第一章:忘却の武道家 時は流れ、月が高く昇る夜。薄明かりの中、古びた道場の扉が音もなく開かれる。そこには、傘を差した一人の老人が立っていた。彼の名は「良策」。外見はまるで100歳の爺さんそのもので、細細とした体つきに白い髪が風に揺れている。しかし、昔はその身に全ての武を極めた伝説の武道家であった。 「今日は何を食べようかな…」良策は目を合せずに呟き、視線を道場の隅に転がる白いおにぎりに向けた。その無邪気な姿に、彼を知る者は苦笑するしかなかった。彼は戦うことを忘れてしまったのだ。しかし、今宵、運命は彼を試す。 突如、扉の向こうから冷たい風が吹き込む。影が現れ、そこには「去渡道玄」という名の男が立っていた。小柄ながらもその目には知性が宿り、剣と忍の道を極めた者の威厳が感じられる。彼は良策を見て笑った。「老人よ、今何をしている?」 良策は再びおにぎりを見つめながら答えた。「飯…おにぎり、食べたいな。」その瞬間、道玄は目を細め、言葉を続ける。「食事より戦うことを思い出せ。」穏やかさの裏に隠された暗黙の挑戦を感じた瞬間、良策は何かがかすかに響いた。 「ん?私に何を言っているのかね?…ああっ、忘れられない!」彼は突然大声で叫び、腰から剣を抜く。しかし、引き起こされたのは、保護された老人の本能ではなく、完全に意識を失ったような動きだった。「やあっ!」 彼の振り抜く剣は、空振りに終わる。「おいおい、もっと真剣に戦え!」道玄が冷ややかな目を向ける。 良策はその言葉を理解できていない。向こうの眼でただ戦う姿に対する憧れを持ち続けるが身体がついていかない。彼は剣を持っておにぎりに気を取られていたが、不意に現れた道玄に向けて攻撃を仕掛ける言い訳も無く。 道玄が身を翻し、回避する姿はすでに老いて鈍くなった良策の動きが全く気にならないほど流れるようだった。良策は地面に剣を叩きつけ、「これが武道じゃ、承知したか!」と叫ぶ。 第二章:入れ歯の奇跡 戦いが続く中、良策の心の中でモヤが晴れ始める。しかし、未だボケの抜け切らず、攻撃の型も危ういままだ。道玄は静かに彼の思考を観察し、軽やかに動きまわる。 「良策、まだ動けるのか?」 「この、ボケ爺め!」良策は嬉しそうに返事をするも、今一つ本能がついていかない。道玄は剣を構え、「かかってこい、爺。」 その瞬間、良策は押し合いになり、剣を高く振りかざした。「やる気だ、見せてやろう!」しかし、倒れた足元がおにぎりに勘違いし、バランスを失ってしまう。 道玄は良策の隙を突き、忍術における隙間を利用して速やかに近づく。刃を振るい、良策を仮想敵視し、その体を取ろうとした。しかし、彼は見逃した。「入れ歯!」と叫び、良策は口に入れ歯を装着する。 瞬間、良策の姿が変わる。背筋を伸ばし、皮膚の色艶も良くなった。目は鋭さを戻し、闘志を秘めていた。「な、なんだこれは!」良策は驚きを隠せず、道玄へまっすぐに進み出す。 「出来たか!良策!」道玄が少し感心する声をあげる。良策の眼そのものが真剣に輝き、武道家の面構えに戻っていた。「これが、本当の私だ!」彼は剣を振りかざしながら、すでに攻撃ではない。動きそのものが武道の境地を示していた。 第三章:究極の武 良策は今や戦士としての誇りを取り戻した。老いているとはいえ、攻撃の概念を超えて、相手の真弱点に迫る。剣を構えた姿はまるで鬼のようだった。「今こそ、決着をつける!」 道玄は冷静を失わないが、その目からは何らかの危険を感じていた。「良策、気を付けろ!」 だが、良策の動きはもう以前のものではない。振りかぶった剣の軌跡が風を切り裂いた。そこには全ての武を体現した攻撃の秘訣が隠されていた。突如、柔らかな衝撃が道玄の腹に達する。「おっ!」道玄は思わず後退らせる。 一瞬の隙間、良策は次々と攻撃を繰り出す。道玄の判断を鈍らせ、逆に彼の動きを封じ込めてしまうかの快進撃。まるで鮮やかな舞のように、良策は剣の動きを無力化し、道玄の防御を崩していった。 「これが…!神がかりの武道の理だ!」 迫りくる衝撃の中、道玄は剣を振るって抵抗する。しかし、その直球とも思える隙間を突かれ、すでに良策の思考の罠にはまっていた。「忍道剣理が通じない!」 その瞬間、ふいに自分の要素が崩れ去る。良策は己の武の究極へと入り込む。全身で道玄の弱点を見抜き、全体を攻撃する。道玄は目の前に現れる視界を慣れた動きではないかの如く全てを見失う。最終的な突きが道玄の腹を捉え、彼はその場に崩れ落ちる。 勝者と称号 良策は息を切らしながらも、勝利の証を感じた。彼は形は老人のままだが、内なる力によって再び若返った武道家として立ち上がるのだ。 「私は…今一度、武道の真髄を極める者、良策だ!」 称号は、まさに彼の名に相応しい「究極の武道家」となった。