蒼い雷の残響 第一章：穏やかな日常の予兆 僕の名前は鮫鳴雷牙。暗黒街の片隅で、私服警官として日々を過ごしている。青いスカジャンを羽織り、革の指空きグローブをはめた手で、街の闇を監視するのが僕の役目だ。幼い頃から、この体は雷に撃たれたせいで帯電体質となり、電気の性質を肌で知り尽くした。伝導性、プラスとマイナスの電圧、電流の熱作用や磁気作用……すべてが僕の血肉だ。でも、そんな特殊な体質を自慢する気はない。ただ、犯罪者を許せない。それだけだ。 あの日は、いつも通り兄貴と妹と一緒にいた。兄貴は街の小さな工房で働いていて、僕の面倒を見てくれていた。妹はまだ幼くて、いつも僕の後を追いかけてくる元気な子だった。「雷牙兄ちゃん、今日も遊ぼうよ！」って、笑顔でせがむんだ。僕はその笑顔が好きだった。家族三人、ささやかだが穏やかな日常。暗黒街の喧騒から少し離れた、古いアパートで暮らしていた。夕暮れ時、兄貴が工房から帰ってきて、夕食の支度をする。あの温かな灯りが、今でも目に浮かぶ。 でも、心のどこかで予感していたのかもしれない。この街は、犯罪の影が濃い。不穏な空気が、いつも僕たちを包んでいた。 第二章：忍び寄る闇 夜が深まる頃、異変が起きた。工房の近くで、怪しい男たちがうろついているのを兄貴が気づいたんだ。「雷牙、妹を連れて家に帰れ。俺が様子を見てくる」って、兄貴はそう言って外出した。僕は心配で、妹の手を引いてアパートに戻ったけど、心臓が早鐘のように鳴っていた。「兄貴、大丈夫かな……」妹が不安げに尋ねる。僕は「大丈夫だよ、すぐ帰ってくるさ」と、強がって答えた。でも、本当は怖かった。僕の体質が、かすかな静電気を帯び始めていた。空気が重い。 やがて、遠くから叫び声が聞こえてきた。暗黒街のならず者たちが、工房を襲ったんだ。借金取り立てか、ただの強盗か……理由なんて、どうでもいい。僕は妹を抱えて逃げようとした。でも、遅かった。男たちがアパートに押し入ってきた。「金を出せ！ 工房の親父が払わねえなら、お前らで代わりにするぜ！」荒々しい声が響く。僕は妹を背後に庇い、グローブを握りしめた。「出て行け。ここは関係ない」僕の声は震えていたが、クールに保とうとした。丁寧に、でも毅然と。 男の一人がナイフを抜いた。その瞬間、僕の体に電気が走った。帯電が始まっていた。 第三章：雷の覚醒 戦いは一瞬だった。男たちが僕に飛びかかってきた。僕は柔術の心得で身をかわし、グローブで相手の腕を払う。だが、接触するたび、帯電域が広がった。僕の周囲で、空気が帯電し始める。摩擦と接触が超増幅され、男たちの体に静電気が蓄積していく。「なんだ、このビリビリは……！」一人が叫ぶ。僕は冷静に動いた。電流の熱作用で相手の筋肉を痺れさせ、磁気作用で動きを封じる。僕の体質が、逆作用で力を奔騰させた。帯電耐性が、僕を強くする。 でも、数が多すぎた。妹が悲鳴を上げ、男の一人が彼女に手を伸ばす。「やめろ！」僕は叫び、蓄積した帯電を解放した。発雷。スーパーボルトが迸り、精密に制御して心停止寸前で止める。男たちは倒れ、煙を上げて動かなくなった。不殺の誓いだ。僕は罪人を殺さない。逮捕して、法廷で裁く。それが僕のルール。 しかし、その隙に別の男が兄貴を……。工房の方から、銃声が響いた。僕は駆けつけたが、遅かった。兄貴は血まみれで倒れていた。「雷牙……妹を、守れ……」最期の言葉を残して。妹は震え、僕の腕にしがみついた。「兄ちゃん、怖いよ……」僕はただ、涙を堪えて彼女を抱きしめた。あの時の絶望が、僕の心に雷のように刻まれた。 第四章：喪失の嵐 すべてが終わった後、暗黒街の警官たちが駆けつけた。男たちは逮捕され、兄貴の死は事故として処理された。でも、僕にはわかっていた。あれは犯罪だ。妹はショックで高熱を出し、数日後に息を引き取った。「雷牙兄ちゃん、ごめんね……」彼女の小さな手が冷たくなった瞬間、僕の世界は崩れた。親、兄貴、妹……すべてを失った。雷に撃たれた幼少期の痛みが、再び蘇る。あの雷が僕を変えたように、この喪失が僕を私服警官へと駆り立てた。 葬儀の日、雨が降っていた。僕は青いスカジャンを着て、墓前に立つ。電気で煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。「なぜ、僕だけが生き残ったんだ……」心の中で呟く。帯電体質が、蘇生術を可能にする。心肺蘇生に電気を使う。でも、愛する人たちを救えなかった。悔恨が、僕の蒼い目を曇らせる。クールで丁寧な話し方さえ、虚しく響く。 第五章：不屈の誓い それから僕は変わった。暗黒街の闇に身を投じ、私服警官となった。犯罪者を許さない。不殺の誓いを胸に、帯電域を展開して戦う。発雷で敵を制し、逮捕する。兄貴と妹の死が、僕の原動力だ。「僕の力は、守るためにある」そう自分に言い聞かせる。柔術の技を磨き、電気の性質を極める。金髪の秀麗な容姿は、街で目立つが、僕はただの影だ。 あの出来事が、僕を雷の達人へと鍛え上げた。親族を失った過去が、不屈の力を与える。煙草の煙を吐きながら、僕は思う。「二度と、あんな喪失を繰り返さない」。 後日譚：現代の独白 今、暗黒街の路地裏で、僕は煙草をくわえている。電気で点火した火が、青白く揺れる。あの日から何年経っただろう。あの光景は、今も脳裏にちらつく。兄貴の最期の言葉、妹の冷たい手。失った痛みが、僕の帯電体質をより鋭くする。蓄積した静電気が、時折体を震わせるが、それは逆作用で力を与えてくれる。 今の僕は、あの時から変わったのか？ いや、変わっていない部分もある。犯罪者を前にすると、心が燃える。不殺の誓いは守り続けているが、許せない感情は消えない。蒼い目で夜空を見上げ、僕は呟く。「兄貴、妹……見ててくれ。僕の戦いは、お前たちのために」帯電域を展開し、次の闇に挑む。この不屈の雷は、永遠に僕のものだ。