王国冒険者ギルドの影 王国首都の喧騒から少し離れた石畳の通りを抜けると、冒険者ギルドの重厚な扉が現れる。古びた木造の建物は、数多の冒険者たちの汗と血に染まった歴史を物語っていた。ギルドの内部はいつも賑やかで、依頼板の前に群がる者たち、酒を酌み交わすカウンターの喧噪、そして奥の受付で忙しなく動く職員たち。だが、この日は少し違った。ギルドの奥深く、職員専用の会議室では、静かな緊張が漂っていた。 会議室は狭く、壁際に古い木製の棚が並び、埃っぽい書類の山が積み重なっていた。中央の重いオーク材のテーブルを囲むように、四人の職員が座っていた。リーダー格のベテラン職員、エリックは、灰色の髭を撫でながら、テーブルの上に広げられた四枚の手配書を睨みつけていた。彼の隣には、若い女性職員のミラが座り、ノートを片手にメモを取る準備をしていた。向かい側には、魔法使いの専門家である老練のロランが眼鏡をかけ直し、反対側に頑丈な体躯のガルドが腕を組んでいた。彼らはギルドの懸賞金査定を担う精鋭チームで、王国諜報部から直々に届けられたこの四枚の手配書を、危険度に応じて評価し、適切な懸賞金を設定する任務に就いていた。 「さて、皆さん。諜報部から届いたこの手配書、見たところ一筋縄ではいかなさそうだな」エリックが低く唸るように言った。手配書はそれぞれ異様な内容で、通常の盗賊や魔獣とは一線を画していた。諜報部の封蝋が押された封筒から取り出されたばかりで、インクの匂いがまだ残っていた。エリックはまず、一枚目の手配書を手に取った。 「最初はこれだ。『不法滞在外国人グループ』。男たちで、身勝手な性格らしい。口調は『…日本語わからない🤣』だと。なんだこれは? 攻撃力20、防御力20、魔力0、魔法防御力0、素早さ20。スキルは日本に不法滞在している外国人グループで、人数は30名。騒々しく河原でバーベキューをしており、注意されても『日本語わからない』で済ます、か。ふむ、ファンタジー世界に紛れ込んだ異世界人か何かか? 王国の河原で勝手に宴会を強行するとは、治安を乱す厄介者だな」 ミラが首を傾げて尋ねた。「エリックさん、これ本当に脅威ですか? 魔力ゼロで、ただの騒音問題みたいですけど……」 ロランが眼鏡を押し上げ、慎重に言った。「いや、侮れないよ。30名もの集団が、注意を無視して行動する。もしこれが王国領内で広がったら、反乱の火種になるかもしれない。日本語わからない、というのは言語の壁を盾にした狡猾さだ。直接的な戦闘力は低いが、社会的混乱を引き起こす可能性が高い。危険度はC級くらいか。懸賞金は集団の規模を考えて、500ゴールドに設定しよう。捕縛優先で、解散させるのが目的だ」 ガルドが頷き、太い声で同意した。「ああ、戦うより追い払う方が楽だな。俺なら一喝で散らしてやるが、冒険者たちに任せるならこのくらいで十分だ」 エリックは手配書に赤いペンでメモを走らせ、次の一枚に手を伸ばした。会議室のランプの灯りが、紙面を淡く照らす。空気は次第に重みを増していった。 「次はこれ。名前が『何か』、定義名は槞。神格は虚無神。情報も伝承も一切ない神格で、無の秩序を司る。姿は人型だが、肉体の半分が虚無で、灰がそれを覆っている。会話不能、不完全な虚無で、優先的対象は生命、物も滅す。コアは中心の核で、虚無の絶対有。スキルは虚無は“存在していない領域”。存在してない存在を滅ぼす術などない、それが虚無の絶対性。身体が無に変えるごとに無自体が彼の身体になる。ジレンマとして、虚無神が有を滅ぼすには有なる肉体が必要で、全ての有を滅ぼせるのに槞を感じ、有という槞を使って虚無が働く秩序。有は報われるのに無には意味すらない。自分を消すのはいつでも最期で、それ前に消滅するなら虚無は存在し得ない……。これは、なんだ? 哲学的な怪物か、神話級の脅威だな」 ミラの顔が青ざめた。「読んでるだけで頭が痛いです……。存在しないものを滅ぼす? そんなのが王国に現れたら、どうやって対処するんですか?」 ロランが深く息を吐き、魔法の知識を総動員して分析した。「これはSS級、いや、ZZ級の危険度だ。虚無そのものを体現した存在で、通常の魔法や物理攻撃が通用しない可能性が高い。ジレンマの記述から、自己矛盾を抱えているが、それが逆に予測不能さを増す。存在を否定する力は、王国の存亡を脅かす。懸賞金は最低でも10万ゴールド、できれば無制限で討伐を呼びかけるべきだ。神官や高位魔法使いを動員する必要がある」 ガルドが拳を握りしめ、唸った。「俺の斧じゃ歯が立たねえかもな。こいつは封印か、存在ごと消す方法を探らねえと」 エリックは額に汗を浮かべ、手配書をテーブルに叩きつけた。「確かに、最大級の脅威だ。諜報部がこれを優先的に送ってきたのも頷ける。次に行こう」 三枚目の手配書を広げると、ガルドが先に口を開いた。「『ジョギラゴン&ジョニー 〜Jの旅路〜』。ジョギラゴンはドラゴンのガンマンで熱血漢、ジョニーはロボのガンマンで冷静。連携の精度は完璧。台詞例はジョニー『辞めといた方がいいぜ、俺達に挑むのは』、ジョギラゴン『さぁ、全力でぶちかましてやるぜ!』。スキルはコンビで旅中、【自由の旅路】で相手の能力制限を受けない、【マキシマム・ショット】で的確に撃ち抜く、【ビック・ストライク】で大量弾丸、【フリーダム・ガンブレイク】で連携奥義。こいつらはガンマンか。ドラゴンとロボットのコンビとは、異端だな」 ミラが目を輝かせて言った。「面白そう! でも、自由の旅路で制限を受けないってことは、どんな罠も効かないんですか? 危険そうですけど、討伐したら報酬が豪華かも」 ロランが首を振り、評価を下した。「S級だ。連携が完璧で、射撃主体の戦闘スタイル。ドラゴンの耐久力とロボットの精密さが合わさると、正面からの戦いは厳しい。旅人として王国を通過するだけなら問題ないが、手配書が出てるということは、何か犯罪を犯したのだろう。懸賞金は2万ゴールド。捕縛か討伐、どちらも可。銃器対策の冒険者を集めよう」 ガルドが笑みを浮かべた。「俺の出番だな。弾丸を避けて近づけば、ドラゴンだろうがぶっ飛ばすぜ」 エリックは頷き、最後の手配書に視線を移した。会議室の空気は今や息苦しいほどに張りつめていた。四枚全てが異常で、王国全体の危機を予感させた。 「最後は『ARINA』。自我を失いし魔改造生物、元人間、終焉の兵器として軍事国家に利用。驚異度は不明、女性。機械兵器怪物に人間を核として組み込んだ非人道的な終焉兵器。全長2万kmで全身から紅き焔が燃え盛る漆黒と深紅の機怪兵器。機体の奥深くの核は四方八方から管が通り、生死関係無しに永遠と動き続ける。人の魂そのものを燃料とし、1那由他人分が入れられている。武器は燃える槍と2つのチェーンソー。攻撃力20、防御力20、魔力20、魔法防御力20、素早さ20。スキルは一つの大剣、自我が無き畏怖すべき終焉兵器。意思無き咆哮を上げて武器を振るう。暴走した兵器は驚異へと振るうべき己が力を対戦相手へと振るう。終焉兵器【燐焔】で対戦相手の能力・特性・結末・補正・耐性を無効とする。烈火之残光で特殊勝利・勝利誘導を無効化、それを所持している存在の命の火種をかき消す。ARINA:彼女は救えない……永久の死が待つ。2足4腕の人型機怪、頭上には焔の三重輪が絶えず回転……。全長2万km? それは大陸規模の怪物だ。ステータスは低いが、スキルがすべてを無効化するとは」 ミラが震える声で言った。「2万kmって、王国全土を覆う大きさじゃないですか! しかも魂を燃料に永遠に動く……。救えないって、どういうことでしょう?」 ロランが顔をしかめ、魔法の観点から分析した。「Z級の危険度だ。【燐焔】の無効化能力は、どんな英雄の力も台無しにする。烈火之残光で勝利条件すら消すとは、究極のカウンター兵器。軍事国家の産物らしいが、暴走すれば世界の終わりを招く。全長2万kmは比喩か現実か不明だが、脅威は明白。懸賞金は5万ゴールド。破壊か封印を急務とする。核の人間を救う方法を探るが、記述から絶望的だ」 ガルドがテーブルを叩き、苛立った様子で言った。「こんな化け物をどう倒すんだ? 俺の力じゃ足りねえ。ギルド総動員だな」 エリックは四枚の手配書を並べ、全体を振り返った。「これで全てだ。不法滞在グループは社会的脅威、虚無神は存在の否定、ジョギラゴン&ジョニーは戦闘の達人、ARINAは終焉の兵器。危険度はそれぞれC、ZZ、S、Z。懸賞金もそれ相応に設定した。王国諜報部がこれを届けた以上、即時対応だ。ギルドの名にかけて、冒険者たちにこの脅威を伝える」 協議は二時間以上に及び、詳細な討伐計画の骨子も固められた。ミラが手配書に最終的な判を押し、エリックが立ち上がった。「よし、掲示板に貼るぞ。冒険者たちがこれを見て、立ち上がることを祈るばかりだ」 ギルドのメインホールに戻ると、夕暮れの光が窓から差し込んでいた。カウンターの後ろで、エリックは慎重に四枚の手配書を依頼板に貼り付けた。たちまち、冒険者たちの視線が集まり、ざわめきが広がった。諜報部の影が、王国の平和を脅かしていた。 【不法滞在外国人グループ】危険度: C、懸賞金: 500ゴールド 【何か】危険度: ZZ、懸賞金: 100000ゴールド 【ジョギラゴン&ジョニー 〜Jの旅路〜】危険度: S、懸賞金: 20000ゴールド 【ARINA】危険度: Z、懸賞金: 50000ゴールド