黄金の都の如き静寂が支配する虚無の空間。そこに、至高の輝きを纏った一人の男が降り立った。金色の鎧を煌めかせ、紅い瞳に絶対的な傲慢さを宿した男――【人類最古の英雄王】ギルガメッシュである。彼は天翔ける王の御座に腰掛け、退屈そうに顎に手を当てて眼下に広がる「雑種」共を見下ろしていた。 対峙するのは、異形の姿をした呪いの王・両面宿儺。己の拳のみに矜持をかける喧嘩屋・ステゴロのザン。そして、なぜかキュウリを大切そうに抱えた妖精の少女・キュウイ。あまりにも不揃いな三人組に、ギルガメッシュの口角が嘲笑的に吊り上がった。 「……ふん。どのような道化が我が前に集ったかと思えば、呪い付きの化物に、脳まで筋肉の野蛮人、そして……キュウリを抱えた羽虫か。笑わせるな。貴様らが我が庭に足を踏み入れたこと自体、万死に値するぞ」 その声は冷徹でありながら、抗い難いカリスマを帯びて空間を震わせる。だが、対する両面宿儺は不敵な笑みを浮かべ、四本の腕を組みながら言い放った。 「口の減らぬ小僧だ。黄金の鎧など着飾って、中身はどうだ? 絶望に染まる顔が見てみたいものだな」 ザンが拳を打ち鳴らし、キュウイが不安そうにキュウリを握りしめる。開戦の火蓋は、英雄王の気まぐれな一撃によって切られた。 「まずは掃除だ。消えろ、雑種」 ギルガメッシュの背後に、黄金の波紋が無数に展開される。宝物庫【王の財宝】。そこから射出されたのは、神剣、魔剣、聖槍――数多の伝説的な武器の雨であった。音速を超える高速の弾丸となって降り注ぐ宝具の嵐に、戦場は瞬時に黄金の死地へと変貌する。 「甘いな!」 ザンが咆哮し、その肉体で正面から武器の雨に飛び込む。武器を持たぬ者の矜持【流儀に殉ずる】により、その身体能力は極限まで引き上げられていた。降り注ぐ剣を拳で弾き飛ばし、あるいは肉体で受け止めながら、彼は猛烈な勢いで間合いを詰める。攻撃を受けるたびに【ヒートアップ】し、その拳に宿る熱量は増していく。 一方、宿儺は冷徹に状況を分析していた。彼は指先一つを動かし、不可視の斬撃《解》を放つ。空を切り裂く斬撃がギルガメッシュの首を狙うが、王は眉一つ動かさない。彼の【全知なるや全能の星】が、斬撃の軌道と意図を完璧に予読していたからだ。 「見え見えよ。貴様の稚拙な術式など、我が眼の前では止まっているも同然だ」 ギルガメッシュは軽く指を弾く。すると、空間に現れた小さな盾が宿儺の斬撃を完璧に弾き返した。あらゆる事象への対抗手段を持つ王の財宝にとって、単なる斬撃など対処法がいくらでも存在する。 「キュウリ! キュウリ投げー!」 後方からキュウイが叫び、魔法のキュウリを投げつける。それがザンと宿儺の身体に当たり、驚異的な回復力をもたらした。戦況は膠着しているように見えたが、ギルガメッシュの余裕は崩れない。むしろ、この遊戯を楽しんでいるかのようだった。 「ほう、回復手段を持つか。だが、その程度の小細工で王の理を覆せるとでも思うか」 ギルガメッシュが空中に手をかざすと、黄金の鎖が展開された。【天の鎖】。神性を縛り付ける絶対拘束の鎖が、宿儺の四本の腕と、突撃してくるザンの四肢を同時に捉える。特に、呪いの王としての格を持つ宿儺にとって、この鎖の拘束力は致命的だった。 「なっ……!? 体が動かん……!」 「がはっ! クソッ、この鎖……!!」 拘束された隙に、ギルガメッシュは冷酷に微笑む。彼は手の中に一本の剣を顕現させた。それは黄金の輝きを放つが、同時にすべてを焼き尽くす破壊の権能を宿した【原罪】。選定の剣の原典たるその剣が、空間に白い光の渦を巻き起こす。 「消し飛べ。塵一つ残さずにな」 猛烈な光の渦が三人へと襲いかかる。ザンは【天上天下唯我独尊】を放とうと、命を賭した拳を振り絞る。拘束を強引に引きちぎり、光の渦へとその拳を叩き込んだ。絶大な衝撃波が走り、光の渦を一時的に押し戻す。しかし、それは単なる時間稼ぎに過ぎなかった。 宿儺が狂気的な笑みを浮かべ、印を組む。 「領域展開――『伏魔御厨子』」 外殻を持たぬ特異な領域が展開され、周囲のすべてを切り刻む必中の斬撃がギルガメッシュを襲う。同時に、領域の効果によりギルガメッシュの能力の一つを封印しようと試みた。しかし、王はただ鼻で笑った。 「領域だと? 空間を支配したつもりか。滑稽よな。この世のすべては我が所有物。貴様の庭など、我が財宝庫の片隅にも及ばぬ」 ギルガメッシュの【全知なるや全能の星】が、領域の構造を瞬時に解析し、その矛盾を突き抜ける。彼は【王の財宝】から、魔法無効化の短剣と、あらゆる干渉を拒絶する伝説の盾を同時に展開。必中斬撃の嵐を最小限の動作で遮断し、領域の中心に立つ宿儺の眼前に、音もなく現れた。 「終わりだ、雑種共。貴様らの足掻きは十分に見届けた」 ギルガメッシュの手に握られていたのは、もはや【原罪】ではない。空間そのものが歪み、次元が悲鳴を上げるほどの絶対的な圧力を放つ、黒と赤の剣。最強の宝具、【乖離剣エア】である。 宿儺は直感した。これは「斬撃」ではない。世界そのものを「切り離す」事象の崩壊であると。ザンは絶望的な状況に、それでも最高の笑みを浮かべて拳を構えた。キュウイは怖くなってキュウリをぎゅっと抱きしめた。 ギルガメッシュが静かに、しかし空間を震わせる威厳を持って詠唱を始める。 「原子は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。死して拝せよ!」 その瞬間、世界が真っ二つに裂けた。 「『天地乖離す開闢の星』!!」 回避不能。防御不能。概念さえも断ち切る絶対の一撃。紅い閃光がすべてを飲み込み、宿儺の領域も、ザンの矜持も、キュウイのキュウリも、すべてを等しく無へと帰した。爆風さえも起きない。ただ、そこにあった「存在」が、世界から切り離されて消滅したのである。 静寂が戻った空間に、ギルガメッシュだけが悠然と佇んでいた。彼は手にした剣を宝物庫へと戻すと、退屈そうに溜息をつき、天を仰いだ。 「たわけ。我は最古の英雄ぞ。はなから貴様に勝てる道理なぞない」 王は再び御座に深く腰掛け、黄金の輝きと共に、静かに戦場を去っていった。そこには、もはや誰の足跡も残っていなかった。 勝者:ギルガメッシュ