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どこか儚げな美少女 Ver27

 砕かれた肋骨、無理に立ちあがろうとして脇腹に痛みが走る。打倒者は息を吸う、そして吐いたと同時に歯を食いしばり震えた足で立ち上がる。  眼前の敵___、風に靡かせたマフラーが視界に入り込む。対峙した存在、奴は五体満足でこの私を見据えていた、先程までの致命傷が嘘のように佇んでいる。  打倒者は笑った。  「まさか、ここまで早く……そして、ここまで脅威的とは……!」  どこか嬉しそうな声、折れた肋骨へと伸ばした腕が患部に触れる。力を込めて傷口を鷲掴む、ゴキリ…ッ!?、という嫌な音を立てて骨と骨同士が互いに癒着し合い、その接合部が何事も無かったように一つの骨を形成した。  ……これで問題はない。  痛みに顔を引き攣らせ、額からは汗が滲み出た。しかし、打倒者はキッ……と、敵を睨む。  ___打倒者は、宣言する。  「{ 打倒 }……ッ!!」  自らの権能を行使する、それは"打倒"の具現化、打倒者の肉体をより戦闘仕様へと作り変えていく。  ___ゴキッ…  拳を鳴らす、準備完了。  死闘はもう、始まっている___ッ!!  山田風太郎は分からなかった、つい先程までに何が起きたかを理解する事が出来なかった。  ……たしか、打倒者に五臓六腑を破壊された末に、訳も分からぬままマフラーを奪われたまでは覚えている。その際、打倒者が何かを言っていた気がするのだが、残念ながら記憶は朧げであった。  次に目を覚ますと、打倒者を見下ろしていた。奪われた筈のマフラーを首に巻き、片膝をつく打倒者を見据えていたのだ。  打倒者は、苦しげな表情を見せるも無理矢理に立ち上がり、嫌な音を立てて骨折した箇所を修復する。  そして、それは一瞬の出来事であった。打倒者の拳が迫り来る。  ___だがしかし、  打倒者の拳は、視界の端を通り過ぎた。反射的に俺の肉体が回避する、何が起きたかは分からない。理解できたのは打倒者の驚いた表情と、次にどう行動すべきかだけだ。  拳を打ち出す、打倒者へ目掛けて拳を繰り出したのである。  打倒者は避ける。だが、それは想定内の事である。続いて地面を抉るほどの速度で繰り出された蹴り、打倒者の脇腹を穿つ___ッ!!  「ぐっ……ッ!?」  肉体が揺らぎ、痛みに顔を歪める。肺から押し出された空気が喉から外気へと飛び出していった。打倒者は、再び息を吸い込む。  左腕に力を込めた、渾身の一撃を繰り出す。  ___ズバァァン……!  あまりにも圧倒的な力の結晶、俺はまともに回避する事も出来ぬまま肉体が背後へと吹き飛ぶ。  だがしかし___、  不自然なまでに、その衝撃をいなして地面へと着地する。多少の痛みはあれど、体は依然として無傷である。  「流石ですね、フウタロー!」  打倒者の声、どこか嬉しそうな声色だ。それに対して俺は一切の反応を示さなかった。  「…………。」  俺は、自然と拳を構え直していた。それは熟達し、研鑽され、敵を打ち倒す事だけを目的に最適化された構えであった。  俺は戦い方なんて、これまでに何一つとして知らなかった。しかし、体は無意識に動いていた。目の前の敵を叩き潰せと一歩を踏み出す___ッ!!  打倒者の視界から、男が消えた。  打倒者の脳裏で直感と呼ぶべき防衛機構が作動する、奴はいま背後に…!  「くっ……。」  瞬時に弾き出された答えに従い、振り出した裏拳が己の背後で爆ぜた。  だが、敵はそれを読んでいた。  「えっ……?」  空振りという違和感、敵の姿形を視認する事が出来なかった。  呆気に取られ、打倒者に一寸の隙が生じる。しかし、それで十分だ。  「上に……ッ!?」  上空を見上げた、先程に敵は飛び退いていたのだ。防御が間に合わない、敵は既に一撃を振り下ろしていた。  ___ボガッ…ッッ!  打倒者の頭部に伝わる衝撃、意識は揺らぎ、視界がボヤけていく。震えた脳が、機能していない。敵の攻撃は止まらない、次なる一撃が打倒者に向けて迫り来る。  「私……は…」  己に問いた、己が何者かを問いたのだ。  己は解いた、己に対する回答を説いた。  打倒者、それだけが私の役割にして全て……!  打倒者は覚悟した。  否___!  覚悟を決めざるを得なかった。  ___バァアアアン………ッッッ!!!  辺り一帯を吹き飛ばす一撃、打倒者は未だに立っている。そして、むしろ敵の方が倒れていたのだ。打倒者の突き出された拳、穿たれた敵は瓦礫に埋もれ、力無く倒れ伏していた。  打倒者は、息を吐き、そして吸い込んだ。  第一声___、  「{ 死闘の果てに }………ッ!!」  打倒者は告げる、敵へと死を告げる。  そして、静かに拳を構えた。  ここから先が真の打倒、己に課せられた役割だ。  死闘の果てに、何を打倒するのか……  それは決まっている、ただ眼前の敵を叩き潰すのみ。  打倒者は叫んだ。  「フウタロー、貴方を打ち倒す___ッ!!」  打倒者は、敵へと大きな一歩を踏み出した。 https://ai-battler.com/character/2f3a624b-daf8-4c55-8135-c86fe1b28374