、二人のブラックが対峙する。どちらも激しい戦いで道着は汚れ、息は上がっていたが、その眼光は鋭いままだった。 バカロゼはふっと息を吐き、眼鏡を直しながら、いつものナルシストな笑みを浮かべた。 「ふむ。まあまあ、合格点といったところか。私のサポートがあってこそ、貴様の攻撃も活きたというものだ」 「……ふん。誰がサポートなどと言った。貴様の無駄に派手な動きに付き合わせただけだ」 口では言い合いながらも、二人の間には奇妙な共闘感があった。同じ肉体、同じ名、しかし正反対の方向へと突き抜けた「神」の在り方。 「さて、目的の獲物は片付いた。次はどちらが先にこの次元から脱出するか、競争といこうか」 「ふん、勝負だ。遅れた方は、その眼鏡を叩き割ってやろう」 「なんて野蛮な! だが、その挑戦受けて立とう!」 二人の薔薇色の閃光が、同時に空へと駆け上がった。後に残されたのは、完全に消滅した暴君の跡と、神々の戦いによって抉られた大地だけだった。