皆んな!、聞いてくれ!、ある日突然に妹と名乗る不審者が現れた場合、皆はどう思う? 俺は怖い!、というか目の前に実際にいるんだよな!? 「な、なんで………」 俺は、ひどく困惑していた。 しかし、そんな俺に反して彼女、打倒者は少し蠱惑的に微笑むと、俺を揶揄うように返答する。 「ふふっ……さぁ?、どうしてでしょうね」 俺は一歩、いや……6歩ほど後ろに退いた。 その様子を見て、火乃香は不思議そうに小首を傾げた。 「フウ兄、どうしたの……?」 俺の方を向いて不思議がる火乃香、その背後で"奴"は椅子から離れて立ち上がる。 「火乃香さん、きっと……お兄ちゃんは疲れてるんですよ。」 一歩また一歩、こちらに近づいてくる。その表情は微笑んではいるが、こちらに対する脅迫に等しかった。 ____というか……。 なんか、縮んでねぇ……??? 椅子に座っていた時は気付けなかったが、奴が立ち上がった今なら分かる。明らかに前に出会った時に比べて背丈がだいぶ縮んでいる、それも火乃香と大差ない程度には小さくなっている。 「お前……?、なんか小さくない??」 「…………。」 少しの沈黙、打倒者はその言葉に対して少し考え込んだかと思うと、両手を胸に触れさせて俺を向く。 「私の胸のサイズがですか……?」 そう言って打倒者は、前に出会った時から一変して"絶壁"に変わり果てた胸部を両腕で隠すように覆った。 「お兄ちゃんのエッチ……///」 「待て待て!、そういう意味では決してないぞ!、たしかに小さいとは言ったが胸じゃなくて身長の方だからなッ!!」 「グスっ、私がチビだからってそんな言い方ないじゃないですか……」 ____コイツ、嘘泣きをかましたぞ…!? 嘘泣きでも幼子の姿だからタチが悪い、ここは一旦冷静になってだな……。 「あー!、詩ちゃん泣かせちゃダメなんだよ!」 火乃香の声、俺は収拾のつかなくなった状況に頭を抱えてしまっていた。 何がなんだか分からないが、今の俺は火乃香を学校に送る為、全力で自転車を漕いでいる。 ____と、言っても俺が自転車を漕いでる横で、火乃香は自転車に並走するように走っているので、俺が自転車を急いで漕いでいる必要性は全くない。 その代わりに、幼女と変わり果てた打倒者、改めて俺の妹を名乗る不審者こと"山田 詩"(やまだ うた)を自転車の後ろに乗せて、疾走する火乃香を全速力で追いかけている状況だ。 「おそいよフウ兄…!、急がなきゃ遅刻しちゃうよ…?」 ____ゼハァ、ゼハァ、俺は息も絶え絶えに……、 「お前が速すぎるんだよ!、時速50km強で駆け抜ける小学生がいてたまるか!」 ふと、フウタローの背後にしがみつく打倒者は思った。 ____そんな小学生と並走できる貴方も大概おかしいのでは…? 打倒者の頬を疾風が過ぎ去る、やはり未だにこの肉体には慣れないものである。自分の身に起きた事を振り返り、打倒者こと詩(うた)は溜息を漏らした。 ____まぁ……、面倒事は後回しでも構わないでしょう。 今はただ、山田 詩としての役割を果たす事に徹しよう。 山田風太郎という男は、小学校の前で鼻息を荒く佇んでいた。 「ハァ……、ゼェ……、ハァ…、やっと……着いた……」 汗だくの額を拭い、それとは相対的に汗一つかいていない火乃香と詩の背中を見送る。 いや、ここは一つ聞いておこう…! 「なぁ、ウタ…!」 試しに名前で呼んでみる。 「なんですかフウタr……、じゃなくてお兄ちゃん?」 「おいおい、さっそくキャラが崩壊してるぞ」 「し、仕方ないじゃないですか!、子供のふりなんて初めてなんですから!」 そう言ってウタは頬をぷりぷりと膨らませた。 「それで、私に何のようですか?」 「まぁ、なんだ……というか、これってどういう状況だ?」 「何がですか?」 「いや、俺ってさ、夢の中に閉じ込められたと思ったら、助けに来たお前に殴り飛ばされた挙句、目覚めたら変な空間で謎の少女に意味不明な言葉を言われたんだよ」 ウタは、小首を傾げた。 「本当に、貴方は何を言っているのですか…?」 ____うん、なんか見た目が小学生のやつに面と向かって言われると冗談抜きで本当に傷つくな。 「つまりだな、お前が何者で、何がどうなってそんな姿になったんだ?」 打倒者の小さな体を指し示しつつ、フウタローは訳がわからぬ事態に困惑の表情を見せた。 ____打倒者こと、ウタは呟く。 「詳細は別で追々に説明しますが、まずはこれだけは頭に叩き込んで下さい。」 ウタは手招きをして、俺に顔を近づけるように指示を飛ばす。なんだ……?、と思って俺は顔を近づける。 ____ビシッ…! デコピン一発、快音を響かせた。 「ぐおぉ〜………!」 痛みに悶えるフウタローと、それに反してフンス……と鼻を鳴らして笑うウタ。 この場面、状況を知っている。これを食らったのは二度目である。 途端にフウタローの脳内に浮かび上がった言葉。 ____貴方は、加担者。我々の意志に加担した者、その事を忘れるべからず。 「これだけ分かっていれば、今は十分です。」 そう言って、ウタは校内へと走り出す。そして、一人残された俺は、己に課された役割を繰り返す。 「加担者………。」 それが意味する答えを、俺は未だに分かってなどいない。だがしかし、何か取り返しの付かぬ事態に首を突っ込んだのは間違いないのだろう。 ____んっ?、そういえば俺って、何か大事なことを忘れているような……?? フウタローの髪を風が揺らす、それは遠く遠くに向かって靡く風である。 ____風が吹く、とある少女の鼻先をくすぐった。 「ハッ……、ハッ………、ハックションッ!!」 メガネを掛けたヤンキーこと、"膝下 暴羅"(ひざもと あばら)は自身のくしゃみで歪んだ眼鏡のズレを直してこう呟いた。 「………??、誰かうちの噂してただろ?」 そう、ちょっと不機嫌そうに呟いたのである。 どこか儚げな美少女に迫る魔の手、それが届く日はそう遠くはないのだろう。風向きが変わる、この物語の風向きが大きく転換する序章の息吹が吹き荒れたのである。