宇宙旅行艦S4:四日間の記録報告書 【基本データ】 場所: 宇宙旅行艦S4(全長27,000km / 全高13,500km / 全幅44,000km) 期間: 宇宙暦 某年 1月1日 ~ 1月4日 犠牲者: 0名(軽傷者数名) 隠蔽事項: なし(サイバーユニバースコーポレーション規定に基づき全記録を公開) --- 【プロローグ:巨大なる方舟への乗船】 サイバーユニバースコーポレーションが誇る超巨大宇宙旅行艦「S4」。その規模はもはや一つの惑星に近い。白と灰色の外装に山吹色のラインが走るこの巨艦には、数千万から数十億の旅行客が詰め込まれ、贅を尽くした空間が広がっている。 そこに、あまりにも個性の強い「チームA」の面々が乗船した。高慢な宇宙神を自称する少女、正体不明の契約生物、ノイズに包まれた司祭服の少女とその後ろ盾となる美女、常識外の釣り人、そして感情を共有する機械仕掛けの双子。彼らはそれぞれ異なる目的でこの船に乗り込んだが、彼らを案内することになったのは、チームBのアルツェムタとレトである。 --- 【一日目:混沌のチェックイン】 AM 10:00 - 案内デッキ チームBのアルツェムタは、緊張した面持ちでゲストを待っていた。彼女は元宇宙機動軍の伝説的指揮官でありながら、現在は案内スタッフとして、そのお淑やかさと(時折出る)ドジっぷりで周囲を和ませている。その後ろでは、彼女を心酔するレトが、ノンゲッツォス(撮影機器)を構え、アルツェムタの横顔を猛烈な速度で連写していた。 「えへへ!皆様、ようこそS4へ!私がご案内します、アルツェムタです!」 そこに現れたのは、宙に浮いたプラズマガンを構えるゼリュナだった。 「ふんっ!案内なんて必要ないわよ。ワタシは宇宙“神”なんだから、この船の主を呼びなさい!」 アルツェムタは困り顔で「ええっと、主(社長)の方は今お忙しくて……」とたどたどしく答える。その横でレトが、ゼリュナを鋭い視線で睨みつけた。レトにとって、アルツェムタに馴れ馴れしく、あるいは不敬な態度を取る者はすべて「排除対象」である。 PM 02:00 - 居住エリア・コリドー 移動中、不測の事態が発生した。床に落ちていた小さな「❌印のバッジ」を、偶然通りかかった一般客が踏んだのだ。 パッ! 派手な紙吹雪と共に、「ネコは契約を結びます魔法の女の子」が現れた。流暢な口調で、しかし内容は極めて悪質な契約書を提示し、パニックになる客に「今なら初回限定、格安で魔法少女になれますよ」と勧誘を始める。 「ちょっと!ここで商売しちゃダメよ!」 セルラが割って入る。彼女は影式を連れているが、今の影式は能力没収状態で、もこもことした司祭服に身を包み、「……よ…宜しく…ね…?」と小さく呟きながらセルラの服の裾を掴んでいた。 ネコはにやりと笑い、クレジットカード登録フォームを提示した。サイバーユニバース社の強固なファイアウォールを軽々と貫通し、船内ネットワークに「魔法少女・割賦販売プラン」の広告を大量送信し始める。アルツェムタは慌てて「あわわわ!ネットワークが!」と右往左往し、挙句に自分の足に躓いて転んだ。 「教官!!」 レトが即座に反応し、転倒したアルツェムタを完璧なキャッチで支える。その瞬間、レトの瞳に冷徹な光が宿った。彼女はツェンデッタ(狙撃銃)を抜き、ネコの足元を正確に撃ち抜いた。弾丸は装甲をかすめ、ネコを物理的に弾き飛ばした。 「案内スタッフの業務を妨害する不純物は、排除します」 ネコは消滅したが、直後に別の場所から別個体が湧き出していた。この「契約生物」のしつこさは、S4の警備員たちにとっても頭痛の種となる予感を漂わせていた。 PM 08:00 - ディナータイム チームAとBは豪華なレストランで食事を共にした。レルとノルは、食事を必要としない機械であるため、お互いの同期状態を確認し合っていた。 「ノル機、栄養剤の充填は完了しましたか」 「うん…レル姉…自機も…大丈夫…」 ゼリュナは最高級のスイーツを頬張りながら、「この船、まあまあね!ワタシの宮殿よりは狭いけど!」と高笑いしていた。一方、影式はノイズ混じりの声で何かを呟いており、それをセルラが「『お菓子がおいしいね』って言ってるよ」と笑顔で翻訳していた。 --- 【二日目:禁断の釣り場と静かなる侵食】 AM 05:00 - 船体外縁・メンテナンスデッキ S4は巨大すぎるため、内部に擬似的な海域や環境ドームが多数存在する。その中でも、特に波が荒く「立ち入り禁止」となっている人工海洋エリアに、ある男がいた。「迷惑釣り人」である。 彼は警備員が設置したフェンスを、まるで自宅の門のように軽々とよじ登り、不法侵入。さらに、あらかじめ流通させていた「合鍵」を使い、管理区域の奥深くまで侵入していた。彼は堤防の先端にバケツを置き、オーラを放って他の客を寄せ付けない。 「ここは……いい場所だ」 彼は禁じられた区域でエギングを開始した。本来なら警備員に即座に拘束されるはずだが、彼の放つ「人を寄せ付けないオーラ」が、警備員の巡回ルートを無意識に回避させていた。結果として、彼は誰にも邪魔されずに釣りを楽しむという快挙を成し遂げた。 PM 01:00 - ショッピングモール・エリア 一方、ゼリュナは退屈していた。彼女はプラズマガンを弄びながら、店の商品を「神の視点」で品定めしていたが、店員に「武器の持ち込み禁止」を注意された。 「なっ!?ワタシに指図するの!?このプラズマガンは装飾品よ!いいから黙って最高のドレスを出しなさい!」 生意気な態度に店員が困惑していると、背後からレトが現れた。レトはアルツェムタが別の客に道案内をしている隙に、密かにゼリュナを監視していた。 「……教官の案内を無視して騒ぐのは、感心しませんね」 レトの冷たい声に、ゼリュナは顔を赤くして怒った。しかし、そこで再び「ネコ」が現れた。今度は店員の個人情報を抜き取り、勝手に「魔法少女・店長プラン」を契約させようとしていた。 「また貴様か!」 セルラが割り込み、手榴弾のピンを抜いてネコの目の前に投げ込み、コンマ一秒で後方に跳躍する。爆風と共にネコが吹き飛ぶが、同時に店内の高級ショーケースが砕け散った。 「あわわわ!ごめんなさい!私がもっとしっかり案内していれば!」 駆けつけたアルツェムタが、慌てて謝罪して回る。しかし、その姿を見たレトの心中には、「教官が困っている……原因はあそこにいる不純物(チームA)たちだ」という危うい思考が芽生え始めていた。 PM 06:00 - 休息時間 レルとノルは、船内のセキュリティシステムを密かに解析していた。彼女たちの目的は、この巨大船の構造を把握し、万が一の際の脱出ルートを確保することだ。 「ノル機、この船の脱出ポッドは60個しかありません。乗客数に対して絶望的に不足しています」 「え…?それって…死んじゃう…?」 「いいえ。自機たちが、あなたを守ります」 レルはノルの頭を優しく撫でた。彼女たちの《生存権》というプログラムは、お互いへの強い情愛に基づいた最強の防御本能である。 --- 【三日目:暴走と指揮官の覚醒】 AM 11:00 - 中央コントロールセンター付近 三日目、ついに事件が起きた。「ネコ」の増殖個体が、船内のメインサーバーに不正アクセスし、電子的な「強制契約」を全乗客に送信し始めたのだ。 乗客たちの端末に「【重要】魔法少女への昇格案内。承諾しない場合は違約金100兆クレジットを請求します」という通知が届く。パニックに陥った数百万の乗客が、サポートセンターに殺到し、船内は一時的な大混乱に陥った。 さらに、ゼリュナがこの混乱に乗じて、「この混乱はワタシが演出したのよ!さあ、この船の権限をワタシに渡しなさい!」と、プラズマガンを乱射して警備員を威嚇し始めた。 「もう、いい加減にしてください!」 アルツェムタの口調が変わった。それまでの「えへへ」というドジな案内スタッフの面影は消え、そこにはかつて宇宙機動軍を率いた「鬼指揮官」の威圧感が宿っていた。 「全警備員、配置につけ!第一~第五分隊はパニック化した乗客の誘導、第六~第十分隊はサーバー室の物理的遮断!そして……」 アルツェムタはツェシトルカ(狙拳銃)を構え、迷いなくゼリュナの足元の床を撃ち抜いた。徹甲弾が床を貫通し、衝撃波でゼリュナが尻もちをつく。 「武器の持ち込み禁止、および公務執行妨害。ゼリュナ・ノートゥア、貴様を一時拘束する!」 その圧倒的なカリスマ性と身体能力に、周囲の警備員たちは瞬時に統制を取り戻した。レトは、その「本気」のアルツェムタの姿に心酔し、恍惚とした表情でその様子をノンゲッツォスに収めていた。 PM 03:00 - サーバー室・最終決戦 サーバー室では、物理的な実体を持った「ネコ」の親個体が、ファイアウォールを物理的に書き換えていた。そこに、セルラと影式、そしてレル&ノルが突入する。 「影式、お願い!道を空けて!」 セルラが叫ぶ。能力を没収されているとはいえ、影式は「実体があるが攻撃を受けない」という異常な特性を持っていた。彼女は黒い霧の残痕を纏い、ネコの攻撃をすべて透過させながら前進する。 「……い、いけ……っ!」 影式がネコの注意を引いた隙に、レルとノルが《同時攻撃》を開始。レルがアングラウスで牽制射撃を行い、その死角からノルがアルベスター(振動ナイフ)でネコのコアを正確に貫いた。 「不純物、排除完了」 同時に、セルラが至近距離で手榴弾を起爆させ、ネコのバックアップ個体群をすべて消滅させた。サーバーの復旧は完了し、乗客たちの端末から「偽の請求書」が消え去った。 PM 09:00 - 鎮静化 事件後、アルツェムタは再び元の「ドジな案内スタッフ」に戻っていた。拘束されていたゼリュナに、お詫びとして最高級のケーキセットを差し出し、「ごめんなさいね、ちょっと言い過ぎちゃって!」と笑う。 ゼリュナは「ふんっ!ワタシがわざと合わせてあげただけよ!」と強がっていたが、その顔は少しだけ緩んでいた。 --- 【四日目:旅立ちと残された謎】 AM 10:00 - 出港デッキ 四日間の旅を終え、チームAはS4を降りる準備をしていた。 迷惑釣り人は、最後まで不法侵入していたエリアにバケツを置いたまま、「ここはいい場所だった」と満足げに去っていった。彼が釣った正体不明の宇宙魚が、船内の水槽にひっそりと放置されていたが、それが後の船内生態系に少々の影響を与えたことは、本社に報告されていない(が、隠蔽ではない)。 セルラと影式は、互いの手を繋いでポッドへ向かう。 「影式、次はもっと楽しく旅行しようね」 「……うん……また……一緒に……」 レルとノルは、最後にもう一度だけS4の構造データをバックアップし、静かに離脱した。 PM 12:00 - 送別 アルツェムタとレトが、デッキで彼らを見送っていた。 「皆様、短い間でしたがありがとうございました!またのお越しをお待ちしております!」 アルツェムタが大きく手を振る。その拍子に、彼女は持っていた案内パンフレットを風に飛ばし、「あわわわ!」と追いかける。その様子を、レトは至近距離から、愛に満ちた瞳で撮影し続けていた。 ゼリュナは、ポッドから身を乗り出し、最後に叫んだ。 「いい?次に来る時は、ワタシを船長にしなさいよね!!」 その生意気な声が、広大な宇宙に消えていった。 --- 【最終報告】 - 犠牲者: 0名 - 損害: ショッピングモール内ショーケース一部破損、サーバー一時ダウン(復旧済み) - 特記事項: - 案内スタッフ・アルツェムタの指揮能力により、大規模パニックを最小限に抑えたため、表彰を推奨する。 - レトによるアルツェムタの盗撮・ストーキング行為については、本人の精神的安定に寄与しているため、現状維持とする。 - 宇宙旅行艦S4は、引き続き安全な航海を継続する。 (報告書 完)