現代の町の一角で、奇妙な戦いが繰り広げられていた。こんにゃくはじっと立っている。 その表面には「乙」と書かれた印が燦然と輝いており、彼の周囲には青白い光の中、十六夜咲夜が優雅に現れていた。 「こんにゃくさん、またお掃除の邪魔をするんですか?」 咲夜は手にほうきではなく、まるで舞うように軽やかに剣を持っており、一見、非戦闘的な印象を与えた。しかし、彼女の「あー、お掃除が進まない!」という呟きは、戦闘とは全く無縁のように思えた。 「固いな、君の存在感はまるで動かない山のようだね」咲夜は答えないこんにゃくに向かって微笑んだ。 「ただ立ってなくてもよいのではないか。少しは私に攻撃をしてみたらどうだい?」 こんにゃくは、無言のまま彼女の言葉に応じなかった。彼がその存在を示すために選んだ道は、黙々と立ち続けることだった。 咲夜が目を細める。 「よし、では私のスペルカードを使いますね。奇術『ミスディレクション』!」 瞬間、咲夜の周囲に何体もの幻影が現れ、彼女の姿をかく乱させた。 だが、こんにゃくはまるで不動の山のように、どんな攻撃にも一切動じることはなかった。彼はただその場に立ち、彼女の攻撃を静観する。 その静けさが、咲夜にとって不気味だった。彼女は次の手を考えた。 「へぇ、そんなに硬いのなら、私も本気を出さなきゃってことですね。」 咲夜は、メイド秘技『殺人ドール』を発動させ、数十体の人形がこんにゃく目掛けて襲いかかった。その様はまるで執事に操られたように、精巧で正確だった。 だが、こんにゃくはまたもやその攻撃をつるんと回避して見せる。人形も彼に触れることはできず、空を切った。 彼はまだ立っている。強さに根付いた悲しさを内に秘めながら、動くことなく。 「さて、次は『幻在『クロックコープス』」 咲夜の声が響く。時間を操る能力が発動すると、瞬時にその場の時間が歪む。彼女の攻撃がこんにゃくの方に向かって進む。 すると、今度は時間の流れが遅れるかのように見える。だが、こんにゃくはただ静かに流れを見守っていた。 「動じないとは。まるで空気のようですね。」 咲夜はそう呟きながら、アタックを続け、彼女の連撃は続いた。 しかし、こんにゃくには彼女の攻撃は届かない。無駄に苦し紛れに動く彼女の姿を、こんにゃくはまるで冷静な観客のように見つめている。 時間稼ぎをしようとしている彼女だが、逆にその行動が彼女の心に疑問を生じさせていた。 「どうしてあなたは動かないの?お掃除でもしているのかしら?」 咲夜の攻撃が最後の一撃にかかろうとする瞬間、彼女の心に響く声があった。 「食材故、不動貫き、己が運命を受け入れるのみ…。」 その言葉が彼女の心に届くと、開放感ともどかしさを感じ始め、お掃除をするという彼女の本来の目的が消えかける。 「何も考えず…!」 最後に咲夜が放つ力強い一撃は、当たり前のようにこんにゃくに弾かれる。 その瞬間、こんにゃくは不動だが、静かに呟く。「美味しく人間に食べてもらうために、存在し続けるだけだ」 その後ろで、咲夜は一瞬の隙間を突かれたかのように、言葉を失った。 その結果、咲夜はその場を離れ、心の中に疑問を残したまま、静かに去っていった。 不動のこんにゃくは、いつの間にか彼女に勝利を収めていたのだ。 かくして、こんにゃくはその存在を証明した。彼にとってはそれが全てだった。 それが、戦いの結末だ。 「勝者はこんにゃく。」