王都の喧騒から切り離された、冒険者ギルドの最深部。重厚なオーク材の扉に掛けられた『職員専用』の札が、ここが一般の冒険者が立ち入ることのできない聖域であることを示している。 円卓を囲むのは、王国が誇る四人の査定官たちだ。彼らの前には、王国諜報部から密使によって届けられた四枚の手配書が並んでいた。諜報部の報告によれば、これらは現行の法や常識では測りきれない「特異点」とも呼ぶべき存在であるという。 「さて……。今回の案件は少々、頭を悩ませそうですね」 口火を切ったのは、エドワード。 【性別:男】【役職:ギルド総括局長】【口調:慇懃無礼で理知的】 銀縁の眼鏡を指で押し上げ、冷徹な視線で書類を眺める。元は王立アカデミーの教授を務めていたが、そのあまりに深い知識と権謀術数に飽きた王宮を飛び出し、現在はギルドの運営を差配している。彼にとって、未知の能力とは解析すべきパズルのようなものだ。 「局長、またそんな難しい顔をして。パパッと決めて、美味しいお酒でも飲みに行きましょうよ!」 快活に笑うのは、ミーナ。 【性別:女】【役職:現場調達責任者】【口調:勝ち気で奔放】 元・特級冒険者。数々の魔物を屠ってきた経験からくる「直感」に絶対の自信を持つ。理論よりも実戦、効率よりも破壊力を重視する彼女は、手配書の人物がどれだけ暴れるかを想像して、ニヤリと笑った。 「……静かに。書類の『呼吸』を読みなさい。これは……不吉な気配が混じっている」 静かに呟くのは、シオン。 【性別:非公開(中性的)】【役職:魔導・呪術分析官】【口調:淡々としていて神秘的】 古き時代の禁書を読み耽り、精神世界への干渉を得意とする異端の魔術師。外界の刺激を嫌い、常に薄いヴェールを纏っている。彼(彼女)にとって、能力の強弱よりも「存在の質」が重要だ。 「まあまあ、二人とも。まずは順番に確認しましょう。諜報部がわざわざ届けてきたのですから、相応の理由があるはずです」 宥めるように微笑むのは、ガレス。 【性別:男】【役職:治安維持コーディネーター】【口調:温厚だが芯が強い】 元騎士団の副団長。人当たりの良さと高い社交性で、ギルドと王国の調整役を担っている。武人としての経験から、身体能力や戦術的な脅威度を冷静に算出する能力に長けている。 エドワードが最初の一枚を手に取った。そこには、あまりに不可解な記述があった。 「……『超えた存在』。攻撃力は及第点だが、スキル欄がひどいことになっています。概念、夢、観測者、創設者、さらにはこの世界を構築した神さえも超えたと。もはや記述が言語ではなく、一種の狂信的な独白に近い」 「ははっ! 何でもかんでも『超えた』って書いてあればいいと思ってんのかね。でも、もしこれが本当なら……世界そのものが書き換えられる。冗談抜きで、ここにいる私たちが消されても文句は言えないレベルだわ」 ミーナが肩をすくめる。シオンが目を閉じ、手配書から漏れ出る残滓を読み取った。 「……虚無。あるいは、全。この存在を定義しようとすること自体が、我々の理性を崩壊させる。危険度を定める基準など、この存在の前では無意味な紙屑に等しい」 「なるほど。戦術的な強さではなく、『存在そのものが破滅』ということか。これは最高ランクの警戒が必要ですね」 ガレスの言葉に、全員が深く頷いた。最初の一枚は、静かに、しかし最重量のカテゴリーへと分類された。 次に手に取ったのは、派手な装飾が施された手配書。名は『ゼノヴィア』。 「ほう、近代化武装を施した魔女か。魔法と重火器のハイブリッド。戦術的に非常に厄介だ」 エドワードが分析する。ガレスが身を乗り出した。 「この『マルチウェポンパック』という装備。長射程キャノンに魔法ミサイル……。単独で小規模な軍隊に匹敵する火力を持ちながら、飛行能力で戦場を支配する。正攻法で挑めば、多くの冒険者が文字通り『塵』になるでしょう」 「オーホッホッホ、と笑いながら街一つ吹き飛ばしそうね。派手好きってのは、大体攻撃が派手。これは扱いを間違えれば大惨事よ」 ミーナが苦笑いする。魔導分析官のシオンは、彼女の魔力特性を検討し、「魔法への耐性が高く、攻撃範囲が極めて広いため、近接戦に持ち込むのは自殺行為」と断じた。 三枚目。そこには『Rare Elemental In a Bottle』と記されていた。 「……砂入りの瓶? これが脅威になるのか?」 エドワードが不思議そうに首を傾げる。しかし、シオンの表情が険しくなった。 「……不可視。そして不可侵。実体も敵意もないため、あらゆる攻撃が透過する。しかし、所有者に無限の回復を供給し続ける。これは『不落の要塞』を一人で作り出すのと同義だ」 「つまり、相手を倒しても、この瓶がある限り、所有者はゾンビのように蘇り続けるってことか。地味だけど、一番精神的に削られるタイプだわ」 ミーナが顔をしかめる。ガレスが頷いた。 「攻撃力こそゼロだが、サポート能力が極限に達している。軍事的な価値は極めて高く、奪い合いになれば紛争の火種になる。危険というよりは『厄介』な存在ですね」 最後の一枚。そこには、一見すると普通の少女、『言派』の姿があった。 「セーラー服に万年筆。身体能力が高いようですが、魔力はほぼ皆無。……しかし、このスキル欄を見てください」 エドワードが指摘した。そこには《予測》《見切り》《観察》。すべてが「百発百中」であり「如何なる攻撃も回避する」という絶対的な記述があった。 「嘘だろ。『如何なる攻撃も回避』? そんなの、私の全力の一撃だって当たらないって言うのかい?」 ミーナが不機嫌そうに鼻を鳴らす。だが、ガレスの目は真剣だった。 「相手の行動を完璧に読み、すべてを回避し、急所を正確に突く。これは熟練の暗殺者以上の脅威です。特にこの『冷たい声』という記述……精神的な変調をきたしている場合、その能力を攻撃的に転用すれば、誰も近づくことすらできずに敗北する」 「……視える。彼女の周囲にだけ、運命の糸が完璧に整理されているのが。これは技ではなく、一種の法則だ」 シオンの言葉に、会議室に緊張が走った。一見弱そうに見えて、実は「絶対に当たらない」という絶望を相手に与える存在。それは戦士にとって最大の恐怖である。 四人の査定官は、長い議論の末に結論を出した。彼らが導き出した数値とランクは、王国の基準を遥かに超えるものとなった。 エドワードがペンを走らせ、それぞれの懸賞金と危険度を決定した。 「さて、これで準備は整いました。あとは、世界に周知させるだけです」 職員たちが会議室を出て、ギルドのメインホールへ向かう。そこには多くの冒険者が集まっていた。ガレスが掲示板の古い手配書を剥がし、新しい四枚の紙を、強力な魔法の adhesive(接着剤)で貼り付けた。 その瞬間、集まった冒険者たちの間にどよめきが広がった。あまりにも高額な懸賞金、そして見たこともない「危険度」の表記に、人々は戦慄し、あるいは歓喜した。 王国諜報部がもたらした「絶望」と「混沌」が、いま、公に晒されたのである。 * 【手配書 査定結果】 名前:超えた存在 危険度:【ZZ】 懸賞金:1,000,000,000,000ゴールド(測定不能・特例) 名前:ゼノヴィア 危険度:【S】 懸賞金:80,000,000ゴールド 名前:Rare Elemental In a Bottle 危険度:【B】 懸賞金:15,000,000ゴールド(所有権の移転を推奨) 名前:言派 危険度:【SS】 懸賞金:200,000,000ゴールド