海辺の小さな町、波の音が心地よいその場所で、ひと際大きな声が響いた。 「ほお~!いいこんにゃくじゃのう!」 それは、サメ人魚の賞金稼ぎ、トキトウの声だった。彼は2メートルもの大剣「喰寿刺」を肩に担ぎながら、歩き回っている。 こんにゃくはその場に静かに立つ。彼は動かず、ただじっとその存在を示し続けていた。反応の薄いこんにゃくとは対照的に、トキトウの興奮は絶え間ない。 「まずは、わしの力を見せてやる!」 トキトウは手を高く上げ、喰寿刺を空に掲げると、すぐに大回転斬撃の構えを取った。 「いくぞー!」 彼が力強く剣を振り下ろすと、大きな風が生まれ、周囲の砂が舞い上がった。 しかし、こんにゃくはその攻撃を受け止めるために動くことはなかった。柔らかく、弾力のあるその体は、トキトウの攻撃をつるんと流した。 「なにっ!? これがこんにゃくの力か!」 トキトウは驚愕し、その場でじっとしているこんにゃくを見つめていた。 無傷のこんにゃくがただ存在している姿は、まるで命の象徴のように見えた。トキトウはうなる。 「だが、こうなったら怖いものなしじゃ! 破魔水射いくでぇ!」 トキトウは体を反らせ、大きな口から高圧聖水を噴射した。 この攻撃は岩をも打ち抜く威力を持っている。 「かかれ~!!」 しかし、こんにゃくは再び動かず、静かにトキトウの攻撃を受け入れた。聖水が当たっても、つるんとした表面がその刺激をかわしてしまう。 「なんじゃこりゃ。やっぱり凄いんじゃのう、こんにゃくは…」 トキトウは感心し、その視線はますます熱くなっていく。 一方で、こんにゃくは真の力を示すかのように次第に周囲に存在感を増す。 彼は自らの夢、努力して美味しくなり人間に食べられるために“ただそこにいる”だけなのだ。 心がへし折れるような気持ちでいるトキトウの心に一瞬、耳を傾けさせる。 「ええ、最後の奥義を決めさせてもらうわい! ほれ、時止楼!」 トキトウは声を高め、時を止めた。まるで目の前に立つこんにゃくが時を超えたかのような景色が広がる。 時の流れが止まった世界の中、トキトウは自在に動き、こんにゃくの周りを興味津々に回って観察する。 「ほんまに、頑張ってるのう。」と呟く。 だが、止まった時の中でも、こんにゃくはただ存在し続ける。トキトウはその無疲れの姿に打たれ、感情を押し殺しながら強い視線を向けていた。 時が再び動き出すと、トキトウは全力で喰寿刺を振り下ろした。 悲鳴の残響を感じながら、こんにゃくはそのまま立ち続け、少しもひるまない。 遂にトキトウは心の闇に直面した。「まさか、勝負に負けるんか?」 心の中の不安が大きくなる。 すると、こんにゃくの静かな存在がその背後を支える。 「わしにはもう、負けを認めるべきか…」 トキトウは観念したかのように剣を下ろし、語り始めた。「美味しいと噂のこんにゃくを、いつかゆっくり味わいたいもんじゃ。」 やがて影は長く伸び、幾度も戦った結果、二人の間には静寂が訪れた。 そう、トキトウの敗北だった。 勝敗が決した瞬間、トキトウは耳元で囁く。「やっぱり、お前は美味しいこんにゃくだったな。」 “勝者”、静なる存在に立つこんにゃく。