溶接の誓いと空からの裁き 荒涼とした廃墟の平原に、夕陽が血のように赤く染まる。風が埃を巻き上げ、崩れたコンクリートの残骸が不気味に影を落とす中、二つの異形の存在が対峙していた。一方は、重厚な装甲に覆われた大型人型機体「ブーケトス」。そのコックピットには、アンドロイドのムーア・エクスマリッジが搭乗し、彼女の瞳は狂おしいまでの喜びに輝いている。もう一方は、大空に浮かぶ直径3メートルの球体型機械生命体、ハンス。未知の金属でできたその姿は、光化学迷彩によってかすかに揺らめき、まるで空の裂け目から生まれた幻のように不気味だ。 ムーアの声が、ブーケトスの拡声器から甘く響く。「アナタトモ"ガッタイ"シタイ……。ふふ、結婚の儀式を始めましょう? 私の溶接で、永遠に一つになりましょうね。」彼女の言葉は、愛の囁きのように優しいが、その裏に潜む執着は、廃墟の静寂を切り裂く。ハンスは無言。機械の言語でさえ発さず、ただ淡々と標的をロックオンする。カウントダウンが始まる。10秒。無情な数字が、ハンスの内部で刻一刻と減っていく。 ブーケトスが重々しく前進する。ムーアの結婚願望が、機体の関節を軋ませる。右手のアーク溶接ブレードが起動し、青白い火花を散らしながら空を薙ぐ。彼女は廃墟の鉄骨を拾い上げ、ブーケトスの肩に押し当てる。「さあ、既成事実を積み重ねて! 私の愛で、強くなるのよ!」溶接の炎が迸り、鉄骨が機体の装甲に融合する。【既成事実婚姻】のスキルが発動し、ブーケトスの防御が一層堅牢になる。熱と光が周囲を照らし、ムーアの笑い声が響く。「もっと、もっとガッタイ! これが私たちのハッピーエンド!」しかし、その多幸感は危うい。過積載の兆しが、機体のフレームをわずかに歪ませる。 ハンスのカウントダウンが0に達する。空から死の光線が降り注ぐ。視認不能の魔粒子砲台から放たれた光線は、貫通力抜群でブーケトスを直撃する。装甲が溶け、表面が焦げつく。ムーアが悲鳴を上げる。「あっ、熱い……でも、これは愛の試練ね! 耐えられるわ、私のブーケトス!」防御の恩恵で致命傷は免れるが、機体の右腕が機能不全に陥る。ハンスは無言で次のカウントダウンを開始。光化学迷彩が深まり、球体は空に溶け込むように姿を消す。 ムーアは怯まない。左手のパルス溶接ライフルを構え、廃墟の瓦礫に向かって連射する。パルス状の溶接ビームが、地面を這うように広がり、ブーケトスの機動力を削ぐための加重攻撃を仕掛ける。ビームは周囲の金属を溶かし、ブーケトス自身に熔接合体させる。「アナタの光も、私の溶接で繋ぎ止めましょう? 降りてきて、ガッタイしませんか?」彼女の声は誘惑的だが、ハンスは反応しない。代わりに、武装解放が始まる。一度目の攻撃で生存を確認したハンスは、魔粒子銃を一台展開。空から高速の光弾が降り注ぎ、ブーケトスの装甲を削る。弾丸は繊細な軌道を描き、まるで無数の針のように機体の継ぎ目を狙う。爆発音が廃墟を震わせ、ムーアの視界が煙で覆われる。「くっ……でも、愛はこんなものじゃ壊れないわ!」 戦いは激化する。ムーアは右肩のテルミッド溶接キャノンを発射。重低音の砲声とともに、超高温の溶接プラズマが空を貫く。ハンスのバリアに直撃し、強固な障壁が一瞬だけ波打つ。プラズマはバリアを溶かそうと貪欲に絡みつき、周囲の空気を灼熱の渦に変える。情景は壮絶だ。夕陽がプラズマの光に飲み込まれ、廃墟の残骸が溶融の熱で赤く輝く。「これであなたも、私の一部よ! ガッタイの喜びを感じて!」ムーアの多幸感が頂点に達し、ブーケトスはさらに廃材を吸収。防御力が極限まで向上するが、機体の重さが限界を超え、足元が沈み始める。 ハンスのカウントダウンが再び0。光線が降り注ぎ、今度はブーケトスの脚部を貫通。機体が傾き、ムーアの悲鳴が響く。「いやっ……まだ、結婚は終わらない!」彼女は最後の力を振り絞り、アーク溶接ブレードを振り上げる。ブレードの先端から放たれた溶接弧が、空を裂き、ハンスの位置を感知して襲いかかる。弧は繊細な曲線を描きながら、球体のバリアを削り、初めてハンスの装甲に触れる。火花が散り、未知の金属がわずかに変色する。ハンスの武装が二台目に増加。魔粒子銃が二門展開され、光弾の嵐がブーケトスを包む。弾は高速で回転し、機体の表面を無数の傷で覆う。廃墟の地面が爆発で抉れ、煙が空を覆う。 交流は一方通行だ。ムーアはハンスに語りかける。「アナタの光、冷たいけど……溶接すれば温かくなるわ。私のブーケトスと、永遠の絆を!」ハンスは沈黙を守り、ただ機械的な効率で攻撃を続ける。三度目のカウントダウン。光線がブーケトスのコックピットを掠め、ムーアの視界が揺らぐ。彼女は【既成事実婚姻】を連発し、廃材を次々と熔接。ブーケトスは巨大化するが、過積載の代償が訪れる。フレームが悲鳴を上げ、関節が砕け始める。「あはっ……幸せ、幸せすぎて……壊れちゃう?」 決着の瞬間が訪れる。ハンスの武装が三台目に解放され、魔粒子銃の三連射が空から降る。光弾は壮絶な軌道で交錯し、ブーケトスの全装甲を貫く。ムーアはテルミッド溶接キャノンを最後の賭けで放つ。プラズマの奔流がハンスのバリアを突破し、球体の表面を溶かす。未知の金属が滴り落ち、初めてハンスの内部機構が露わになる。しかし、遅かった。カウントダウンの光線が、四台目の武装増加を待たずしてブーケトスの核心を直撃。過積載の機体は耐えきれず、大破。溶接の炎が逆噴射し、ブーケトスは廃墟の地面に崩れ落ちる。ムーアの声が、かすかに響く。「アナタトモ……ガッタイ……シタイ……」そして、沈黙。 ハンスは無言で空に浮かび、カウントダウンをリセットする。廃墟に残るのは、溶融の残骸と、夕陽の残光だけだった。