〇〇者___。 〇〇者_______。 〇〇者_____________。 扉が見えた、巨大な門である。 静かに開く、門番に任された役割だ。 ____それは、 かつての門番たる"守護者"の役割なのである。 〇〇者の門、静かに開かれた。 まるで、貴方を招くかのように静かに開かれていたのだ。 守護者は見つめる、貴方を見つめる。 「ふふっ……、」 ___見つけた。 空を見上げる。 忌々しきクソムシの夢の中に囚われた存在、打倒者は曇天を見上げる。その表情はあまり明るくはない。雲の陰りが、彼女の表情をひどく覆っていた。 右手に握られる血濡れたマフラー、今だに血で湿った生地から赤い液体がポタポタと滴っては一定のリズムで落ちていく。 キッ…と、打倒者は過去を振り払うように空を睨む。そして、打倒者はマフラーを掲げてこう叫んだ。 「開門……!」 天が二つに割れた。打倒者の視界の先、何か強大な力が空間を歪ませる。 しかし、その時に感じたのは一抹の不安と違和感である。打倒者は疑問を口にする。 「これは……?」 "ナニか"が迫り来る、そんな感覚、そんな瞬間。 「…………ハッ____ッ!!?」 打倒者は振り返る。 ___しかし、その時には血飛沫が空を覆っていた。 打倒者の血飛沫、空を舞う。 山田風太郎という男は夢を見ていた、なんとなく……見ているそれが夢だと分かったのだ。 少し遠くに見えた一人の少女の背中、こちらを振り返る事なく前へ前へと歩みを進めていく。 暗闇の中、足元すら見えない真っ暗闇の中を少女は迷う事なく歩き続けていく。そんな姿を、フウタローという男は不思議と視認する事が出来たのだ。 「おーい!、ちょっと聞きたい事があるんだ!」 少女は振り向かない。ただ前へと進み、徐々に視界から薄らと消えていくばかり、思わず追いかけようとフウタローは走り出した。 「ちょっ、待てよ!、ここって何処なんだよ!、というか打倒者は何処だ…?、たしか殴り飛ばされたまでは覚えてるんだがな…??」 たしか、殴り飛ばされた挙句、マフラーを奪われたまでは覚えている。だがしかし、それ以後に何があったかは覚えていない、思い出すことが出来ないでいた。 俺は必死に手を伸ばす、暗闇の中で届かないと知っている少女の背に手を伸ばしたのだ。 だが、次の瞬間には少女の姿は消え去り、代わりに誰かが俺の胸に指先を触れさせた。下を見る、思ったよりも背は小さい。あの少女が、ジトッ……とした目つきでこちらを見ていた。 「お主……、この先は地獄じゃよ。それでも、お主は歩みを止めぬつもりか?」 少女は俺の胸板をツンツンと突きながら呟いた、訳が分からずに俺は質問に質問で返した。 「い、いやさ……、何がなんだか状況がさっぱりなんだが……??」 少女は胸板をつつく指先の動作を止め、代わりに考え込むように顎先に手をかけた。 ___そして、 「お主が今ここで引き返すのならば、まだ運命のいたずら、ただ巻き込まれただけの"被害者"として、何の責任を負うことなく日常生活を取り戻す事ができる。どうじゃ?、引き返す気になったか?」 少女は小首を傾げて俺を見つめる、その言葉を信じていいかは判断に困るが、それが本当ならば俺はいつもみたいな日常生活に戻れるのだろう。 「これは、お主が決める事。まぁ、わしはどちらでも良いがの………お主が引き返すならば、お主がクソムシに関わる全ての出来事を無かった事にできる。引き返すならば、今しか機会はないぞ」 クソムシと……関わる前に戻れる…、俺は自身の胸元に触れた。少し考えてみる。 ふと、一つの疑問が俺の中でよぎった。 「瑞稀は……、瑞稀は目を覚ますのか!、アイツは目が覚めるんだよな!」 思わず少女の肩を掴んでいた、少女は少し驚いた表情を見せると、少しだけ悲しそうに俯いた。 「いや、それは決してない。あの者は前へと進む決断をしたのだ、じゃからお主が引き返したところで、目覚める事は決してない」 前へと進む……決断…。 俺は、目を閉じた。そして、目を開く。覚悟の決まった瞳で少女を見据えた。 「ってことは、瑞稀はこの先で俺を待ってくれてるわけだな。だったら幼馴染として、アイツを一人にはさせられねぇよ」 そう言って、山田風太郎という男は笑った。屈託のない、真っ直ぐな笑顔で少女に対して笑ったのだ。 「お主………。いや、そうか……分かった」 少女は何かを言いかけ、そしてそれを飲み込んだ。 「ならば、ここからお主はわしらと同じ穴の狢じゃ、そうじゃろ___」 ___"加担者"。 ___認証、〇〇者の門が開かれました。新たな登録者:加担者を歓迎します、死闘の果てに栄光がある事を心より願います。 少女は笑った、そしてフウタロー、改めて加担者の背中を強く押した。 「行け!、加担者よ!、お主もまたワシらと同じく馬鹿者じゃ!、だけど、だからこそ___」 ___だからこそ、お主はこの先へと進む覚悟を示したのじゃよ! 少女は笑う、いや……ここは少女、改めて"歩行者"は笑った。前へと進む大馬鹿者の背を見送る、かつて自身がそうであったように一歩また一歩を踏み締めて見送ったのである。 誰かが俺を呼んでいた、俺は暗闇でもがく。 「フウ兄…!、ねぇフウ兄ってば!」 誰かに強くゆすられる、なんだ火乃香か……。 俺は眠気に負けて再び深い眠りへと沈んでいく、もう今日は色々ありすぎて疲れた。だから、今日は一日中惰眠を貪ってしまう事にしよう。 「フウ兄ってば!、もう___、、、」 ___ドシュ…! 俺の腹に綺麗にきまった正拳突き、俺は目を見開いて飛び起きた。 「おい火乃香!、そりゃあないだろ!?」 ベッドの上、腹の痛みにもがく俺を尻目に"引合 火乃香"(ひきあい ほのか)はクスクスと笑っていた。 「おはよ!、フウ兄…!」 「あぁ、おはよう火乃香って……、何でお前が俺の部屋にいるんだよ!」 「ふふん、窓から入ったの!」 そう言って火乃香は、無い胸を張って微笑んだ。 姉の瑞稀もそうだ、この姉妹は俺のプライベートに対する配慮が皆無である。 「おいおい、もっと他人に気遣ってくれよ」 「えー、でもフウ兄だって、お姉ちゃんのお風呂を覗いてたじゃん」 「ち、違うぞ!、あれは誤解だ!、ただの事故だからな!」 「ふふん、でもね……あの時は鼻血が出てたよ?」 「あれは瑞稀に殴られた後だからだ!、ったく……あいつは本当に俺に対しては容赦がねぇんだよな」 嫌な思い出が蘇る。あれは高校生の頃だった、引合家の風呂場は普通の銭湯よりも広い上に熱気で視界が悪い、だから気にせず体を洗って浴槽に入っていたら、よくよく見てみると遠くで瑞稀も風呂に浸かっていたのだ。 俺の視線に気づいた瑞稀、最初こそ驚いていたが、次の瞬間には怒りの表情と共に一糸纏わぬ姿で俺を殴り飛ばしに来たんだよ!? その後、目を覚ましたら応急処置を施された俺、顔を真っ赤にして恥じらう瑞稀、俺の殴り飛ばされた顔を見て笑う火乃香と、それを微笑ましく見守る瑞稀の両親で俺はパニック状態だった。 しかも、責任を取りなさいフウタロー…!と瑞稀に迫られた挙句、無理矢理にでも婚姻届けにサインさせられそうになった時は正直怖かった、しかもその時の瑞稀の表情といい、目が真剣すぎて恐かった。 んー、あれはトラウマだな。いや、もちろん瑞稀は綺麗だったぞ?、めちゃくちゃ眼福だったというか最高だった。だけど、その後に色々とありすぎて大変だったからなぁ……。 「ってか、火乃香は何で俺の部屋に来たんだ?、学校はどうしたんだよ?」 「んっ?、えーと、フウ兄に送ってもらいたかったから寄ったの!」 「いや、そこは一人で行けよ!」 「えっ……?、フウ兄なに言ってるの?」 火乃香の反応が何かおかしいぞ?、どうした? ___火乃香は呟く。 「詩ちゃんも一緒だよ?」 「ウタ……??、誰それ?」 本当に誰………??? 「もぉ〜、フウ兄の妹でしょ?、詩ちゃんが可哀想だよ!」 「えっ……妹…?、俺に…??」 俺さ………生まれてこの方、一人っ子なんだが…?? 「もぉ、下で詩ちゃんが待ってるから早く行こう!」 そう言ってランドセルを背負い、下の階へと降りていく火乃香、俺は訳も分からぬまま火乃香に付いて下の方へと降りていく。 誰かがいた、母さんか……?、いや……あれはッ!? 「やっと起きたのですね、寝坊助なお兄ちゃん」 リビングの椅子、そこに座った打倒者の姿であった。 「な、なんで………」 俺は、ひどく困惑していた。 しかし、そんな俺に反して彼女、打倒者は少し蠱惑的に微笑むと、俺を揶揄うように返答する。 「ふふっ……さぁ?、どうしてでしょうね」 それが彼女、"打倒者"との二度目の出会い、そんな思いがけぬ再会の瞬間であった。 https://ai-battler.com/character/997240b0-64c4-4803-b5b5-41aecfb011aa