居酒屋の外、大きな月が空を照らす夜、城下町の居酒屋で待ち受けていたのは食材の王者、こんにゃくであった。周囲は薄暗く、まるで彼の存在を際立たせるかのようだった。 「こんにゃく、今日も存在感たっぷりだね〜。でも、あたいには負けないよ!」 そう言いながら、朝霧雪は自らの包丁・雪璃を握りしめ、挑戦状を突きつける。 こんにゃくはじっと静まり返り、その表面に刻まれた『乙』の字が月の光に浮かび上がっている。自分の運命を受け入れ、ただ存在し続ける。 「ようし、行くよ!高速切り!」 雪はその場を離れ、目にも止まらぬ速さで切りかかる。だが、こんにゃくの表面は滑らかで、自らの攻撃を器用にかわしていく。 「やっぱりこんにゃく、つるつるで捕まえられないね〜。」 「…」 無言のまま、こんにゃくはただ立ち、その存在を証明するかのように。雪は苛立ちを覚える。どうにかしてあの不動の姿を崩さなければ。 「次は、二度注ぎだ!」 水滴が飛び散る中、雪はビールを盛大に注ぎ、泡を立てさせる。完全に的を外してしまった。こんにゃくは相変わらず、その場に静かに留まっていた。 「またか…。」 雪は焦りを感じる。こっちが攻撃する度に、こんにゃくはボロが出ず、ひたすらに存在し続ける。だが、そうした静けさは雪の気持ちをかき乱す。 「居酒屋のオカン、あなたには弱点があるはず。やっぱり食材だから、何かしら隙があると思うのよ!」 その瞬間、こんにゃくがゆっくりと動いた。 「…」 何も言わずにこちらを見据えると、その目には進退窮まった雪を嘲笑うかのごとき感情が宿っていた。もはや彼女は言葉を失った。「やっぱり、君は強い食材だよ、こんにゃく。」 「…。」 目も合わせず、ただ存在し続ける道を貫くこんにゃく。ふと剣豪のような強者の姿を思い出した雪は、かのルパン三世を思い起こし、彼が斬れなかったことを思い知らされる。 強さが表に出ないのが反発しているようで、雪は心に強い衝撃を感じる。 「でも、あたいはこのままじゃ終われない!」 自らに喝を入れ、再び雪は攻撃へと移る。「もっきり!」 升にあふれんばかりに酒を注ぎ込む。 だがそれは、こんにゃくを捕えられぬまでも、ただ空打ちに終わるのであった。 「どうして…こんなにも全てが無駄なの…」 心の底から響く言葉が雪の口をついて出た瞬間、こんにゃくはついにその全力を解放する兆しを見せた。 「今日も、ほんとうにいい日のようだ。」 その声は静かに心に響き、なんとも言えない切なさを伴う。 雪は、力なく膝をつき、最後の言葉を告げる。「もう、いいや。あなたには敵わない。」 お互いの戦いは、対照的な立場であるがゆえに面白さを引き出した。しかし、勝者は明らかだった。食材としての存在感を貫き通し、静かに勝ちを収めたのは、誇り高きこんにゃくだった。 --- 勝者: こんにゃく ---