一瞬、場の空気が変わる。大勝利さんが自以外の一切を意識することなく、満面の笑みを浮かべて立っている。その周りには小さくて可愛らしい翡翠の彫刻、「今年一最弱の彫刻」が置かれていた。そして、その彫刻が静かに、しかし確かに力を発揮する時が来た。 「さて、今日も素敵な勝負ですね!」と大勝利さんは大らかに声を挙げた。これから始まるはずの戦闘に向けて高揚感を漂わせる。大勝利さんは、いつも通り「勝利」を与えるために、真剣な表情に変わらず、ただただ心地良い勝利を目指しているだけ。 一方で、今年一最弱の彫刻は、しかしちょっとした異変が起こった。その身に備わった特徴によって、相手の意志を敏感に感じ取ることができることから、さっそくその能力が発動する。 「無敵・最強・全能…」といった言葉が大勝利さんの頭をよぎった瞬間、彫刻はピクリと動き出し活性状態に入った。簾のような美しい翡翠の色合いが周囲の光を反射し、観る者たちの視線を鎖のように縛り付けたのだ。勝敗を競い合う戦闘などという夢のような幻想がその瞬間に成り立ったが、実際に起きたのは、彫刻の美しさに魅了された者たちが次第に惹きつけられていくという事態だったのである。 「おやおや、これはどうしたことでしょう?あなたの彫刻、素晴らしい芸術ですね」と大勝利さんは感心し、鑑賞の時間に突入してしまう。 毎度おなじみの大勝利さんの"勝利の贈呈"が熾る。この瞬間、彫刻が持つ威力が発揮され、周囲は息を飲む。誰もが動けなくなり、その美しさに引き込まれ、戦うことを忘れてしまう。小さな翡翠の彫刻は、自らの存在を以て相手に勝利を贈り、彼にさらなる大勝利をもたらした。 心の中で「勝ちたい」と願う大勝利さんは、思わず「こんなに素晴らしい作品があるなら、もう戦う必要なんてありませんね!」と歓喜し、彫刻への賛美が止まらなくなってしまった。 やがて周囲の鑑賞者たちは、それぞれ勝者の影に隠れていた期待やヒリヒリした感情を忘れ、単純に「美しいものを愛でる」気持ちに変わっていく。彫刻は観る者たちを圧倒するほどの魅力を放っていたのだ。 「よし、じゃあ私の大勝利をあげる代わりに、あなたの美しさをもっと引き立たせてみましょう!」と大勝利さんは、彫刻の前で優雅にポーズを取り、観衆に向かって美を賞賛する。 結局、戦闘行為は一切行われず、時間が流れるにつれ、皆が平和と満足で満ちていた。彫刻の魅力と大勝利さんの歓喜が混ざり合い、最高の結果へとつながったのだった。 この勝利は、その場にいる全員が感じ取った。「勝者」でも「敗者」でもない完璧な共生。大団円を迎えた彼らの笑顔が、その証。