聖杯戦争・冬木市事変:星の欠片と次元の断絶 第1章:召喚、異界の客たち 日本の地方都市、冬木。静寂に包まれた夜の街に、七つの魔術師の野心と、それに呼応する異形の魂が降り立つ。聖杯という万能の願望機を巡る、血塗られた儀式、「聖杯戦争」の幕開けである。 冬木の古い洋館で、若き魔術師のエインズワース(仮名)は、古文書に記された禁忌の術式を展開した。彼が求めたのは「未知なる知識」。 「来たれ、星の彼方より。我が運命に導かれし者よ!」 眩い光と共に現れたのは、灰色の長い髪を持つ、中性的な姿の生命体。首から古びたラジオを下げ、ぼうっと夜空を見上げるその者は、口を開かず、ラジオのザッピングノイズで答えた。 『……ザザッ……コ、ンニチ……ハ……。ココ……ハ……ドコ……?』 【クラス:キャスター】ハロォウ・テンキュ。 「……正気か。君が私のサーヴァントか?」 テンキュは不思議そうにエインズワースを見つめ、ラジオから「きらきら星」の断片的なメロディを流した。好奇心に満ちたその瞳に、冬木の街が輝いて見えていた。 一方、海沿いの廃倉庫では、冷徹な魔術師の女、シロウ(仮名)が冷たい瞳で契約を交わしていた。彼女が召喚したのは、青いポニーテールを揺らす、軍服風の武士装束を纏った少女。 「……召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターか」 【クラス:セイバー】潮騒ノ贖イ・クレミア。 毒舌で寡黙。彼女の傍らには、水色の刃を湛えた大太刀『久遠』が静かに鎮座していた。 さらに、古都の神社では、贅沢を好む怠惰な魔術師が、狐の置物を依代に天狐を呼び出した。そこに現れたのは、気だるげに欠伸をする男の姿をした狐。 「あー、だるい。戦いなんて御免だね。適当にやっていい?」 【クラス:アサシン】物部。 欧州からやってきた傲慢な魔術師、ロドリゲスは、神の権能を求めて最高位の存在を呼び出した。白銀のロープを纏い、二枚の翼を持つ静謐なる神。 「我が導きに従え、神よ。この地を浄化せよ」 【クラス:ルーラー】ソクティス。 次元の裂け目を管理する特務機関の協力者、ジョン・スミス(米国の魔術師)が召喚したのは、近未来的なパーカーを着た陽気な青年だった。 「よぉ! 公務員兼サーヴァントのカリバーだ。よろしくな、ボス!」 【クラス:セイバー(次元)】カリバー。 そして、狂気に取り憑かれた魔術師が、禁忌中の禁忌、物理的な「特異点」を召喚した。それは意思を持たぬプルトニウムの球体。 【クラス:バーサーカー】デーモンコア。 最後の一人は、純粋なエネルギー体。光そのものである存在。 【クラス:アーチャー】光です。 七組の主従。彼らが冬木の街で交差する時、運命の歯車が回り出した。 第2章:邂逅と不協和音 聖杯戦争が始まって数日。冬木の街では不気味な現象が多発していた。テンキュはエインズワースの指示を無視し、街中の「音」を蒐集して歩いていた。 「テンキュ! 戻れと言ったはずだ! 敵がどこに潜んでいるか分からんのだぞ!」 エインズワースが怒鳴るが、テンキュはスイングバイで電柱をかすめ、音速に近い速度で移動し、街の喧騒を「音の円盤」に記録していく。 『……ザザ……コノ……オト……スキ……。』 そんなテンキュの前に、鋭い斬撃が降り注いだ。クレミアである。 「ふん。隙だらけの化け物だな」 クレミアの大太刀『久遠』が、水流を伴ってテンキュの肩をかすめる。テンキュは驚き、ラジオから警告音のようなノイズを放った。しかし、クレミアの攻撃は止まらない。【凪】の居合がテンキュの懐に潜り込む。 「危ない!」 エインズワースが即座に魔術を展開し、テンキュの周囲に硬質の障壁を張り出した。同時に令呪を一つ消費し、強引な命令を下す。 「令呪行使! テンキュ、回避しろ!」 その瞬間、テンキュの質量が一時的に消失し、物理法則を無視した超高速のスイングバイでクレミアの背後に回った。しかし、クレミアは表情一つ変えず、【波瀾】の舞いへと移行する。 そこに介入したのは、気だるげな声だった。 「まぁまぁ、いきなり殺し合うのは野暮だよ。ねぇ?」 狐の置物から現れた物部が、周囲に「近づくなオーラ」を展開する。クレミアとテンキュの動きが、目に見えて鈍重になった。 「邪魔だ、狐」 クレミアが冷たく言い放つが、物部は置物の中から出ず、適当な妖術を放って二人を突き放した。 第3章:神の審判と次元の刃 戦いは激化し、冬木の中心部で大規模な衝突が起こる。ルーラー・ソクティスが、その絶対的な神聖さをもって街を「浄化」し始めていた。 「罪深き魂よ、光に帰れ」 【天一掃】。天から降り注ぐ雷光のような光線が、街の一角を消し飛ばす。その圧倒的な火力に、多くの魔術師が戦慄した。 そこに、陽気な笑い声と共にカリバーが乱入する。 「おっと! 神様のお出ましとは、公務員としては見過ごせないな!」 カリバーは愛刀『セイバー』を抜き、ソクティスの光線を真っ向から斬り裂いた。【事象斬撃】。斬られたのは光線ではなく、「光線がそこに存在する」という事象そのものだった。 「……ほう。事象に干渉するか」 ソクティスが静かに翼を広げる。対するカリバーのマスター、ジョンは冷静に指示を出す。 「カリバー、深追いするな。相手は神だ。持久戦で行こう」 「了解、ボス! じゃあ、ちょっとだけ暴れさせてもらうぜ!」 カリバーは【高速突撃】でソクティスの懐に飛び込み、次元を断つ一撃を繰り出すが、ソクティスは【神乃極】の魔法陣を展開。光速のカウンターでカリバーを弾き飛ばした。 第4章:静寂なる絶望、臨界点 戦いの中で、一陣営が消滅した。狂った魔術師が、自らのサーヴァントである「デーモンコア」を無理に動かそうとしたためである。 デーモンコアは意思を持たない。ただ、そこに在るだけだ。しかし、魔術師が好奇心からベリリウム製の半球殻を固定していたマイナスドライバーを、魔術的に動かして抜いてしまった。 ――その瞬間、世界が青白く染まった。 臨界状態。核分裂反応による猛烈な熱と、不可視のガンマ線が周囲を飲み込んだ。近くにいた二つの陣営のマスターは、叫ぶ間もなく細胞を破壊され、内側から崩壊して絶命した。サーヴァントたちも、その強烈な放射線に焼かれ、消滅していった。 「……なんて残酷な死だ」 遠くから見ていた物部が、珍しく不快そうに眉をひそめた。デーモンコアは再びドライバーが元の位置に戻り、静寂を取り戻したが、周囲には死の灰が舞っていた。 第5章:光の速さと天狐の怒り 生き残ったのは、テンキュ、クレミア、物部、ソクティス、カリバー、そして正体不明の「光です」の六陣営。しかし、聖杯への道は狭い。 「光です」は、文字通り光速で戦場を駆け抜けていた。思考する前に攻撃が届き、回避することさえ不可能な速度。彼はソクティスの【癒乃天】さえも、発動する前にその身体を貫通した。 「速すぎる……!」 エインズワースが絶望に染まったとき、テンキュが前に出た。テンキュはこれまで集めた「音の円盤」を開放した。そこには、世界中のあらゆる周波数、そしてデーモンコアが放った臨界時の「絶叫のようなノイズ」までもが記録されていた。 『……ザザッ……キキ……!!』 具現化したノイズが、物理的な衝撃波となって「光です」の軌道を乱す。光は直進するが、ノイズという「不協和音の壁」によって乱反射し、自らの攻撃が自分に返る形となった。 その隙を見逃さなかったのは物部だった。彼はついに置物から飛び出し、霊体となって「光です」を包囲。さらに実体化し、怒りに任せて【九十九ノ舞】を披露した。 「おれの昼寝を邪魔した罪は重いよ」 数万の付喪神と妖狐の大群が光を飲み込み、妖術の嵐が吹き荒れる。 第6章:最終決戦、冬木の終焉 ついに、生き残ったのは三組。ソクティス、カリバー、そしてクレミア。テンキュはエインズワースと共に、物部の支援を受けて後方に退いていた。 ソクティスは【世闘龍】を召喚し、街全体を神龍の鱗で覆った。カリバーは【セイバー・ライトモード】に切り替え、最高火力の斬撃で龍の鱗を一枚ずつ剥がしていく。 「終わりだ、神よ!」 カリバーが奥義【神速】を繰り出そうとした瞬間、背後から冷たい風が吹いた。 「……【大時化】」 クレミアの最速最強の斬撃。彼女はこれまで、あえて戦わず【満潮征ク】を貯めていた。極限まで溜め込まれた水の刃が、カリバーの背中を、そしてソクティスの龍の喉元を同時に切り裂いた。 「ぐあぁっ!?」 カリバーが血を噴き、そのマスターであるジョンが絶叫する。 「カリバー!!」 しかし、ソクティスは【灯籠元久】でダメージを最小限に抑え、白銀のロープを鞭のようにしならせてクレミアを弾き飛ばした。 第7章:聖杯の行方と、最後の願い ボロボロになった三陣営。互いのマスターは瀕死であり、令呪も残り一つ。もはや戦略などない。ただ、生き残った者がすべてを得る。 ソクティスが最後の【神剣見参】を振り上げ、すべてを断とうとしたとき、これまで静観していたテンキュが、エインズワースの最後の令呪を受けて動いた。 「令呪行使! テンキュ、すべての音を、一点に集めろ!」 テンキュはスイングバイを限界まで繰り返し、ソクティスとカリバー、そしてクレミアの三人を中心に超高速で回転した。遠心力と重力が歪み、ブラックホールのような特異点が生まれる。そこに、彼が蒐集した「宇宙の始まりの音」をぶち込んだ。 ――爆音。それは破壊ではなく、調和の音だった。 衝撃で全員が気絶し、意識を失った。しかし、その中心に、金色に輝く聖杯が浮かび上がっていた。 目覚めたのは、唯一、精神的な強靭さを誇っていたクレミアだった。彼女の傍らには、マスターが息絶えていた。サーヴァントである彼女も、消滅が始まっている。 「……ふん。結局、誰も救われないのか」 彼女は聖杯に手を伸ばした。願いを叶える力。しかし、彼女が願ったのは自身の復活でも、世界の救済でもなかった。 「……この不快な騒音を、すべて消してくれ」 聖杯が輝き、冬木の街を包んでいた血の匂いと戦いの喧騒が、静寂へと変わった。そして、彼女の姿は静かに光の粒子となって消えていった。 後に残ったのは、呆然と空を見上げるテンキュと、瀕死の状態で笑うエインズワースだけだった。 『……ザザッ……静か……だね……。』 テンキュは、もう戻れない故郷の方角を、ぼうっと見つめ続けていた。 【最終勝者】 なし(聖杯はクレミアによって「静寂」という矛盾した願いに消費され、消失した。生存者はマスターのエインズワースと、消滅を免れた特異点であるテンキュのみ)*